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【読書日誌】村上春樹『風の歌を聴け』
読後に不気味なくらい感動したのは、この小説が初めてだった。
別にものすごいストーリー構成がされている訳でも、どんでん返しのラストがあった訳でもないが、最後の一行を読み終わった後、全身が鳥肌に襲われたんだ。
服を着たまま湯船に浸かっている時のような、心地よい体験だった。
2022年からは、読んだ方を逐一記録していこうと思う。これは読者を想定した書き物ではなく、あくまで自分自身の頭の整理のために書いている。(いや、むしろ感想を書くことで余計頭が混乱することが往々にある)
まあとにかく。そういうことだ。
ところで、僕が村上春樹をちゃんと読んだのは、この『風の歌を聴け』が初めてかもしれない。以前に『雨天炎天』という村上の紀行文エッセイを読んだのだが、ほぼ無意識的な読書をしていたためか、特に感想などは思い出せない。
村上春樹は1949年の生まれで、1969年に20歳なった。つまりは、大学紛争が盛んだった時期に学生だったということになる。そして早稲田大学在学中にジャズ喫茶を経営している。村上のジャズ好きな部分が小説の中にも見られる。
作中に出てきた曲を実際にApple Musicで聴くのが最近の楽しみでもある。最近ジャズにハマっているのも村上春樹のせいだ。ありがとう。
では、『風の歌を聴け』とはどういった小説なのか。
簡単にわかりやすく言うと、
「特に大きな事件が起こるわけでもないが、読んでいると少し大人になったかのような気分になる小説」
とでも言おうか。
この小説の文体はオシャレだ。そして無国籍的なタッチで、ねちっこくない。読んでいて、本当に心地が良くなる。そんな質感の文章が連なっている。
だが、この本は「好きなタイプ」と「好きになれない人」にかなりはっきり分かれるだろうとも思う。(僕は「大好き派」だ)
面白さの基準は人それぞれだと思うし、小説に求めているものも人それぞれだと思う。
僕なんかは、小説に大衆的な面白さは求めていない。もちろん、大衆的なエンタメが僕は大好きだが、それはアニメや映画で味わっているから、わざわざ小説を読むときにまで、それを求めたりはしない。
むしろ、僕は小説にある種の「分かりにくさ」を求めているのかもしれない。型にはまった「面白さ」ではなくて、面白い要素を自分自身で探していくような、そんな小説を。
いわゆる純文学と呼ばれるジャンルは、そういった小説が多いように感じる。又吉直樹の『火花』も、村田沙耶香の『コンビニ人間』も、そこには大衆的な分かりやすい面白さはなくて、言葉にし難い、不思議な魅力がある。
その魅力を言語化できるかどうかは、僕自身の読解力次第なのだが、書評というのは難しく、そう簡単にできるものではないことも、重々承知しているつもりだ。
そんなわけで、村上春樹の『風の歌を聴け』は多少難解な部分はあるが、その分読み応えがある。それに何度も読み返したくなるんだ。
ちなみに講談社文庫の裏表紙には下記のようにある。
1970年の夏、海辺の街に帰省した〈僕〉は、友人の〈鼠〉とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。二人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、〈僕〉の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた出色のデビュー作。群像新人賞受賞。
このあらすじは、本当によく的を得ていると感じる。これは僕の感想なのだが、
「二人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、〈僕〉の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。」
上記の部分、特に「過ぎさっていく」という部分が、村上春樹が伝えたかったことなんじゃないかなと思うんだ。
時間はあっという間に過ぎる。青春も然り。
ビールを飲んでいるうちに、愛に飢えているうちに、金持ちを憎んでいるうちに、あっという間に時間は過ぎ去っていくんだ。
この小説では、本当に何も起きない。いや、厳密には何かが起きているのかもしれないが、登場人物の〈僕〉と〈鼠〉は何も起こらない、まるで風景画のような夏を過ごす。
この言表し難い切なさとほろ苦さこそが、この小説の面白い部分だと感じた。
でも、また読み返してみると、感じ方は変わってくるかもしれない。1回目の時には気づかなかったことに気づくかもしれないし、そこから見えなかったものが見えてくるかもしれない。
とにかく僕の感想は、意識的に事実をピックして語っているから、あなたの読んだ感想と大きくずれているかもしれないが、それが悪いとかではないよね。当たり前だけど。
鼠三部作と呼ばれる『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』そして続編となる『ダンス・ダンス・ダンス』
全部読んでみようと思う。
あなたもぜひ、村上春樹を手にとってみてください。
本当に平易な文体なので読みやすいです。
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