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【起業】一戸建て賃貸業ノウハウ⑹法律改正

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最初から読み返す【起業ハウツー読解】一戸建て賃貸(その1)

大改正による影響を予測します
 本稿は、令和6年度に施行された、不動産関係法規の改正を2点お伝えします。
 不動産業界にとって、大改正と呼ぶに相応しい変革であり、内容について、ざっくり分析と評価を行い、「一戸建て賃貸というビジネスモデルにどのような影響があるのか」という観点での予測を申し上げます。
 もちろん私の勝手な予測に過ぎませんが、何か変化があるぞという感覚で読んでいただければ、お伝えする甲斐があり大変有難いです。


1 不動産登記法

改正の概要

「不動産登記法」改正は令和6年4月1日に施行され、相続した土地建物の登記が義務化されました。
 改正ポイントは3項目あり、簡記します。
①土地建物の相続開始から3年以内に登記すること。
②過去の相続不動産も、令和9年3月末までに登記すること。
③相続不動産を一部だけ登記し、かつ、すべて登記しない場合にのみ、過料10万円が賦課されること。
 
 相続人に不利益をもたらす改正ですから、経過措置として令和9年3月末までの猶予期間が設けられています。
 しかも、令和9年4月以降に登記してしまった場合でも、③の過料10万円(行政罰)には「正当な理由」という宥恕規定が設けられ、登記官の裁量が認められていることから、ほぼ伝家の宝刀にあたるでしょう。
 令和5年9月12日付通達(DL)を一読した限り、行政上の不利益処分に慣れていない官庁だなという印象を抱いたからです。
 やはり過料は、消極的な行政処分であり、広範な牽制効果にこそ狙いがあると、私は読み取りました。

分析と評価

 相続した土地建物を登記していないケースは、相続人あるあるです。
 相続人は、不動産登記と関係のある生活をしているわけではないので、登記手続きの敷居が高いことはわからないでもありません。
 しかし、改正の経緯は、そのような安直な放置が蔓延し、未登記物件の数が増え過ぎたことにあり、ようやく政府が重い腰を上げた感じなのです。
 施行して半年が経過した現在、申請数は公表されていませんが、思ったよりも申請が少ないのではないかと思われました。この流れだと、令和9年3月末に登記が集中すると見込まれます。

 評価としては、令和9年3月末までに登記される不動産は、流動性が見込まれる、つまり、手放す気が明らかになるといえますが、安くても売る気なのかな?と疑問符が付きます。
 一方で、令和9年4月を過ぎても放置されている土地建物は、流動性がないと見限り、ガン無視いたします。
 相続登記されず売買できない家屋は、放置されて老朽化していますので、一戸建て賃貸の仕入れ対象とはならないためです。

予測

 一戸建て賃貸にとっては、眠っていた相続物件が掘り起こされるように思われますが、メリットはあまりないと考えられます。
 家屋はたった1年放置されただけで急速に劣化するため、数年間放置された家屋は、特に屋根と水道のことを考慮すると、ほとんど修理が難しいので、市場に出回っていても容易に手を出すべきではありません。

2 宅地建物取引業法

改正の概要

「宅地建物取引業法」改正は令和6年7月1日に施行され、宅建業者の報酬限度額が増額されました。
 改正のうち、仲介売買について簡記します。
①売主からの報酬の上限金額が引き上げられて、8百万円以下の売買の報酬上限が33万円に引き上げられたこと。
②買主からも上限33万円の報酬を受け取れること。

宅地建物取引の問題点

 不動産取引は、売主と買主、または貸主と借主、いずれも1対1であり、物件価格、売買条件または賃貸条件という取引要素は、すべて相対となっています。
 これらの取引の問題点は、片方がプロであり、もう片方が素人というポイントに尽きるでしょう。
 不動産業界は「弱肉強食な世界」であり、noteにある全宅ツイの記事がわかりやすいのですが、誇張はあっても虚構のない読み物となっていることに、私は唸ります。全宅ツイの本も購入しました。
 以上のような背景から、およそ不動産取引は、法律により取引内容が詳細に規制されています。つまり、強者であるプロが好き勝手できないよう、明文化されたルールが決められているという歴史的所産があるのです。

強者を有利にする規制緩和
 そのような業界ですから、大改正があれば取引への影響が甚だしく、ときには業種業態の激しい変化をもたらします。
 政府は、空き家を少しでも減らすという目的のため、プロへの規制を大緩和したのですから・・・。

分析と評価

 これまで仲介業者にとって、4百万円以下の物件売買は、成功報酬の上限が厳しく少額なうえに、手間がかかる割には旨味の乏しいビジネスだったので、違法スレスレの調査費用も売主に請求していました。
 だけれども、今回改正によって、なんと1件で66万円の報酬を得られるようになります。
 強者であるプロに迎合した規制緩和のため、仲介業者は遠慮なく上限いっぱいを売主買主の双方に請求するでしょう。 

予測

 仲介業者のモチベーションが爆上がりなので、市場には8百万円以下の物件が増加することは間違いありません。
 これからの仲介業者は、8百万円以下の物件を増やし、積極的に専任媒介契約を結ぶものと予測できます。
 ただし、報酬は上限いっぱいとなる反面、売主に請求していた調査費用というグレーな悪習は減っていくでしょう。

3 傾向と対策、まとめ

傾向
 仲介業者は、売主と媒介契約を結ぶときに、諸費用を希望価格へ混ぜ込むよう囁く、と想像に難くありません。
 これまでは約13万円の調査費用を混ぜ込んでいましたが、今度は33万円と倍以上になりました。
 したがって、物件全体の価格は上昇するものと見込まれます。
 一方で、買主は、いきなり仲介物件の売買価格を下げる交渉を常用するかも知れませんが、不用意な値下げ申入れは、契約締結に至らないシーンが頻発してくると思われます。
 800万円以下の売り物件が、上記の流れで増えても、逆に買主とのミスマッチが露骨となり、棚ざらしになるものと見込まれます。
 繰り返しになりますが、数年間放置された家屋は、市場で出回っていても一戸建て賃貸ビジネスとしては容易に手を出すべきではありません。

対策
 あいにく、私のビジネスモデルにとっては、物件の仕入れにおいて、取得価格が33万円も増えるでしょう。
 増額分を取得価額へ織り込みするため、収益還元率の低いスタートとなり、修理費用に少し余裕がなくなるかも知れません。
 それゆえ、仕入れ先を市場の物件のみとせず、直接売買により仕入れるべくアンテナを張ることが対策となります。
 これからも空き家が新規発生していくことは統計上明らかですから、何も見つからないということはないのです。

まとめ
 
相続不動産の登記義務化により、令和9年3月末までの3年間でかなりの物件が市場取引できるようになり、受け皿として仲介業者が積極的に取り扱う、という変革をお伝えしました。
 そのような市場に対して、一戸建て賃貸ビジネスは、仲介業者を通じた仕入れに金銭的デメリットが増えたと整理しています。
 
 続きは⑺仲介物件の売買契約

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