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湯屋に詠う-白山湯 高辻店-

パーカーにコートを合わせることが、好きな秋冬コーディネートの1つだ。

秋であれば薄手のコートだし、真冬であればウールや羽毛の入ったナイロンコートと合わせたりする。上手く表現できないが自分の中で”カジュアルな大人”はこんな感じなのだ。

そういえばパーカーは何かの記事で「ポケットがついているタイプは子供っぽさが出てしまうので、大人の男はないものを選んだほうがベター」と書かれていたが、

「あらあの人、ポケット付けてる。子供っぽい」

とは、どんなアイテムにも思ったことがないので引き続きスルーしていく予定だ。あとパーカーではなくパーカらしいが、こちらもスルーしていく。

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白山湯 高辻店

昨年の10月、今よりは諸々のことが幾らか落ち着いていたこともあり、京都へ向かった。

秋には少し休みを取って旅行へ行くのがここ数年のお決まりで、当初は未踏の地・香川県に行く予定だったのだが、紅葉がはじまる少し前のこの時期なら空いているだろうと察し変更した。

旅の前にも少し時間があったので、訪れたいお寺や飲食店、雑貨屋に銭湯情報を予めグーグルマップにマークしておいたおかげで随分効率よく周れた気がする。帰りの新幹線は旅の最後をどこかの銭湯で締め、終点東京駅まで爆睡しようと21時台発を選択しておいた。

大通りから少し入った住宅街にあり、”天然名水”の看板を掲げた白山湯の高辻店は外観からも温かみがあり、地域に愛されている雰囲気が感じ取れた。一見の観光客がお邪魔しても良いものか一瞬だけ考えたが、それは本当に一瞬だけで高ぶる気持ちを抑えつつ静かにドアを開ける。

入浴料450円。サウナの別料金なし。

数日前に訪れた銭湯でもサウナの別料金はなかった。何ともありがたい。

さっそく向かった浴室は入り口でフットシャワーがお迎えしてくれる。話は聞いたことがあるが銭湯は勿論、サウナ施設でも殆ど見ない、されどとても素敵なシステム。入るときも出るときも足元を綺麗にした状態で出入りできるのだ。

地元企業の広告が入った鏡を楽しみながら身を清める。時は大阪都構想の投票まで数日を待つばかり。身体を洗いながらその話をしている常連さんもいらっしゃる。

「東京のようにはいかん」

勉強不足のため(そうなのか)と素直に思いながら頭を洗った。

内湯は浴場の真ん中にあるジャグジーを備えた円形状で深めのものに加え、壁側には有名な水風呂と薬用湯風呂。これに露天風呂もあるのだから種類も広さも十分すぎるほどだ。

人気店ともなれば平日とはいえ、この後の時間から混み始めるだろう。程よく身体を温めたので入り口に立てかけられたサウナマットを手にサウナに入る。

(熱い・・・)

100度超えの設定。でも湿度とのバランスが取れているので12分は入っていられるだろう。そこまで広いわけではないが、室内の両端に向き合って座るタイプで出入りにもさほど気にする必要はなさそうだ。下段の端っこ、

目を瞑り10分ちょっと失礼することにする。

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小百合に詠う

京都に来る一週間ほど前、偶然にも小百合からメッセージがきていた。

「あー、また呑みに行きたいなぁ」

数年に一度、何かしらが上手くいってない、いやほぼ旦那と上手くいってないときにこの類のメッセージが届くのだが、間もなく京都へ行くとは言わなかった。

もう女友達の多くは家庭がある。下手に気を使いすぎるのかもしれないが、そういう友達に自分から連絡することや、長いメッセージのやり取りをすることは殆どなくなってしまった。だけど彼女らが家族と共に奮闘する日々の生活の中で、ふと何かの拍子に自分のことを思い出してくれることに関しては、年を重ねるにつれ有難く感じるようになっている。

知り合った頃、小百合は京都でバスガイドをしていた。好きなアーティストのライブと観光を兼ねて東京を訪れており、友人の友人の友人くらいで初対面を迎えた。

小百合は笑うと七福神にいそう・・・という表現が妥当かどうかわからないが笑顔が素敵で、普段の言葉遣いは柔らかく、全体的に温かい雰囲気をまとっている小柄な子だ。なんとなく「あぁ京都の人っぽい」とこちらが勝手に持っているイメージをそのまま体現してくれている部分がある。

一方、こちらからすると割と突拍子もないこともたまにする子で、一度ラーメン屋のテーブルで料理を待っていたときに「そうだ、お昼に食べきれなかった唐揚げがあるんだ」と鞄から取り出し食べ始めたときは笑った。

いつかの秋、上手くいかないことが重なり、大してお金もないものだから青春18きっぷを買って突然、旅に出たことがあった。路線図を眺め「一先ず西へ行くか」と東海道本線に乗り、名古屋や京都など、一週間ばかり転々とした。

京都にいることを伝えると、小百合は仕事帰りに四条烏丸の交差点に来てくれて

「ほんまにおる!!」

と喜んでくれた。

生憎、旅に出ている理由は深く話せる余裕がなかったのだが、町屋の居酒屋を出て歩きはじめると小百合は手を優しく握ってくれた。小さくて暖かい手と、秋の心地よい夜風に吹かれながらしばらくそうしていた。

その日ごとに予定を決め、宿も転々としていることを話すと「それなら明日はうちに泊まってくれていいのに」と言ってくれたが、彼女に甘えてトチ狂いそうな自分がいなくもなさそうな気がしたので気持ちだけ有難く頂戴した。翌日も彼女の仕事帰りに待ち合わせをして、食事の前に祇園周辺を少し案内してくれた。(バスガイドとデートするとこんな特典があるのか)と感動したことをよく覚えている。

今、彼女のInstagramは9割が二人の子供、残り1割が旦那と自分の写真だ。たまに届く溜息交じりのメッセージの後でも、数日後には家族4人が満面の笑みで写る写真がアップされることもある。その度に(お、今回も大丈夫そうだな)とイイネを押す。

勿論、あの時のお礼じゃないが本当にマズそうなときはいつでも電話や京都に向かう心持ちではいる。ただそんなことが永遠に訪れないことを引き続き願っているのだ。

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名物の天然水はライオンの口を通して凄い勢いで水風呂へかけ流されている。

(水風呂も水質でこんなに違うものなのか)

深めの浴槽に沈み、不純なものを感じない水に包まれて感動する。水分補給もこの地下水から摂れば、あとは露天スペースでの外気浴だ。

東京都心ほどではないが、決して真っ暗でもない町。それでも星は東京よりはっきり見える。訪れたディープリラックス状態で少し涙が出た。

よい旅だった。


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