見出し画像

湯屋に詠う-東京健康ランド まねきの湯-

大輔先輩がやらかした。
ゆうパックの送り状を修正液で直そうとしていた。

うちは店頭での売り上げはあまり見込めないので、一応、営業はしているけど、社長であり店長はネット通販に力を入れている。運営するネットショップは大手のモールから自社ドメインのものまで現在では5つ。僕も1つのサイトで店舗責任者という名前を貰っていて、バイトだけどなんか優越感がある。

出社すればまずはパソコンを立ち上げて受注確認。印刷した注文書を片手に倉庫から商品をピックアップして梱包し、13時を目安に来る佐川の兄ちゃんに受け渡す。大体そのタイミングで兄ちゃんはメーカーや代理店からの新商品やサンプルを届けてくれるから、その商品数によって撮影やサイトへ掲載する準備をする者、引き続き商品を発送する者と別れるのだ。

大輔先輩は今日、その引き続き商品を発送する係だったんだけど、手書きで書いていたゆうパックの送り状を書き損じた。うちの店は基本的に佐川の送り状にプリンターを使って印刷してしまうのだが、稀にゆうパックを希望するお客様がいて、その場合は手書きで宛名を書く。

で、大輔先輩はその送り状を書き損じて、その書き損じた部分に修正液を垂らしていたのだ。

転写紙なのに。

たまたま後ろを通りかかった僕は

「いや・・・それ二枚目は直らないじゃん」

と、冷静なトーンを心掛け突っ込んだんだけど、すぐに耐え切れず笑い転げてしまった。しばらくこれをネタに大輔先輩をイジっていこう。

-----

東京健康ランド まねきの湯

サウナの楽しみを知ってから半年。僕はバイト代から“サウナ予算”と書いた封筒に毎月3千円ら5千円を入れておく。もうちょっと入れておいても何とかなるのだけど、「あと残金980円・・・これで行ける施設は・・・」と検索するのも嫌いじゃない。

サウナは気分が落ち込んでいるときにも行きたくなるし、今日みたいにお腹が痛くなるほど笑い転げたときも行きたくなる。要はいつも行きたくなる。

同じ世代らしき人たちは結構、仲間同士で来ていたりするけど僕はもっぱら一人。周りにサウナ好きがいないのもそうだけど、きっとそういう仲間がいても一人で行っていることが多いかな。親父やおじいちゃん世代の人たちに紛れて、一人黙々と粗相のないようにサウナ、水風呂、休憩を繰り返すのが性に合っていて心地よい。

極たまにだけど、脱衣所とかでおじいちゃんくらいの年の人に

「なんだ、若いのにこんな時間に」

なんて話しかけられて

「今日バイト休みなんです」

って言うと、

「そっか。頑張れよ」

って返される。うちの親父も特に僕に詮索はしないけど、たまにいうのが“がんばれよ”だ。ぼちぼち頑張っている気がしないでもないのだけど、きっともうちょっとしないとわからない。

ここの建物は結構長く営業している。前のお店は10年くらい前に閉店して、その後にまねきの湯が始まったらしい。お母さんはその前のお店に行ったことがあると言っていた。

広く明るいフロントに明るい接客。男専門のサウナ施設とは違う、ファミリー向け施設。土日になると老若男女キャッキャ言ってるときもある。サウナも結構広くて、しっかり熱い。しっかり熱くないサウナもあるんだけど、そっちはしっかり熱くないからあまり人が入っているのを見たことがない。どうあれ色んな世代が同じ浴場で気持ち良い顔をしているのを見ると、何があった日でもそのときだけはとても幸せな気持ちになる。

目を瞑って10分くらい失礼しよう。

-----

奈美ちゃんに詠う

今週末は奈美ちゃんとデートだ。奈美ちゃんは一個下でうちのお店の斜め向かいにある雑貨屋さんの女の子。

元々、あのお店で働く由美ちゃんとは大輔先輩なんかも交えて呑みに行っていたんだんだけど、そこに新人の奈美ちゃんがやってきた。

たぶんこれが一目惚れってやつで、シフトを終えて遅れてやってきた奈美ちゃんは、明らかに人見知り全開で、無理やり頬を釣り上げて挨拶していた。

(き、きた・・・・)

僕は好みのタイプを聞かれると「人見知りする人」と答えている。そこだけ拾うとよくわからないだろうけど、なんか最初から自分を出せない感じの人に親近感も湧くし、なんなら男性への警戒心も少し高めに設定してくれているほうがどこか安心していられる気がする。

少し細身で背は160cmちょい。気持ち明るくした髪は肩に少しかかるくらい。教室で言えば廊下側の真ん中あたりにいる感じで、部活は吹奏楽とか、図書委員とかやっていたり。まぁ実際奈美ちゃんがそれをやっていたかは大した問題じゃなく、そんな感じの雰囲気を持つ彼女がドンズバなのだ。

先週、勇気を出してお店の前を掃いている奈美ちゃんに声をかけた。

「奈美ちゃんご飯行こう!!」

我ながら若者らしくシンプルで清々しい。若干、条件反射的に「は、はい!」って言ってくれたようだけど、良いのだ。どうあれ行かなきゃ始まらない。

「あ、いーの?二人だよ?」

って僕も言っちゃったけど。

どうなるかなー・・・そもそも彼氏いんのかな。いやいたらさすがに二人って言ってるもの、何かしら理由つけて断ってくれるだろうし。でもな・・・あーいうタイプが意外に変なところ鍵がかかってなくて、結果的には男を泣かせることも・・・悪気がないのが余計に罪ってパターンだ。

うーん。

まぁいーんだ。あと二日もすればどうあれデート。あんまり大したことはしないんだけど、ショッピングモールにある映画館行って、そのままそこに入ってるレストランでご飯にする。

スニーカーは仕事柄、いつもきれいにしているし、服はあれだな・・・帰ってから緊急マジ会議を開始しないといけないな、一人だけど。ちょっと大人っぽくもあるからなー奈美ちゃん。足元はスニーカーだけど、少しちゃんとしている感じがいいな上は。だめだ、帰ろ帰ろ。

-----

3セット目のサウナを終えて、水風呂でついた水滴を拭いて露天スペースへ。寒い寒い。

ぬる~い炭酸源に入りながら、壁にかかったTVを見ている人がいっぱいいる。僕は脈が落ち着いたのを見計らってそのまま露天風呂へ。いっつも奥にある小さい風呂の排水溝がガーガーうるさい。

よし、次に来るときはデートの反省会だな。

この記事が参加している募集

スキしてみて

サポートをいただいた暁には、ありがたく頂戴し新たな記事作成に有意義に使わせていただければ幸いです:-)