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【D-G】若きエース対決

 平日のナゴヤドームが超満員になった。3万6000人の大観衆のお目当ては、もちろん中日巨人戦。中日がエースを襲名した髙橋宏斗を送り込めば、巨人はそれに応えるようにエースの戸郷翔征を。今回は、そんな息詰まる投手戦を観戦した感想を書いていこう。

時代は変われど…

 ここ数年、NPBは投手分業制が更に進んだ。投球回数を200に到達する選手は令和以降全く居なくなり、2桁完投も中日の大野雄大が1度記録しただけ。規定投球回に乗せることがやっとの選手がほとんどで、3年間ローテーションを崩さずに投げたら余程悪い成績でない限り「エース」の称号を手にする時代となったのだ。

 そんな時代でも、エースに求めたいことが1つある。それは相手投手よりも早くマウンドを降りないで欲しいということだ。この試合では、髙橋が8回、戸郷が7回まで投げた。一見すると前者が試合にもエース対決にも勝ったように見えるが、8回表の攻撃で8番の門脇誠が出塁していなければ後者も8回まで投げただろう。そう考えると、試合は中日が勝ったがこの投げ合いはがっぷりよつだった。

フェアか、ファールか

 CBCの若狭敬一アナウンサーの名著の題名を拝借すると、この一戦はまさに主砲の打球がフェアかファールかということが勝敗を分けた。

 フェアだったのはもちろん勝者の中日。主砲の細川成也が一本足打法から大本塁打を放った。打った瞬間はフラフラと上がったので、平凡な外野フライかと感じたが落ちずにそのままスタンドイン。正真正銘のパワーヒッターが放った打球だ。結局はこの1点だけが試合を決したのだ。そしてファールだったのは巨人の主砲の岡本和真。内角の球を巻き込んで打つ彼独特の大ライナーは左翼ファールポールのわずか左。投手の髙橋も苦笑いをしていた。これが入っていたら、流れは巨人に行っていたはずだ。勝敗は逆になっていただろう。

 セイバーメトリクスでは、本塁打のことを「打者が唯一自力で打った安打」と言われるが、果たしてそうなのだろうか。と疑問に思ってしまうような試合であった。

髙橋のエースを確信した瞬間

 僕はこの試合を3塁側5階席で見ていた。この席は球場全体を俯瞰できるので、僕のお気に入りの席である。その中で、僕は髙橋がエースになったと確信した場面があった。

 それは8回表、「思い込んだら、試練の道を」で始まる巨人の星のテーマが球場にこだました後の投球だ。先頭の坂本勇人が内野ゴロに倒れた瞬間からのことである。ストライクの黄色いランプが点っていく度に、アウトの赤いランプが点っていく度に巨人ファンがゾロゾロと帰っていくのだ。たかが一点差。本塁打が飛び出したら試合は振り出しに戻るはずなのに、まるで巨人の負けを確信したかのように球場を後にする。これはエース級の投手でなければ出来ないことだろう。髙橋が中日だけでなく、セ・リーグのエースになったと確信した瞬間だ。

最後に

 とは言えど、髙橋はまだ規定投球回に乗っていない。今季は出遅れを考えて160回ほどは投げて欲しいものだ。そして来季は、令和初の200回投手を達成して沢村賞を獲得して欲しい。

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