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【番外編】なぜ商品である野菜を畑に廃棄するのか“地方移住のコレいい、コレあかん”

コロナ発症者の情報が何故かマスメディアより早い、しかしその半分はガセだったりする。人のうわさ話に尾ひれをつけるの大好き、それが地方です。

さてさて。

少し気になったことがバズっていたのでちょっと書いてみた、の巻。

地域移住のコレいいコレあかん番外編“農産物の廃棄とは?” ※超初級編

Twitter民の方は上記の書き込みを読んだ方も多いのではないでしょうか?

確かに状況をよくわからない方からしたら食料である大根が大量に捨てられている図としか読み取れないのも仕方がないかと思います。

ここでは“なぜ商品である野菜を廃棄するのか”を中心に農業生産における食品ロスについて、考えてみたいと思う。

① まず少し落ち着いて考えてほしい。

このTwitterをアップした主は生産者についての苦情を書き込んでいる。これについてははっきりと苦言を申し上げる。落ち着いて少し考えたらわかることである。生産者は商品を“生産”し“販売”することで収益を上げている。その生産した商品を販売せずに廃棄しているのである。

一番悔しい思いをしているのは“生産者”である。

誰が好き好んで廃棄などしたいものか。でもせざるを得ない状況になっているのか?そこにどんな理由があるのか?

ここまでは少し落ち着いて考えればわかる話であるが、何故かここまでたどり着かない人が多い。稚拙な議論で終わってしまうことが多いのは残念です。

② 何故廃棄をするのか?

答えは一つである。「お金にならないから」である。お金にならないから一番お金のかからない方法で処分するのである。

「いくら安くても販売する方がいいんでは?」

との声も聞こえてきそうだが、それは違う。「販売すれば販売するほど赤字になる」のである。そんなことありえるんかーって思う人もいるかと思いますが、ここについては後ほど。

ちなみに“廃棄”という書き方をしているが、正確に書くと最終的には堆肥化させて畑に漉き込んでいる。一般的な“廃棄”とはやや印象が違うかもしれないので、書き留めておく。

③ なんでお金にならないの?

ここについては複雑かつ長年の農業の問題点も重なってるので、丁寧に書くと「なんのこっちゃ?」てなりますのでかなり簡素に書いてます。よく知っている人から見るとやや稚拙に感じることもあると思いますが悪しからず。

上の図にもある通り、今でこそ直売所やらECやら農業者の販売ツールは多くなってきているが、それでもいわゆる卸売市場を経由する流通が多くを占めており、国産野菜に関しては未だに約8割は市場経由と言われている。

※市場流通の良しあしについてはまた別の回にしてみよう!

この卸売市場の特徴は「価格は市場原理に委ねられる」のが特徴である。要は供給量に対して需要が高ければ価格は跳ね上がるし、供給量に対して需要が低ければ価格は下がる。

今回の廃棄についてはここの需要供給バランスにおいて、需要に対して供給量が圧倒的に多くなり、価格が暴落したことが起因している。どのくらい価格が暴落したかと言うと、「段ボール代や物流費が賄えないレベル」まで暴落している

簡単にではあるが、市場出荷に関しての取り分は以下のとおりである。

≪大根10本1箱のケース≫ ※市場で1箱1,000円の価格がついた場合の概算
(A)卸売市場(荷受け)80円
(B)集出荷団体(JA・地域商社など)50円
(C)出荷経費(段ボール代・その他資材代)150円
(D)物流経費200円 
(E)生産者手取り520円

なお皆様のお手元に届くにはここから“仲卸”と“小売り店(スーパーなど)”が入るので約3割ほど上乗せになる。上記の例でみると大根1本150円くらいで販売されていることになります。

この経費取り分で(A)と(B)については歩合になるので価格によって変動するが、(C)と(D)については固定費として掛かってくる。今回廃棄するに至った理由は、(C)と(D)の固定費合計額350円より市場価格が下がってしまい、出荷すればするほど赤字が膨らむという現象が起きたことによるものなのです。

おそらく12月初旬、大根やらレタスやら白菜が店頭で安く販売され「ウッヒョー!ラッキー!!」と感じた消費者は多いかと思うが、裏ではこのようなことが起きていたのである。

物事の裏がわかれば少し面白いよね。

④ 何故需要供給バランスが崩れたのか?

上記の通り、簡単に言うと「供給過多」となってしまったのが原因です。大根需要は例年として主に冬場の、さらに言うと年末に需要がかなり伸びる野菜です。消費者の皆様もなんとなく、冬場に需要が伸びるのは分かる方も多いかと思います。そしてその時期に多く収穫できるよう、大根農家は種を植え、育てるのです。

農産物は育てるのにリスクがあります。その中で農家は天候不順や病気など様々なリスクをデータベース化し、収益化できる数を算出し植え付けをします。例えば市場出荷する規格に育つ確率(秀品率)が80%であり、大根を8,000本出荷できれば収益化が出来る場合、最低でも1万本を植え付けるわけです(当然場合によってはそれ以上)。

喜ぶべきなのか、今回は著しく秀品率が高く(つまり豊作です)、さらに温暖な気候により想定していた年末より早く大根の収穫期を迎えてしまったわけです。農作物はそのまま畑で寝かせることが出来ない上(成長しすぎると規格外になる)、収穫後も鮮度が関わるのですぐに販売しないといけません。その結果、需要が上がりきらない秋過ぎに大量の大根が市場に流れ込んでしまい、需要供給バランスが崩れることとなってしまったのです。

これが農家の「豊作貧乏」の由来となります。

⑤ ではどうすればいいのか?

(生産者としては)
気候条件などは当然どうしようもない。産地形成しているエリアで単一作物を作っている農家にとっては焼き石に水程度だが、様々販路を持つことは多少効果はあると思われる。市場流通以外にも“商社や小売店への直販”や“産直EC”など売り先を複数持ちポートフォリオを組むことは、大切になってきてます。どこが売れてどこが崩れるか、今回のコロナウイルスの件もあり、先行きがわかりにくくなっているからこそ、リスクを最大限軽減化させる努力は必要になります。

(消費者としては)
適正価格で買うことを心がけてほしいが、そもそも適正価格というものがなかなか難しいし、ここには流通業者や小売業者の思惑も大きく関わってくる。その中、私としては正しい知識を付けることが農業に関する支援の第一歩であると思っている。おそらく“国内の農家さんを応援したくないです”って人はいないはず。農業に対しての知識、農家さんについての知識を付けることが応援する一つの大きなきっかけになると思います。

⑥ Twitter上の意見について(大反論)

「近所の人に配ったらいいのに」
→田舎あるあるですが、近所も皆さん農家で同じく商品が飽和しまくってます。特に産地形成しているエリアにおいてはなおさらです。その中で近所の方に「ありがた迷惑」と思われながら人件費をかけて配る作業が地域として良い事ではないですよね。

「廃棄するくらいなら慈善団体などに寄付すれば?」
→賛否あるかとは思いますが、生産者が進んで寄付する場合は構わないが、外野からは「寄付くらいしろやゴラァ!」って吠えるのはナンセンス。また「寄付する」ことはその分の「市場性」が失われることにもなるので、そのしわ寄せがさらに生産者に返ってくることにもなります。特に「大根」という鮮度も大事なうえ消費を大きくしにくい商品についてはなおさら。誰が毎日1本ずつ大根食べるねん。

「SNS等で発信すれば、少し安くても販売できるのでは?」
→できません。あなたの近くのスーパーで1本80円で販売している大根がある環境下で、1本50円だとしても車で1時間かけて大根だけ買いに行きますか?又は10本2,000円(50円/本、送料1,500円)で通販で買いますか?

「切り干し大根などに加工したり、加工会社に卸せば?」
→大根農家は半端ないほど大根を作ってます。急な対応としてその大根を切って干してパッキングする手間暇や場所、人件費を考えるとプラスはなりません。また、市場原理で供給過多と言うことは加工会社も飽和状態となってます。

以上のことを鑑みると、廃棄することについては判断として一定ありなのだと考える方も多くなるのではないでしょうか?

最後になりますが、農家も廃棄などしたくありませんし食品ロスなど減った方がいいに決まってると思ってます。それでも様々な情勢や気候条件によって時には決断を強いられることもあるわけです。情報があふれている今、特徴的な表題や写真だけをみて判断するのではなく、その背景を知ることは大切なことです。

これを機会に農業について少し興味を持ってもらえたら幸いです。

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