空想好きの夜端会議

 星が満ちる空の果ては、何色だろう。あなたは考えたことあるだろうか。僕はそれを見たことがないから、名前も知らない賢人の導き出した答えをたぶん、そのまま口に出してしまうんだろう。
 空の果てで、宇宙はいまだに膨らみ続けているらしい。だからそれはきっと黒だ。触れることのできない、孤高の漆黒だ。
 ある彗星は、いいやどうかなと言う。
 膨らみ続けているならば、あのシリウスのようにそれはそれは青い、若い色をしているかもしれない。いやもしかしたら、本当は宇宙は膨らんでなんかいなくて、今まさに煌々と燃えているのかもしれない。この世界は、その焼け跡の灰から生まれたんだ。
「自分の与り知らぬことを知りたいと思い、夢想することはどうしてこんなに心躍るのだろう。」
 彗星の心が星間を駆け夜空に舞うたびに、辺りの温度はぐっと下って、核は怪しく揺らめく氷の花のように輝いた。
「君が何も知らないからだよ。」
 僕はその、尊い生きる無知の渇望を称賛した。
 理想の美しさは本物を見ることで失われる。本物は痛くて苦しい。けれど濁った水面が、何より綺麗に月光を映すように、苦痛の中に美しさは必ずあるものだ。理想を殺した悲しみの中に輝く、剣のなんと鋭く潔白なことだろう。
 彗星の歌う空想は、この夜のとばりで輝く星より、鋭い光を手に入れる力だ。いやむしろ、光すら喰らって彼の空想はさらに大きくなる。そのうち宇宙だって飲みこんでしまうかもしれない。
 その想像は、僕をたまらなく愉快にさせた。銀河団の端の端、氷の塵と水の芥が、宇宙すら飲みこんでしまうことを画策している。
「あなたも、知らないことに心は踊る?」
「もちろん。それ以上に心躍ることなんてないと思っている。」
「同じ心を持っているね。生きる上でまるで役立たずな、危うい心だ。」
 僕はベランダの欄干から身を乗り出した。午前一時の空から降りてきた彗星に、僕は熱をもってして興奮を伝える。
「僕は、僕は、ずっと同じ心の誰かを、翹望していた。こんな大げさな言葉を使ってしまうくらいね。」

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