急成長した本格派中華調味料ブランド「Fly By Jing」とアジアンフードD2Cの成長可能性
今、アメリカでアジアンフードブランドが注目を集めている。その中心にいるのが、中国・四川で伝統的に使われてきたソースを現代風にアレンジした「Fly By Jing(フライ・バイ・ジン)」だ。
創業者であるJing Gaoは、P&Gでブランドマネージャーを務めたあと、自分のルーツである中国でフードメディアのライターやレストランでの経験を積んできた、異色の経歴の持ち主。
これまでアメリカでは中華食材をはじめとするアジアンフードはニッチな位置付けだったが、Fly By Jingの躍進によってアジア系D2Cブランドもにわかに脚光を浴びはじめている。
なぜFly By Jingがアメリカで根強い人気を得たのか、そして「ネクスト・Fly By Jing」を目指すアジアンフードブランドを育むアジア系起業家コミュニティの現在地を探る。
アジアンフードブームの火付け役「Fly By Jing」
Fly By Jingのはじまりは、2018年にKickstarterを通したテスト販売に遡る。当時上海にレストランをオープンし、生まれ故郷である成都で修行もしていたJing Gaoは、アメリカで開催されたナチュラルプロダクトのエキスポを訪れた際にエスニックやアジアのナチュラルフードが少ないことにショックを受けたという。
そこで中国の四川省出身というバックグラウンドと、アメリカで育った感覚をもとに、四川料理の伝統的なチリ・クリスプソースを開発し、Kickstarterで販売を開始。
2つセットで25ドルと調味料にしては高額な価格帯だったにもかかわらず、1,700人が支援し、120,000ドルもの資金が集まった。
Kickstarterでの成功をもとにECを立ち上げ、D2Cブランドとして正式に販売を開始。パンデミック下で自炊需要が高まったことで、普段の料理に変化を出せる調味料として人気が高まった。
ブランドの成長に合わせて、2022年10月には1000万ドル、2023年3月に1200万ドルを調達。
Instagramのフォロワーは12万を超え、Whole Foods MarketやTarget、Costcoでの取り扱いも開始した。
中国にルーツを持つアジアン・アメリカンはもちろん、人種を問わずさまざまな層から支持を受けているのがFly By Jingの強みでもある。
アジアンフードブランドの躍進
Fly By Jing以外にも、アジアをはじめとするエスニックフードブランドの成長が著しい。
アジアンフレーバーの炭酸水「Sanzo」
たとえば炭酸水ブランドの「Sanzo(サンゾー)」は、ライチやマンゴーといったアジアの伝統的なフルーツをフレーバーに使うことで人気を博している。
創業者のSandro Rocoは、フィリピンからの移民を両親に持ち、NYで生まれ育った。ちょうどアメリカで、健康のためにソーダをフレーバー付きの炭酸水へ置き換えるトレンドも追い風となり、Whole Foodsをはじめとする有名スーパーでも取り扱われている。
アジアンフードのミールキットブランド「Omsom」
ベトナムを中心としたアジアンフードのミールキットブランド「Omsom(オムソム)」も、成長著しい企業のひとつだ。
ベトナム系アメリカ人の姉妹・Vanessa PhamとKim Phamの二人がOmsomを立ち上げたのも、「アジアの食や文化を誇る」というアイデンティティの意識からだった。2020年5月というパンデミック真っ只中の時期にローンチしたにもかかわらず、自炊の需要を追い風に、2022年8月に早々に調達を完了した。
さらに、出資を受ける際には投資家における女性・LGBTQ・人種の比率まで意識するなど、組織づくりにも自分たちの哲学を徹底している点が評価されている。
ヘルシーなインスタントラーメン「immi」
プラントベースのヘルシーなインスタントラーメンをつくる「immi(イミ)」も、今注目のブランドだ。
創業者の二人はそれぞれ台湾とタイにルーツを持つアジアンアメリカン。金融業やテック企業を経て、「ヘルシーなインスタントラーメンを作る」というミッションを掲げて起業した。フレーバーもトムヤムクン味などアジアンテイストを取り入れ、6個パックで41.99ドルと高価格帯ながら人気を博している。
また4,000人のコミュニティを持ち、新製品の試食などをスピーディーに行っている点もユニークだ。こうした直接的な顧客との関わりは、D2Cブランドならではと言える。
2021年9月には380万ドルを調達、2023年3月には1000万ドルを調達し、実店舗への販路拡大も進めている。
アメリカ初のベトナム式スペシャリティコーヒーブランド「Nguyen Coffee Supply」
「Nguyen Coffee Supply(グエン・コーヒー・サプライ)」もアメリカ生まれの移民一世が立ち上げたブランドだ。ベトナムの農家から直接仕入れた豆をブルックリンで焙煎し、本格的なベトナムコーヒーを提供している。
創業者のSahra Nguyenは作家、映画プロデューサー、メディア経営者として活躍したのちに、2015年に自身のレストランをオープン。そこでベトナムコーヒーを提供するなかで、ベトナムのコーヒー農家が質の高い豆を栽培していることを知り、開発に2年の歳月をかけて「Nguyen Coffee Supply」をリリースした。
ベトナムのコーヒー豆は缶コーヒーに用いられることの多いロブスタ種がメインのため、スペシャリティコーヒーのイメージは薄かった。しかし質の高いロブスタ種の豆とアラビカ種をブレンドすることで、ベトナムコーヒーへのイメージごと変えている。
Nguyen Coffee Supplyは2022年3月に260万ドルを調達し、Nguyenは2021年にフード&ワイン誌の「これからの飲食を変える25のゲームチェンジャー」に起業家の一人として選ばれるなど注目を集めている。
アジアン・アメリカンの増加とアジア系起業家コミュニティ
Fortune Business Insights reportによれば、アジアを含むエスニックフードの市場は2021年の492億ドルから2028年には980億ドルへと2倍近くに成長する見込みだという。
この急激な成長の背景には、アジア系アメリカ人の増加がある。現在すでにアジア系アメリカ人の人口は2200万人とされ、その増加率はもちろんのこと、富裕層の増加も注目されている。
アジア系アメリカ人の増加によって、起業家コミュニティも醸成されはじめ、この横のつながりもまたアジアンフードブランド全体を盛り上げるエンジンとなっている。
現在活躍しているアジアンフードブランドのファウンダーは、グローバルブランドや有名コンサルティング企業、テック業界でキャリアを積んだうえでブランドを立ち上げたケースが多い。
ニッチなブランドで終わらせるのではなくアジアンフード全体をグロースさせるために、情報交換をしながらアジア系コミュニティ全体で盛り上げていく意識が、アジアンフードカルチャーのトレンドをより強固なものにしている。
「ニッチ」から「メジャー」へ
これまでは、アジアンフードが一般のスーパーや食料品店で取り扱われるようになっても、「エスニック」の棚に入れられてしまい、一般客の目に留まりづらいという問題があった。小売店側から見ると中華ソースや調味料はあくまで一部のニッチな顧客向けの商品であり、「メイン通路」に並べるアイテムではないという認識があったからだ。
しかしFly By Jingのクリスプソースは中華料理だけでなく、トーストやアイスにかけるソースとしても人気を博した。そのため、TargetやWhole Foodsではメインとなる調味料の棚に並べられているという。
これはアジアンフードブランドにとって大きな変化であり、「エスニック」の枠にとどまらず、メジャーな食料品のなかのひとつの選択肢として棚に並べられることで、成長可能性も一気に広がる。
アジアンフードブランドへの投資が増えている背景には、Fly By Jingが切り開いてきた「メジャー」への可能性の広がりがある。
Fly By Jingに続くアジアンフードブランドのアメリカでの躍進は、今後ますます盛り上がっていきそうだ。
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