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サステナブルなオンラインショッピングを後押しするツール「EcoCart」

オンラインショッピングは利便性が高い一方、配送や梱包のために必要以上の環境負荷をかけている面もある。企業もなるべく包装を簡易化したり輸送回数を減らす努力をしているが、その努力はなかなか消費者に伝わらない。

こうしたジレンマを解消し、オンラインショッピングのエコシステム全体でサステナビリティを実現しようとしているのが、「カーボン・オフセット」のツールを提供するEcoCart(エコカート)だ。

by EcoCart official page

EcoCartは2019年に生まれた新しいサービスだが、すでに1万以上の企業が導入し、2021年には300万ドルの調達に成功している導入している企業のなかにはWalmartのような大企業もあり、サステナブルな買い物体験を提供するサービスとして注目を集めている。

EcoCartを通して、手軽に「カーボン・オフセット」を取り入れる

EcoCartが提供するのは、「カーボン・オフセット」と呼ばれる活動だ。

そもそも「カーボン・オフセット」とは?

カーボン・オフセットとは、経済活動によって自らが排出したCO2を、植林や森林保護を通して、間接的に吸収しようとする考え方や活動を指す。

たとえば売上の数%を森林保護団体に寄付したり、商品がひとつ売れるごとに木を植えるといったプロジェクトを行う企業もある。CO2の排出を削減しつつも、完全にゼロにするのはまだ現実的ではないため、植樹や森林保護によって自分たちが排出した分のCO2を相殺(=オフセット)しようという考え方だ。

しかし、大半の企業にとってはそもそも自分たちが具体的にどのくらいのCO2を排出しているのか、そしてどの団体にどのくらい寄付すれば相殺されるのかを計算するのはハードルが高い。

そこでアメリカ企業を中心に注目を集めているのが、手軽にカーボン・オフセットを取り入れることができるツール「EcoCart」だ。

EcoCartの仕組み

EcoCartを導入すると、まずは注文ごとのCO2排出量が自動的に計算される。

by EcoCart official page

製品の種類や商品の重さ、配送距離といった要素を加味してCO2排出量が計算され、それを相殺するためには森林保護団体などにいくら寄付が必要なのかが瞬時にわかるようになっている。

EcoCartを導入すると、商品をカートにいれた際に自動的に「Carbon Neutral Order for $〜〜」とこの買物で排出されるCO2を相殺するために必要な金額が表示される。この項目はカートに行くと自動で「ON」となり、カーボン・オフセットのために数ドルを負担することがデフォルトの設定となっている。

たとえば下記は、EcoCartを導入しているスニーカーブランド・「THOUSAND FELL(サウザンド・フェル)」の商品購入ページだ。

 by THOUSAND FELL ONLINE SHOP

もちろん、カーボン・オフセットのための寄付を支払わない選択もできる。しかし、「オフ(=支払わない)」を選ぶと、下記のようなアラート画面が表示されるようにもなっている。

 by THOUSAND FELL ONLINE SHOP

カートにも「Carbon Neutral Order」と記載され、金額も表示される。このまま注文を完了するだけで、カーボン・オフセットのための寄付が自動的に支払われる仕組みだ。

 by THOUSAND FELL ONLINE SHOP

厳格な基準に則った、信頼性の高い寄付先のみを厳選

さらに、EcoCartが力を入れているのが、カーボン・オフセットのために寄付する先の選定だ。提携しているカーボンオフセットプロジェクトは30以上にのぼるが、すべて国際基準に準拠し、科学的に検証されたものだけを選んでいるとEcoCartは主張している。

寄付先となるプロジェクトの選定基準として、EcoCartはHPで4つの基準を挙げている

・Legitimacy(正当性)
・Impact(インパクト)
・Traceability(追跡可能性)
・Transparency(透明性)

一般企業にとって、数多ある団体やプロジェクトのなかから、本当に信頼できるものを見つけるのは至難の技だ。EcoCartはカーボン・オフセットの機能を提供するだけでなく、本当に意味のある団体やプロジェクトへ寄付するためのキュレーションの役割も担っている。

一方で、カーボン・オフセットについては批判や懐疑的な意見もある。グリーン・ウォッシュ(実態が伴わないにも関わらず、環境に優しい活動をしていると標榜・宣伝すること)に加担してしまわないように、慎重に精査することも重要だ。

Shopifyアプリとして手軽に取り入れられる

EcoCartはShopifyやBigCommerceとも連携しており、アプリをいれることで手軽に導入可能だ。

▼EcoCartのShopifyアプリページ

今後日本でも環境に配慮した商品やサービスへの注目度が高まっていくと予想されるため、EcoCartのようなサービスの需要も上がっていきそうだ。

「カーボン・オフセット」は顧客に受け入れられるのか?

EcoCart以外にも、買い物のカーボン・オフセットを減らすためのツールがいくつも生まれはじめている。「Green Story(グリーン・ストーリー)」や「Neutrl(ニュートラル)」も、カーボン・オフセットの分野で注目されているサービスだ。

さらにShopify自体もカーボン・オフセットを推進しており、「Offset」と「Shop」の2種類のオプションを提供している。Shopifyのページにも書かれているとおり、カーボン・オフセットは完璧なソリューションではないものの、ベターな選択肢としてブランドに受け入れられはじめている。

一方で、EcoCartをはじめとするカーボン・オフセット・ツールは、顧客に商品代金とは別に寄付をしてもらう仕組みでもある。一回の買い物あたり数百円程度とはいえ、実際にカーボン・オフセットのために上乗せで支払いをする顧客はどれだけいるのだろうか。

TechCrunchによれば、2021年時点ではEcoCartを通した購入のうち約25%の顧客がカーボン・オフセットのために追加で支払うことを選んだという。その支払によって相殺されたCO2の量は、約11,339トン(2500万ポンド)にものぼる。

さらにEcoCartは、HPでEcoCartの導入によって再購買率が15%、コンバージョン率が14%アップすると主張している。環境への意識が高い顧客は、カーボン・オフセットの選択肢があることで買い物に罪悪感を抱かずにすみ、二の足を踏むことなく購入につながるからだ。そして、同じ買い物をするならカーボン・オフセットができるサイトを選ぶという。

たとえばEcoCartの公式ブログで紹介されているプロテインブランド「Nuzest」ではEcoCartの導入によって、カートにいれた商品がそのまま購入される割合が22%上昇した

Nuzest HP
by EcoCart blog

日本では、商品がカートに入れられたにもかかわらず購入まで至らずに離脱してしまうことを「カゴ落ち」と表現することが多いが、カーボン・オフセットの選択肢を用意することで、この「カゴ落ち」を防ぐ効果もあるという。

さらに購入のうち15%がカーボン・オフセットの選択肢を選び、約113トン(=25万ポンド)のCO2削減につながった。

環境に配慮するために+αのお金を支払う選択肢を提供することは、消費者の購買意欲を削いだり買い物を邪魔をしたりすることなく、むしろ環境に配慮した方法で買い物をしたいと考える消費者にとってはインセンティブとなっている。

CO2の排出量を減らすことが、ブランドにとってもインセンティブに

EcoCartのようなカーボン・オフセット・ツールは、どれだけCO2を排出しているかがリアルタイムに可視化され、それを相殺するためにいくら支払わなければならないかが消費者にダイレクトに伝わるため、企業がCO2排出量をへらす動機にもなる。

排出量が減れば減るほど、消費者が負担するカーボン・オフセットに必要な寄附金額も安くなるため、選択するハードルが下がり、またそのサイトで購入したいと考える消費者も増えるだろう。

企業はEcoCartを導入して終わりではなく、顧客の負担を減らし、自分たちの商品やサイトを選んでもらうために、そもそもの排出量をへらす努力をしつづけなければならない。

オンラインショッピングは便利な半面、配送や梱包の面で環境負荷が高く、買い物に罪悪感を抱かせてしまう部分もある。そうした罪悪感を取り除き、サステナブルに買い物を楽しむための第一歩として、EcoCartは次世代ブランドたちから注目を集め始めている。

(Cover Photo by EcoCart official page


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