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『死神の精度』を読んで

 けっこう昔の話なんですけど。八股かけたい、と思っていた時期があったんですよ。特別な想いがあったわけではなく、とりあえずたくさんモテたかったのね。ただし、「八」という数字は結構重要。理由は簡単で、「一週間じゃ足りない」と思いたかったから。月曜、火曜、水曜日。日曜日までぜんぶ違う恋人とデートをしても、それでも足りない。八股って超絶贅沢なんじゃないかと信じていました。

 何言ってるかわかんないと思いますが、続けますね?


 『死神の精度』では、「千葉」と名乗る死神に出会ってから七日間、ターゲットは死について「可」であるか「見送り」であるかが調査されます。可となった場合は八日目に、死ぬ(見送りになったら寿命まで生きる)。私の場合だと、八人目の恋人と逢っている日、死ぬことになるじゃないですか。
いやむしろ、八日目にデートをしているのは死神の千葉さんかもしれないじゃないですか。一週間あれば、人が親密になるには十分なんだし。出会って初日に「あら〜ご尊顔が好みだわ〜」と思えば連絡先を交換して、頻繁にLINEを送り合い、三日目にはお茶の約束をして、五日目で仕事の合間にお茶をしばきそこでデートの約束をする。で、八日目のデート中に死ぬ。スムーズ。悪くない。ぜひ私好みの下がり眉の顔面で頼むぞ。っていう、そういう話なんですよ。

 デートに向かうときならば、こちらとしてもおそらく顔面・髪型・服装etc.あらゆるコンディションを最良にしてから向かうでしょ。そういう「いちばんいい状態」で死ねるなら、予期していない死でもまあまあ恥ずかしくないはずだとは思いませんか。家に全裸でいるときに震度7が来て死ぬよりよほどいい。まあ震度7が来たら私だけじゃなくみんな死んじゃうので、全裸で発見されるなんて親がかわいそうとかそういう話でもないんだけれども。ね?

 っていうか、この小説の登場人物はみんな、最良ではないにしろ何かしらドラマチックな七日間を過ごしていて、多少羨ましいなと思うんですよ。ヤクザ同士の抗争したり、赤髪殺して東北へ逃げたり、雪山サスペンスしたり。全体的にバイオレンスな文字面だな。読むとそんなことないんだけどね。普通の人は経験しなさそうなことだよね。流石はあれか。死神に選ばれし人間なのか。

 私なんか今日スーパーの帰りに車に轢かれて買い物袋からネギ飛び出させて死んでるかもしれないのに。うっかりお風呂で寝ちゃって溺れて死んでるかもしれないのに。揚げ物してたら火柱あがるかもしれないのに。裸のままケトルのお湯ぶちまけて全身やけどするかもしれないのに。全裸率高ぇな。服を着ろ。最良で死ね。


 時世的に「一週間後に死ぬかも」って感覚はあり得なくもないですよね。咳して微熱あったら思うかもしんないじゃん。死ぬかもって思い始めてから部屋の掃除できるかな。捨てとかないと親が泣くもの結構あるじゃん。みんなあるじゃん。え、あるよね?

 そういえばさっき、冷蔵庫にあった牛乳の賞味期限が一週間ほど切れていたので、ちょっと嗅いでみてから珈琲に入れました。飲めました。こいつは八日経っても生きてるんだなって感じです。


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