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『Changing the game: How video games are transforming the future of business』の紹介

 今回は,以下に示すビデオゲームの応用をテーマとした洋書をご紹介します。ビデオゲームについて論じる本は,海外ではたくさん出版されています。それらのうちで,参照するに値すると思われるものを取り上げています。

Edery, D., Mollick, E. (2008). Changing the game: How video games are transforming the future of business. Upper Saddle River, NJ: FT Press.


どのような本か

 本書は「序論」,「ゲームと消費者」,「ゲームと被雇用者」,「ゲームとビジネスの未来」の4部(全10章)構成になっています。ゲームをビジネスに応用する方法について具体的に論じています。「ゲーム研究」で用いられる分類でいえば,産業論シリアスゲームが近いと思われます。著者のDavid Ederyは開発者で,Ethan Mollickは経営学の研究者です。

 「カジュアルゲーム」や「ゲーム内広告」など,ビデオゲーム関連の専門用語を交えながら,ビデオゲームの応用可能性について理論的に解説しています。ゲームとビジネスを結びつけることに関心がある方に向けて書かれた本です。


本書の特徴

 日本国内では2000年代に携帯型ゲーム機が普及して,ライトユーザー層が生まれたことは周知の事実です。現在では,ターゲット層を考慮するうえで,ライトユーザーコアユーザーの分類は常識となっています。本書でも,「カジュアルゲーム(casual games)」と「マニア向けゲーム(enthusiast games)」という分類が登場します(「カジュアルゲーム」という用語は,日本のゲーム開発の現場でもしばしば使われます)。この分類にプレイヤー数の要素(シングルプレイマルチプレイか)を付け加えると,プレイヤーの特徴を捉えた分類が可能になります。たとえば『グランド・セフト・オート』シリーズは「マニア向け・シングルプレイ」,「ソリティアゲーム」は「カジュアル・シングルプレイ」,『ワールド・オブ・ウォークラフト』は「マニア向け・マルチプレイ」といったように,ターゲット層となるプレイヤーをふまえた分類ができるようになります。これはとりわけ目新しい分類方法ではなく,開発者や研究者であれば意識的に(あるいは,知らなくても半ば無意識的に)実行する分類でしょう。このような前提となる用語を挙げながら,ビデオゲームの応用可能性について考えるヒントを与えてくれるのが本書の特徴だといえます。

 近年,ビデオゲームの内側や外側でプレイヤーに広告を見せる手法は,当たり前のように見られるようになりました。本書の見どころは数多くありますが,最も注目すべき点は,ビデオゲームを利用して広告を示す方法を紹介している点にあると思われます。第2章から第4章までは,映画やテレビ番組などの中に実際の企業名や商品を登場させて視聴者に印象づける方法であるプロダクト・プレイスメントゲーム内広告,広告を目的としたアドバゲーム(advergame)といった用語を挙げながら,よく知られている方法からより高度かつ試験的な方法まで,段階的に解説されています。

 このほかにも本書では,ビデオゲームを利用して,顧客とのつながりを深めたり,従業員のモチベーションを高めたりする方法などについて述べられています。出版されたのが2008年で,内容が少し古くなりつつあり,本書で述べられていることがどこまで実用的であるかどうかは判断が難しいところではあります。しかし,ビデオゲームをビジネスに応用するための方法を理論的に解説した書籍は国内ではあまり見られないので,ビデオゲームとビジネスを結びつけることに関心がある方は,この本から大きなヒントを得られると思います。


 以上,ゲームとビジネスについて書かれた洋書の紹介でした。この本が扱っているテーマは私の専門分野ではありませんが,通読はかなり前に終えています。ちょうど「ゲーミフィケーション」が流行っていた頃に読みました。当時,読んでいて気づいたことは,この本で「ゲーミフィケーション」という言葉は一度も出てこなかったということです(「シリアスゲーム」は出てきます)。この本の出版年が2008年で,「ゲーミフィケーション」という用語の流行が2010年頃からなので,たまたま前後したということでしょう。いずれにしても,ビデオゲームの応用可能性は非常に大きいもので,これは今も昔もまったく変わらない事実です。海外の本らしく,かなり理論的に書かれているので,ビデオゲームのビジネスへの応用に関心のある方にオススメします。

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