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狭霧 織花
2023年5月28日 23:21
四大陸物語『お茶会』 うららかな気候の中。ガラガラと音をたてて馬車は走っていた。 御者は危うげなく手綱を操り、馬を走らせる。 有能な御者が操る馬車の中には、修道服を着た女が一人、物憂げな表情で窓の外を見つめていた。 否、物憂げな表情は彼女のいつも通りの様子で、半分近く伏せられたまつげがその印象を強めている。 窓の外を流れる風景に目をやるともなしに眺めながら、修道服を着た女は小さくため
2023年5月21日 22:58
彼は、人当たりが良くて人望があり、人の間に入っては仲を取り持つこともありながら、さりとて押し付けがましくなくただたたずんでいる。 ものすごくできるひと、と評価されるほどではないけれど、なんとなく皆が良いイメージを持っていて話題にのぼる。 彼は、私にとってある種憧れの人間だった。世の中をうまく渡っていけるひと。 けれど、彼にとっては違ったらしい。 終業後にたまたま会議室で片づけをしながら二
2023年5月6日 20:47
これは、ある女の手記。その一節。 その日のために、特別な何かを探しておりました。 遠くへと旅立つ可愛いあの子に、何かをしてあげたいと、何かせねばなるまいと探しておりました。 何日も前から考えていたというのになにも思いつくことができず、いよいよその日は目の前に迫るものの、夜更けになっても思いつきません。 あの子の旅立ちの餞となるような、ありきたりなものではない素晴らしいものをあげたいと思