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美容業界の裏側を描くミステリー、なぜワンショットで撮影したのか?監督来日!映画『メドゥーサ デラックス』高橋ヨシキさんとの対談レポート

『ミッドサマー』(2019)や『LAMB/ラム』(2021)、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)などの話題作を次々と手掛け、映画ファンから絶大な支持を得る気鋭の製作・配給会社A24が北米配給権を獲得し、世界中の映画祭でも話題を呼んだ驚異の英国発ワンショット・ミステリー『メドゥーサ デラックス』が、10月14日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開となりました。

公開に合わせ、本作のトーマス・ハーディマン監督が来日高橋ヨシキさん(アートディレクター、映画ライター)との対談が実現し、なぜ美容業界を題材にしたのか、なぜワンショットにしたのか、などお話しをしていただきました。


登壇すると初来日をした監督
「まず映画をご覧いただき、ありがとうございます。まずそのお礼を申し上げたいと思いました。」と一言。

「様々なレベルの面白さが入っていて、ワンショット、ミステリー、殺人事件の物語だと思っていると、まったく違う次元に持っていかれる」

高橋ヨシキさんからは、まず映画の感想をお話しいただきました。
「非常に楽しく拝見しました。見事な作品だと思いました。様々なレベルの面白さが入っていて、ワンショット、ミステリー、殺人事件の物語だと思っているとまったく違う次元に持っていかれる。長編1作目で、相当な労力と集中力が必要だったと思います。
題材は、ヘアスタイル業界です。映画を観るとき、自分の知らない世界を見せてもらえるのが映画の歓びだと思いますが、今作では美容師さんたちのコンテストの裏側が舞台で、そういう意味でも大変興味深く拝見しました。」

映画『メドゥーサ デラックス』

「高尚なものと低俗ものがピンボールのように行ったり来たりするのが面白いんじゃないか、と思いました」

それを受けて監督
「なぜヘアドレッサーの話を映画にしようとしたかというのは、なぜ映画を作りたいと思ったのか、ということと似ているのですが、いままで機能していたものを壊したい、という気持ちがあります。コメディにも興味があります。一見、すごく謙虚でアプローチしやすいんだけれど、底流には、機能的に脱構築したものがあると良いと思いました。
高尚な部分では、ヘアスタイルという文化的に価値があるもので、低俗な部分では、美容師たちがいろいろおしゃべりして、罵りあっている。高尚なものと低俗ものがピンボールのように行ったり来たりするのが面白いんじゃないか、と思いました。
今私たちはインターネット世代にいるわけですが、メディアに対する私たちの関わり方を、この映画でも表したいと思いました。私は、姪っ子たちよくベビーシッティングをしていました。見ていると、youtubeをよく見ているのです。1時間、メイクアップやヘアメイクをするものを、ずーと見ているのです。この世代はロングテイクが主流として認められていると思いました。最近は、iPhoneでの撮影にも慣れていると思いますが、そういうものも意識しました。」と答えた。

映画『メドゥーサ デラックス』

高橋ヨシキさんからは続けて「少し触れられましたが、なぜワンカットでとることにしたのでしょうか。また、ワンカットで撮るときに付きものになる問題があります。それは、映画のペーシングが難しくなるということです。本来映画は、カットを割ることでペースを自由に調整することができますが、ワンショットはそれが難しくなります。そのあたりのことを聞かせてください。」と質問。

監督からは
「映画はいつも発展しているものだと思います。技術の発展とも関わっていることですね。

いつも一時の流行だと思われることがある。30年代のサウンドやステディカムなどです。おそらく初めてワンショットで撮影された作品はヒッチコック監督の『ロープ』だと思います。ただデジタルになって『ヴィクトリア』など、いくつかのワンショット作品が出てきました。

そうなってくると、一時の流行ではなく、新しいストーリーテリングのあり方として、そのジャンルを切り開いた、ということになります。
私はロバート・アルトマン監督の『ナッシュビル』が大好きなんですが、数人のキャラクターにフォーカスを当てるのではなく、コミュニティに焦点をあてることに興味があります。今回も、コミュニティがバラバラになって、またひとつになることを語りたいと思いました。それにワンショットが良いと思ったのです。ワンショットはストーリーテリングに、難題を突き付けてくるけれど、そこにはリズムがあります。この作品はとても音楽と密接につながっているのです。Korelessという素晴らしいミュージシャンが音楽をやってくれていて、すごくリズミックな作品になっている。

僕自身、テクノ、ダンス音楽が好きなんですが、そのリズムを使ってストーリーテリングをして、それがさらにワンショットになったらどうなるのか、ということで興味がありました。ファッションやヘア、ストーリーテリングとか、映画を構築しているものを壊してみたいという想いがあってこういう映画になっています。」と回答した。

映画『メドゥーサ デラックス』

高橋ヨシキさんはさらに
「面白いと思ったのが、ラストシーンです。ずっとワンカットでやってきて、幻想というか、ミュージカルシーンになって、「ソウルトレイン」のようになっていく。とても意表を突かれました。内容的にはヘビーな話だが、ニコニコして帰ることができる、愛らしさを思いました。どういうきっかけで思いつかれたんでしょうか。」と質問。

監督
「この映画は奇妙な映画で、リアルさとばかげたところが同居しています。登場人物たちは真剣にやっているけれど、ばかげて見える。コメディの神髄だと思いますが、殺人ミステリーだけれど、殺人のシーンがないのです。愛について語っているつもりがあります。最終的にコミュニティがひとつになるということを見せたかったのです。
警備員のギャックが出てきますよね。彼が躍っていますが、ステージの真ん中にいますよね。彼がコミュニティに入れた、ということを示しています。同じ理由で、探偵が出て来ませんが、探偵が殺人ミステリーを紐解いてゆくのではなく、美容師たちがヘアそのもので語ってゆく。
ユージン・スレイマンという非常に有名なヘアスタイリストが、すべてのヘアスタイルを手掛けてくれました。ヴィヴィアン・ウエストウッドやコム・デ・ギャルソンや、ガリアーノと一緒にやってきた方です。彼は、ヘアを使ってストーリーテリングをしてゆくことを提案してくれました。
なるべく多くの人が楽しめるような経験にオープンでいたいと思いました。それと同時に今までのものを壊して、よりモダンで現代的なものを作りたいという気持ちもありました。」

映画『メドゥーサ デラックス』

高橋ヨシキさんが最後に
モデル・アンジーの髪型に乗っている船は、オリエント号(L'Orient)ですね。ナイルの海戦で、自分の船に積んでいた爆薬に引火して沈んだフランスの旗艦です。
それが実際に髪に引火して落ちてゆく、という部分、素晴らしいアイディアだと思いますが、それは脚本の当初からあったのでしょうか。髪型を決める前に決めていたのでしょうか。」と尋ねると

監督
「今となってはどちら、とは言いづらいのですが、マリー・アントワネットというのは頭にあって、髪型もちょっとあったかな…。ワンショットとなると普通の脚本を書く時と書き方が変わります。普通に脚本を書く時はこのシーンで始まって、このシーンでつないで、と考えますが、ワンショットの場合、人がここにいたら、ここに誰かがいないといけない、といったような撮影のプロセスも考えないといけないので、脚本もそういった形で書いてゆきます。ヘアスタイルのことが頭にあったのか、今となってはわかりません。

私が最初に作った短編はカーペットについての映画なんです。私はカーペットが大好きなんです。多くの人はカーペットのことを全然気に留めていないと思うのですが、自分の好きなものを人にも好きになってもらえるように、なるべく面白くしたいという気持ちがあるんです。今回もヘアスタイルが大好きなので作品を作ったわけですが、最初カーペットの映画を作るといったときに、みんな笑ったんです。そんなの誰も観ないって。でも幸いなことに、喜んでもらえたので、他の短編を作ることができました。

今回も『メドゥーサ デラックス』の脚本を出したときに、ワンショットで、赤ちゃんが出てきて、そんな映画取れるわけないじゃないか、って言われたんです。

この映画は9日間で撮りました。途中で髪に火をつけると言ったらあり得ないだろと言われましたが、映画を作ることができて、それを可能にしてくれた皆さんにとても感謝したいですし、この映画を、自分としてはとても誇りに思っています。」と答えた。

モデル・アンジー

また、残念ながら時間が来てしまったことを伝えると監督
「最後に一言申し上げたいのですが、日本で上映されるということでとても感謝しています。
今までの人生で、日本の文化にたくさん触れて影響を受けてきました。まさか自分の映画が日本で上映されるとは夢にも思っていませんでしたので、こうやって皆さんに足を運んでもらって本当に本当に感謝しております。外におりますので、なんでもいいので話しかけてください。」と締めくくった。


【映画『メドゥーサ デラックス』全国順次公開中】


物語の舞台は年に一度のヘアコンテスト。開催直前、優勝候補と目されていたスター美容師・モスカが変死を遂げた。担当のモデルが席を外したわずか数分のうちに、奇妙にも頭皮を切り取られた姿で発見されたのだ。会場に集まっていたのは、今年こそ優勝すると誓ってコンテストの準備を進めていたライバルの美容師3人と、それぞれが担当するモデルたち4人。さらにコンテストの主催者やモスカの恋人、警備員を巻き込みながら、事件や人間関係に関する噂をひそひそと囁きはじめる。…

世界で絶賛されたワンショット撮影を務めたのは、ヨルゴス・ランティモス監督『女王陛下のお気に入り』(2018)でアカデミー賞候補となった撮影監督ロビー・ライアン。本作ではキャリア史上最高といわれるワンショット撮影で、瞬きさえ許さない美しさと緊張感を生み出した。
 
本作の劇中のヘアスタイルを手掛けたのは、レディ・ガガのMV「アレハンドロ」のヘアスタイリングをはじめ、業界で生きる伝説として知られる世界的なヘアスタイリスト兼ウィッグアーティスト、ユージン・スレイマン。
30年間、第一線で活躍し、ファッションショーのランウェイで、名だたるブランドのビジョンを具現化するため、ヘアスタイリストとして重要な脇役を務めてきた。
 
監督・脚本は、新鋭トーマス・ハーディマン。手掛けた2本の短編映画が、BFI(英国映画協会)に高く評価され、長編の制作を促された。そうしてBFIと、新たな才能の発掘に積極的なBBC Filmによる支援のもと、本作の製作が実現。そうしてシッチェス・カタロニア国際映画祭やサンパウロ国際映画祭では最優秀作品賞に、またロンドン映画祭や英国インディペンデント映画賞、ファンタスティック・フェストでは新人監督賞にノミネートされるなど、世界の映画祭で話題をさらってきた。
 
ここに名探偵や名刑事はいない。カメラはギリシャ神話に登場するメドゥーサの蛇のごとく、コンテスト会場の廊下をうねりながら進み、部屋から部屋を渡り歩き、関係者たちの間に広がる混乱と真相を映し出していく。その映像を、FKAツイッグスやジェイミーxx、サンファ、カリブーら著名ミュージシャンが絶大な信頼を寄せ、エレクトロニック・ミュージックの若き天才Korelessによる実験的でミニマルな音楽が、効果的に盛り立てる。新感覚、英国発のワンショット・ミステリーが誕生した。


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