『多様性って何ですか?』知らなかったこと。イノベーションとの接続
本書のしょっぱな。「日本人は多様性が苦手な(というか良しとしない)民族なのかな」と思って、諦めてしまいかねない御言葉があらわれる。
『協調性』と『連帯責任』で、みんな力をあわせて成長してきた時代はそれで良かったけれど、いまの時代には合ってないという風潮。
「でも会社の方針は守らないといけないし、聖徳太子のいうことは間違ってない気もする。。」ともやもやを抱えながら、本書をきっかけに多様性についていっしょに考えていきたい。
投資家の期待
企業の行動指針である「コーポレートガバナンス・コード」というものを金融庁と東京証券取引所がつくっていることを本書をよんで知りました。そこでせっかくなので金融庁の資料をみてみようと調べてみたところ、こんな資料がありました。
(文字が小さくてすみません。。末尾のPPTも活用ください)
投資家が注目する情報のトップは『人材投資』。投資家にとって人材投資の情報は企業の将来性の期待をみる大事な指標だ、という話です。IT投資や研究開発費よりも注目している、というのはすこし意外。
では実際どんな情報が開示されているかというと、現状は女性管理職比率や従業員数といった情報が中心で、従業員満足度や離職率は(不都合な真実だからか)開示されていないのが現状のようですね。
多様性ある中核人材
本書でも取り上げられている「取締役会や経営陣を支える管理職層(中核人材)における多様性」。コーポレートガバナンス・コード改訂の3つの柱のうちの1つに位置づけられています。
まだ義務にはなっていないものの、この補充原則を(一部)遵守(コンプライ)している会社はTOPIX100のうち89社。ここでも女性の目標はあるものの、外国人と中途採用にいたっては20社ほど。
人材流動性は高まっているものの「新卒採用されて20年同じ会社にいる人たちのほうが昇進するよね。。」と感じている人も少なくないはず。何十人も同期入社のつながりがあり、長く勤めている分の人脈も信用の蓄積もあるプロパー(生え抜き)は、部署の縦割りの壁を軽々越えられる一方、中途採用(経験者採用)の社員はつてがなく頭を抱えてしまう。。
「そんな状態のままではマズイ」と金融行政は警鐘を鳴らしているものの、この改訂を知っている人はかなり少ないのが実態ではないでしょうか。
すでに米国・英国では「取締役の多様性」についての開示を上場規則とする動きがあり、2022年から適用が始まっています。日本もこれから開示が必須となっていくのかもしれません。
男性と女性の処遇格差
国内でもっとも議論がさかんにされている「女性活躍」も、実態としてはまだまだ他の国に遅れているのが現状です。就業者のうち44.5%が女性、というのは他国と遜色ない一方、管理職に占める女性の割合はダントツに低い13.3%。
「性別や年齢、価値観の多様性の効果が理解されていない」や「男性同士の忖度文化」、「女性同士のネットワークの弱さ」など、女性が働く上での渉外や壁は数多くあるままのようです。
女性活躍が進まないよくある企業の言い訳として「女性だけ特別視する必要あるの?」や「女性がみんなバリバリ働きたいとは限らない」という声が多いとのこと。「多様性というなら、管理職を目指さない女性をみとめないと」なんて言われた日には、「よくもまぁそんな詭弁を!」と怒り心頭してしまいかねませんが、こちらの1枚をみてもらったら考えを改めてもらえるかも知れません。
大学や大学院など、高等教育を受けた人たちが得ている経済的リターン(高等教育の便益(生涯取得の増加分)から高等教育の費用を差し引いて算出)の各国比較で、男性はOECDの平均を上回っています。
一方で、女性はどうか。ほとんどゼロです。日本には女性が十分な処遇を受けられる会社がなく、社会システムがないのです。
多様性を価値あるものにするために
40代50代男性だらけの会議を思い浮かべてください(といわれて喜んでイメージをふくらませる人はいないとは思いつつ。。)。
上の人の発言に対して「異議あり!」と叫ぶ中間管理職はドラマだけの世界。上司に対して「おっしゃる通りです」とまずは同意して「個人的には」と前置きをしながら意見をし、勤続年数が短い人の発言に「(・・・わかってないなぁ)」と内心思っても気にせずそのままに。。
同質性が高く、多様性が低い集団で起こりやすい『集団浅慮(グループシンク)』という集団心理について、米国の心理学者アービン・ジャニス氏が8つの症状をあげています。
このように凝り固まった集団になると「もしかしたら自分たちは間違っているんじゃないか」とか「なにもわかっていないのではないか」のような疑問が入り込むスキマはなくなります。これまで通りのことを効率的に取り組む分には合理的で経済的だった集団も、新しいことをやろうとすると不合理で、危険で、盲目的になってしまうという罠。
ではどうしたら組織の多様性を育めるのか。
ヒントとなる企業の1つが、2019年に「共働き子育てしやすい企業ランキング」で1位となった丸井グループです。ビジョンは「しあわせの実現」。
「女性の上位職志向」は2013年41%から2020年に70%にアップ。
「女性管理職数」は24名から50名となり約2倍に。
管理職向けの無意識なバイアスを取り除くプログラムの実施や女性リーダー研修の実施に加え、『個人の中の多様性』を育むためのグループ横断の職種変更の取り組みに力を入れている点に特徴があります。
多岐にわたる取り組みを、10年以上『手挙げ制』にこだわって実施し、「やりたい人がやる」ことを大切にすることで前向きで活発な風土につながっているようです。
多様性ってイノベーションにとって何だろう?
『イノベーションは新結合』だと、ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターは表現しました。「これまで組み合わせたことがない要素を組み合わせることで、新たな価値を創造する」と。
ニーズとシーズの新結合は、困ったことを解決手段とつなげることで課題解決型のイノベーションを生み出してきました。DXは、業界や組織というシステムにデジタルをつなげることで、情報の流れを新たにつくり、変革をもたらしています。サービスデザインの世界では、BusinessとTechnologyとCreativeの人材が、それぞれの技能と価値観を結合して、新たな価値創造に取り組んでいます。
これからのイノベーションは、顧客価値の発見だけでも、新技術の発明だけでも社会実装できません。ひとりひとりが個人の中の多様性を育みながら、会社と社会のひとびととのつながりを力に変えていく。
チームとシステムとパートナーシップをデザインし、そこに命を吹き込む。日本のいたるところでその躍動が大きくなることを願って。