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Anomaly(異常者)- I SEE STARS【歌詞和訳】

Title / Anomaly(2023)
Artist / I SEE STARS
Included / Single[Anomaly / Drift(2023)], Single[Are We 3ven?(2023)], Single[D4MAGE DONE(2023)]



① LYRICS

I SEE STARS -Anomaly

I always knew that I'd run 
 こうなるってことはわかってた  
Suspend these thoughts and move on 
 こういう思考を中断して、前に進むってことを  
I'm one in a million, I'm always the villain
 俺は唯一無二で、いつも悪役だって思考
 
I always knew that I'd run 
 こうなるってことはわかってた    
Descending thoughts that I caused 
 自分で引き起こすマイナス思考は、
One hell of a villain but I'll hardly admit it 
 悪役の孤独な地獄。けど、そんなのとうてい認められない  

I don't want to live this way, wanna live this way, no
 こんなふうに生きたくない、こんなのやだよ  
I don't want to feel the way that I feel, can I wake up? 
 こんな思いはもうしたくない、こんなので目は覚ませって?
  
My evermore, have you finally figured me, figured me out? 
 ずっとずっと、今まで俺のこと理解してくれてた? どうなの? 
Anomaly, I'm an anomaly 
 わかってくれない、俺は異常者  
Anomaly, I'm an anomaly 
 わかってくれない、どうせ異常者だから  

Forever more 
 これからはもう  
Forget everything, can you please figure me out? 
 なにもかも忘れて、俺のことわかってくれよ 
Anomaly, I'm an anomaly 
 わかってくれない、俺は異常者 
Anomaly, I'm an anomaly 
 わかってくれない、どうせ異常者だから 
 
It haunts the streets that I'm on 
 俺の立っているストリートにつきまとってる
So much that can't be undone 
 元に戻せないくらいに、
I'm hardly invisible now 
 俺は今透明人間みたいなんだ
You should have warned me from the beginning 
 最初から警告してくれればよかったのに 
 
I don't want to live this way, wanna live this way, no 
 こんなふうに生きたくない、こんなのやだよ  
No, I don't want to feel the way that I feel when I wake up 
 いやだ、こんな思いをしながら目を覚ますのはもうたくさんだ 

My evermore, have you finally figured me, figured me out? 
 ずっとずっと、今まで俺のこと理解してくれてた? どうなの?
Anomaly, I'm an anomaly 
 わかってくれない、俺は異常者  
Anomaly, I'm an anomaly  
 わかってくれない、どうせ異常者だから 
 
Forever more 
 これからはもう  
Forget everything, can you please figure me out? 
 何もかも忘れて俺をわかってくれよ  
Anomaly, I'm an anomaly 
 わかってくれない、俺は異常者  
Anomaly, I'm an anomaly 
 わかってくれない、どうせ異常者だから  

All this time on the clock 
 時計の針をすべて  
I think it's time to reset 
 リセットする時がきた  
All this time on the clock 
 時計の針をすべて  
I think it's time to reset 
 リセットする時がきたんだ 

My evermore, have you finally figured me, figured me out? 
 ずっとずっと、今まで俺のこと理解してくれた? どうなの?
Anomaly, I'm an anomaly 
 わかってくれない、俺は異常者  
Anomaly, I'm an anomaly 
 わかってくれない、異常者だから

Forever more  
 これからはもう  
Forget everything, can you please figure me out?  
 なにもかも忘れて、俺のことわかってくれよ  
Anomaly, I'm an anomaly  
 異常者、俺は異常者
Anomaly, I'm an anomaly 
 異常者だ、それが俺なんだ



② About this song

 I SEE STARSっていうこのバンド名。俗語で「see stars」って言うと、ぶん殴られて「火花が飛ぶのが見える」みたいな意味もあるんですよ。眼前をチカチカ光が散って瞳孔が定まらない。面白いですよね。I SEE STARS。眩暈がして頭がクラクラする。星を眺める。今のおれたちはどっちでしょうか? きれいな星を眺めているのか目の前の現実に眩暈を感じているのか。ただこの二つは現実の裏表みたいなもんです。きれいな星を眺めていても、不条理な現実は背後に忍び寄ってくる。眩暈を感じてしまうくらいの困難な現実を前にしても、それを乗り越えた向こうには星が輝く世界が待ってる。おれたちはその狭間で生きている。やっぱりこの「I SEE STARS」っていうバンド名、ものすごく文学的です。彼らはこの名前を冠して音楽をつくってる。そう考えると、また彼らの音楽に深い味わいが加わってきますね。まあ、とかなんとか言ってますけどね、ボーカルのDevin Oliverはバンド名に由来なんてなくて、ただ名前が必要だったからそう付けただけだと言ってますから、これはおれの過剰な深読みに過ぎないんですが。I SEE STARSバンド結成2006年当時、Devinは14歳です。いや、どうだろう。ほんとにおれの単なる深読みに過ぎないのか? いや、Devinはとぼけてるだけでは? どうだろう。真相は謎です。
 
 さて、今回翻訳した『Anomaly』という曲は、アルバム『Treehouse(2016)』でその特徴が顕著になった、静謐さとヘヴィネスが同居している作品です。彼らはアルバム『Treehouse(2016)』以降、この静謐パートとヘヴィネスパートをうまく組み換えながら彼らの世界観を作るようになったんじゃないかなーと思えてきます。この曲は、前奏がぐわーっとヘヴィで→バースは滑らかな静謐パート→コーラスでまたぐわーっとヘヴィ→静謐なバース→ヘヴィなブレイクダウン→ヘヴィなラストコーラス。本当にバランスよくテンションがコントロールされてる。すごい。とかなんとか言ってますが、彼らはプロフェッショナル中のプロフェッショナル中のプロフェッショナルなんで、素人のおれなんかがこうやって構成について「うまくできてるね(ニヤリ」なんてのたまうのとか滑稽すぎますね。おこがましすぎる。僭越すぎました。すみませんでした。

 さて、歌詞について。歌詞は孤独を表現しています。現実が自分に悪役を押し付けてくる。そんな現実から逃れられない苦痛。誰も自分のことを理解してくれない。いつの間にか誰にも視認されなくなってしまっているんじゃないかと思い始める。そして自分は異常者なんだと外部から規定されて、自閉的になってしまう。バース内のvillain(悪役)とコーラスのanomaly(異常者)はだいたい同じような使われ方をしていますね。やっぱり疎外されていることが強調されている。コーラスではずっと理解してくれ! 理解してくれ! って叫んでる。痛々しい。前の『are we 3ven?』の記事でも書きましたが、2023年にリリースした4曲を

再集録したシングル『D4MAGE DONE(2023)』。そこに収録された『Anomaly』『Drift』『are we 3ven?』『D4MAGE DONE』の4曲は、どれもナーバスで不安定な精神状態をうたう曲です。閉塞した現代に対する叫びが込められています。これらの曲の雰囲気は、先ほども書いた通り、アルバム『Treehouse(2016)』の、静謐さとヘヴィネスの対比が織りなす独特の寂寥感を引き継いでいます。引き継いでいるが、それがよりディープになっています。ボーカルDevinは、力強く声をはり上げる歌唱法とスクリームに加えて、ブレス多めのささやきファルセットを極めてテクニカルに使い分けるようになりました。このハイトーン一辺倒じゃないテクニカルな歌唱は、Bad OmensDayseekerの直近の曲にも共通するので、今のポスコアの先端的な特徴ともいえるかもしれません。切ない感じの曲の雰囲気もね。ただ、2016年時点では、両バンドにこのような特徴は見られなかったので、I SEE STARSの『Treehouse(2016)』が先行していたといえるでしょう。I SEE STARSが示したこのスタイルは、ポスコアの新たな地平を開いて、両バンドが追随したといえると思います。バンドとしてもI SEE STARSよりも比較的新しいですからね。

 前述しましたが、『Treehouse(2016)』の心地よくもある寂寥感は、『D4MAGE DONE(2023)』の4曲ではより深くに沈んでいます。虚無が重量を持って沈んでいるような感じ。『Anomaly』は虚無感に満ちて孤独でとても悲痛です。この曲はブレイクダウンでスクリームがありません。レコーディングの際にはスクリームのバージョンも録ってたでしょうね。ただ、彼らはそれを採用しなかった。スクリームがないほうがこの曲の悲痛さを強調できたからです。ここのブレイクダウンの是非に関しては海外勢もコメントでいろいろ言ってます。このことに関しておれはものすごく反発を覚えたので、この記事の最後に特別項を設けて謎の愚痴をぶちまけました。最後に読んでいただければと思います。とにかく、スクリームはただすればいいってもんじゃない。スクリームはひとつの発散行為です。そしてスクリームはカタルシスを生みます。この『Anomaly』は発散できない苦痛をうたっている。それをカタルシスで終わりにしていいのか? もしブレイクダウンでスクリームをしてしまっていたら、この曲の表現するどうしようもなく不安定な精神状態は外に発散されてしまって、カタルシスで精神浄化されて完結してしまいます。虚無の迷路から抜け出せない。この悲痛をどうにかしたいのにそれがかなわない。でも手を伸ばすしかない。この曲のブレイクダウンにスクリームがないのは必然です。

 残りの2曲も訳していくので、歌詞と一緒に聴いていただけたらと思います。この『Anomaly』は、歌詞もわかりやすいし、キャッチーなサビがあるので、深刻な歌詞に対して、聴いてて楽しい曲でもあります。なにより意味深なブレイクダウン。いろんな意味が込められています。ぜんぶリセットするんだ。もうこんな悲劇は終わりにしよう、と呼びかけている。現実から耐えがたい苦痛を押し付けられて異常者となってしまったとしても、、むしろそうなったときがリセットの合図なんだ。どうにかしてリセットしなきゃならない。リセットして、自らの異常性を独自性にする。今をうたう歌として、心に残ります。

 ボーカルのDevin Oliverは、この『Anomaly』という曲に関して、次のように述べています。翻訳サイトで起こした感じがして読みにくい記事ですが。

 この曲は、聴き終わった後もずっと心に残っていて、最後には、自分をさらけ出し、力を与えてくれるような楽曲なんだ。『Anomaly』は、私自身が慢性的な身体的痛み、頭痛、そしてうつ病を引き起こした珍しい神経疾患と闘い、2年間入退院を繰り返していた時期に、自分自身を見つめ直し、内省することから生まれました。世界が自分に不利に働いているように見えるときに訪れる絶望感と闘いながら、時間は刻々と過ぎ、自分自身と自分の価値観に忠実に生きなければならないということを、強く思い知らされました。しばらくは、「チャンスを逃してしまったかもしれない」「一生病気かもしれない」という後悔と闘っていた。どんなことがあっても、私たちが戦う最も困難な戦いは、自分自身の中にあるものです。宇宙があなたを試すとき、自分自身に忠実であることは、常に闘う価値があるということを、この異変(おれ注・Anomaly)が教えてくれることを願っています。

RIFF CULT

 さすがのおれでもここで自分語りなんかしません。『Anomaly』という曲、確かにこの胸で受け止めました。現実を、そして自分を見失いそうになったときには、Devinのことばを思い出しながら、この曲をじっくり聴こうと決めました。

 前回の『are we 3ven?』を訳した記事で、2016年から2023年の、I SEE STARS空白の7年間について書いていきますと予告しました。おれも謎だったので、まとめておかなきゃいけないな、と思ったのでね。次の項で書いていきます。楽しんで読んでいただければと思います。『Anomaly』の歌詞翻訳記事なのにこっちが本編みたいになって、これでいいのかって感じですけど。いや、これでいいんだ。すべては今につながっている。壮大な曲解説です。

③ アルバム『Treehouse(2016)』からシングル『Anomaly / Drift(2023)』までの謎の沈黙。I SEE STARS空白の7年間について。

 ②の項で、休止の裏でDevinが深刻な病気になっていたことについての言及がありました。やはり彼らにはいろんなことがあったのだと察せられるかと思います。
 
 ここでは、2016年から2023年までI SEE STARSは何故休止していたのか、それについておれがネットの荒野をdigってきた結果を書いていこうと思います。

 まあ最初っから話をまぜっかえすようですが、空白の7年といったものの、それはあくまで前アルバムから新曲がリリースされるまでの期間が7年間であっただけで、その間ツアーなどの活動は続いていたし、実際空白になっていた実質の休止期間というのは限られています。なので、誇張した書き方になっちゃいました。しかしながら、日本のリスナーであるおれにとっては、空白の7年間だったわけですよ。そんなこと知らないから。おれはアルバム『New Demons(2013)』でI SEE STARSという最強バンドの存在を知って、『Treehouse(2016)』に興奮して、「次はどんな曲がくるんだ!」とその興奮のままに待っていたら7年ですよ。肩透かしに合ったような感覚を覚えた人はおれだけじゃないはずです。ちなみにその間にリリースされたacoustic EPは失礼にもノーカンにしてました。けど実際、海外のファンの間でも、2020年代前後はI SEE STARSの今後の成り行きについて不安が広がっていました。特にRedditというアメリカの掲示板型サイトでは、その手のトピックがユーザーによっていくつも立てられていて、サイト内で議論されています。

 で、ここからI SEE STARSをめぐる長い旅をしていくわけですが、あまりにも長くなりすぎたので、もう最初から簡単になにがあったか書いちゃいます。ほんとは最後にまとめたものなんですが、もったいぶってもしゃあないので。おれがdigった結果、次のようなことがわかりました、と。

 2016年:Treehouse』リリース。アルバムツアー開始。
 
 2017年:ツアー。『Treehouse』のアコースティックバージョンを制作。
 
 2018年:Treehouse(Acoustic)』リリース。Devinの重病発覚。活動鈍化。AndrewのDream Beach本格化。

 2019年:Devin入退院を繰り返す。DevinのshYbeast始動。活動鈍化継続。

 2020年:Covid-19。ツアーキャンセル。メンバー各々のプロジェクト順調。新曲制作中だと明かす。ファンの間では空白。

 2021年:新アルバムのレコーディング完了。おそらくCovid-19の影響下で年内のアルバムリリース見合わせ。空白。
 
 2022年:Devin事故に遭う。1年間の治療。活動ストップ。空白。
  
 2023年:Anomaly』『Drift』『are we 3ven?』『D4MAGE DONE』リリース。ツアー。

 2024年:ツアー中。

 こんな感じです。以下では詳しく見ていきます。
 
 ここではまず、2016年にアルバムをリリースしてからの彼らの公式の活動を、足取りが辿れるまで整理していきましょう。当時はXの公式アカウントが活発に更新されていたので一番動きを辿りやすいです。
 
 2016年の6月17日に、5枚目のアルバム『Treehouse(2016)』がリリースされ、バンドはAsking Alexandriaなどの大物バンドたちと大規模なツアーに参加することが決定します。その後、『Treehouse Tour』と題されたツアーでは、彼らはいわゆるヘッドライナー、つまりは主催者、メインパフォーマーを務めました。X(その頃はTwitter)でも、連日に渡ってライブに関する発信を行っています。どれもアグレッシブなライブの写真や動画がほとんどです。

I SEE STARS @iseestarsmusic

 このように、連日のライブを経ての、ファンに対する深い感謝のメッセージもあります。下から大ざっぱに訳すと、

 今夏の『Treehouse』アルバムを手に入れてくれてありがとう。Warped tourに新しいレコードが掲載されるのは、今回が初めてのこと。

 新しいアルバムをリリースするっていうのはただひとつのことだけど、……

 だけど、毎日そこに出向いてくれて、曲を演奏して、歌を聴いて、サポートしてくれるみんなに会って、肌にタトゥーされた(Treehouseの)ロゴを見る。信じられない……
 
 かつてない以上にリアルを感じている。太陽の下に集って、そこにいてくれるみんなに僕らが心から感謝していることを知ってほしい。

I SEE STARS @iseestarsmusic

 これまでで最長の制作期間を経てリリースした『Treehouse(2016)』というアルバムでこれまでとは異なった方向性を示したI SEE STARSは、ファンがどのように自らの新しい音楽を受容してくれるか、まだわからないところも多かったんだと思います。しかしながら、ライブでその楽曲たちをパフォーミングすると、観客たちは答えてくれた。ロゴをタトゥーするまでにアルバムを愛してくれているファンもいる。バンドは確信とファンとの絆を深めて、ツアーを続けます。2016年8月11日(日本では12日)に公開された『Running With Scissors』(アルバム『Treehouse(2016)』から)のMusic Videoですが、

 この動画はこのツアー初期の映像を使ってるんだなとわかりますね。で、先ほど言ったAsking Alexandriaなどが出演するビッグツアーが12月初旬まで続くはずなんですが。大事件が。

 2016年11月8日、アメリカ大統領選挙が実施されました。トランプが当選し、アメリカ社会は大きく動揺します。I SEE STARS公式アカウントやDevin Oliverのアカウントでも、抗議のメッセージを積極的に発信しています。そして、いかなる差別にも反対しマイノリティの味方に立つと宣言するとともに、みなに団結を呼びかける発信もしています。この頃の彼らのライブパフォーマンスには、このような姿勢も当然反映されていたでしょうし、強い意義を持ってライブに臨んだでしょう。

 ツアー最終日の2016年12月6日(日本では7日)には、アルバム『Treehouse(2016)』から『Calm Snow』のMusic Videoが公開されます。

 素晴らしく美しい映像作品で、最高のMVの一つです。そしてこのMVのあと、いくつかライブをこなし、2017年を迎えます。

 早速、またまた3月から行われるライブツアー『TREEHOUSE TOUR』開催を発表します。ツアーまでの間も反トランプの政治的なメッセージを発信し、抗議の嘆願書へのコミットを呼びかけるなどもしていました。その姿勢は批判にさらされもしました。

I SEE STARS @iseestarsmusic

もし私たちのプラットフォームで何をすべきか指図しようとするのなら、ブロックする。私たちの意見が気に入らないのなら、フォローを解除して音楽でも楽しんで。

I SEE STARS @iseestarsmusic

 アーティストに政治と距離を取ることを求める人がいるのは万国共通ですね。例えそれがロックアーティストであっても。でもですね、海外のビッグアーティストってほんとに強かっつうか剛毅で、実はそんなこと気にしてない人ばっかです。アリアナ・グランデビヨンセレディー・ガガテイラー・スウィフトビリー・アイリッシュもトランプに反対していることを1ミリも隠そうとはしません。思い付きであげると何故か女性だけになっちゃいましたが。別におれは政治に触れるアーティストがクールだとかそういうことを言いたいわけじゃなくって、逆ですね。人間くさくっていいなと思うわけです。やっぱこんなビッグスターも一人の人間なんだなって。あ、差別とかしてたら当然軽蔑しますよ。

 とまあ、あとは3月のライブのプロモーションなどの発信がほとんどになって、そんで3月になってライブツアーが始まります。ツアーで世界を飛び回る中、新しいフェスへの出演を公表したり、精力的です。新アルバムを発表すると、丸1年以上は当然このようにライブツアーへの出演が中心になってきます。ただ不思議なのが、このツアーとツアーの間、あるいはツアー中、彼らは新曲の制作に取り組んでいたのでしょうか。それまで彼らはツアー中も積極的に曲の制作を行ってハイペースでアルバムをリリースしていました。少なくとも『New Demons(2013)』まではそうです。もちろんアクションを起こしてはいたでしょうが、新曲として発表するまでにはならなかった。このツアーをこなしないる間は、制作活動としてはのち2018年にリリースされるアコースティックアルバム『Treehouse(Acoustic)(2018)』に力を入れていたということでしょう。
 
 『Treehouse(2016)』のリリースから約1年後の夏、世界中の音楽界を騒然とさせる訃報がありました。2017年7月20日Chester Benningtonの死。

I SEE STARS @iseestarsmusic

 チェスター・ベニントンのことで、ぼくらは酷く心を痛めている。リンキン・パークには多大なインスピレーションを受けて、(ぼくらが)チャンスをつかんだときに、このバンドに何が起こせるのかを示してくれた。
 
 二つの世界を融合させると何ができるのか。彼らは確かにヘヴィーなエレクトロミュージックの先駆者だった。

 ぼくらは永遠に感謝している。彼らが何百万もの野心的なロックバンドたちに扉を開いてくれたことを、そして、彼が書いた歌詞が、ぼくらが必要としていた助けをくれたことに、永遠に感謝している。

I SEE STARS @iseestarsmusic

 日本風に言えばラウドロックの神だったLinkin Parkの最強ボーカルChester Benningtonはとてつもなく偉大な存在でした。彼の声、彼の歌詞、彼の歌唱、彼のスクリーム。彼のパフォーマンスのすべてが、ロックミュージック史上最強だったとおれは思います。あえて比較の暴力を用いますが彼を超えられるボーカルはこれから生まれることはない。もちろん誰しもが
当然オンリーワンだから比較という行為は野暮です。

 ただ、彼の晩年の曲を聴いていると、声がほんとうに痩せ細っていたことは明らかでした。結果的にChesterがフィーチャーされた最後のアルバムとなった『One More Light(2017)』は、Chesterが、深刻な状態における一筋の希望を優しく歌い上げている素晴らしいアルバムです。彼の声もこれまで以上に胸に響きます。唯一無二のアルバムです。ただ、この方向性は彼の限界を考慮してのことだったことは大きく影響しているでしょう。それが一つの素晴らしいアルバムを生んだことは素敵なことですが。やはりどこかで痛々しいと思ってしまう自分がいます。特に『Heavy』などは。
 
 これはエクストリームな歌唱をしている歌手はみな自覚していることですが、喉の寿命はやはり歌唱法に依存します。Chesterは不死身の喉を持ったボーカリストに思えたが、とんでもなく激烈で切実な歌唱を続けることは、いくら彼といえど無傷でいられなかった。いや、彼は確実に自らの命を削りながら歌唱をしていたんだな、と気づかされました。だから、彼の事件があってから、歌手生命というものについて、いろんな歌手について思いを馳せました。

 この2か月前には、SoundgardenAudioslaveのボーカルを務めたカリスマChris Cornellが同じく自殺で亡くなっています。Chesterが亡くなった7月20日はChrisの誕生日だったから、どうしても二人を結びつけてしまいますね。しかしながら、何がChesterやChrisの死につながったのか、それはわかりませんし、おれは自殺はそういった理由が特定できる性質のものではないと思っています。何か特別なきっかけが特段あるわけではないと。自殺は突然巨大な波のようなものが押し寄せてくる災いなのだと、おれは思っています。だから、波に襲われて一度溺れてしまう。溺れたまま二度と水上に顔を出すことがかなわなかった人がいれば、いつの間にか静かな海の中に漂っている自分を見つけて、そのまま流されて岸にたどり着いてしまった人もいる。すべては偶然で、死んでしまうにしても生きてしまうにしても、すべては偶発的な事故なのだと、おれは思います。彼の事件でおれが考えさせられたことというのはこれとは別にあります。

 で、おれの考えていたことというのは、やはり歌手の寿命のことです。ハードコアのシーンでやってる歌手はそんなこと百も承知で、Chesterのように命削ってやってる方がほとんどだと思います。実際多くのハードコアのボーカルたちは通過儀礼のように一度は喉をぶっ壊します。それはそれでクールな在り方かもしれませんが、どうでしょう。The Usedはおれが意識的に洋楽を聴いた初めてのバンドで、すごく思い入れの強いアーティストです。アルバム『Imaginary Enemy(2014)』は10代のおれを支えてくれたし、今聴いてもその美メロに酔いしれます。ボーカルBert McCrackenはおれが世界一好きなボーカルです。彼のスタイルに憧れて10代の頃は必死に真似をしていました。しかしながら、Bertもまた声が痩せ細ってスクリームもできない状態になりました。彼らの音楽は独創性を増してきて、今も好きですが、正直悲しくなるときがあります。Bertの声が風前の灯火のように聴こえてしまう。日本の歌手たちも同じです。今のハイトーン偏重の邦楽シーンをみていると不安になることがあります。男性歌手はとにかくハイトーンで突き上げるように喉を絞り上げて歌い上げる方が多くなった。アニソンの影響です。神西川貴教はめちゃくちゃハードな曲を歌い続けて、30歳頃に喉にポリープがあることを公表しましたが、それでもだいたい今から10年前の40歳過ぎ頃が全盛期だったくらいです。どんな喉の筋肉してんだってくらいタフな歌い手ですが、みなが彼のようにいくわけではない。B’z稲葉浩志も喉壊しまくってますし。女性歌手でも、Adoは確実に10年後、20年後のことを考えて歌唱をしていません。というか、いつ故障してもおかしくないです、あの人は。おれは何か、嫌なことが立て続けに起こってしまうのではないかと、不安になってしまいます。歌手自身は十分承知の上でパフォーマンスをしていると思いますが、リスナーとしては悲しい気持ちになります。もちろん、彼らのこれまでの、そして今の素晴らしい音楽は、彼らのスタイルが生み出す必然の結晶です。これまでの素晴らしい音楽は、そのスタイルから生まれた必然で、それがアートの奇跡というものです。ですから、リスナーがそんな心配なんてしてもしょうがありませんね。ただ楽しみましょう。

 I SEE STARSの話に戻しましょう。おれたちは地獄のような2017年の7月末まで辿ってきました。そこから数ヶ月は目立った動きはありません。11月3日にアルバム『Treehouse(2016)』から『Everyone's Safe in the Treehouse』のMVが公開されます。

 このMVは東南アジアでロケをしてて、ちょっと変わったものになってます。MVの最初でDevinは、アジアで唯一無二の素晴らしい経験をしたと、そのような趣旨のプロローグを語っています。バリ島で仲間とともに水に浸かっていたかけがえのない瞬間のこと。過去のことを考えるのではなく、未来に起こることにわくわくしていたこと。そこにいる間、ショーであろうと何をしようと、特別なことをしたいという衝動を強く感じたこと。新しいレンズを通して、自分の生き方を俯瞰し、新しい文化に浸ることでPeaceというものとの圧倒的な一体感を感じたこと。外を見るとファンたちが歌っている姿。夢にも思わなかった場所。このために、パフォーマンスをするためにぼくらは生きているんだ。このように語ってます。Xでは、MVのリンクと一緒に、アジアのファンの存在をとても光栄に感じている、と思いを綴っています。
 
 さて、2017年12月I SEE STARSが来日しました。12月3日に開催された'ACROSS THE FUTURE 2017'という毎年恒例のイベントに、Crossfaithなどの邦ラウドロックバンドと一緒にI SEE STARSが出演しました。

I SEE STARS @iseestarsmusic

 また帰ってきてほしいです。そのためには、日本のI SEE STARSファンのプレゼンスを示してわかってもらわなきゃならないわけですが。……微力ですがおれもそのために頑張ろうと思います。

 んで、年越して2018年。例によっていろんなバンドとコラボしてのショーやイベントへの出演を続け、4月になります。4月6日、アルバム『Treehouse(2016)』のacoustic versionとなる『Treehouse(Acoustic)(2018)』アルバムが一般リリースされます。アルバムというよりEPですね。

 この『Two Hearted』すごく好きです。Devinもこの曲が気に入っているようです。

Devin Oliver@devinoliver

今日、ぼくらの新しく出したTreehouse Acoustic EPを聴いてる人はいますか?! ぼくらに最初からついてきてくれている人たちのために言うと、ぼくのバンドは常にポップスの影響を(みなさんに)示してきました!『3D』、『What This Means To Me』、『Electric Forest』、『iBelieve』など多くの曲を通じてです。そしてこの曲(『Two Hearted-Acoustic』)はまさにその雰囲気を表現しています。

Devin Oliver@devinoliver

 そうなんですよね。ポップの雰囲気。これはDevinがこの投稿であげた曲だけじゃないです。I SEE STARSはデビューアルバムからポップスのスタイルを基調とした曲をつくってきた。なのに、I SEE STARSといえば、いつの間にかアグレッシブでヘヴィなエレクトロニコアだというイメージが固くなっていた。レーベルがSumerianだというのがそれを規定してますが、やはり『New Demons(2013)』のインパクトが大きすぎたんです。おれもこのアルバムでバンドを知ってリスナーになりましたから。

 だから『Treehouse(2016)』でいきなりメインストリームに寄せてきたと思われたが、その認識は間違っていて、彼らの初期の音楽には常にポップスが重要な位置を占めていました。メインストリームにいたわけではないけど、もともと広い射程で音楽を作っていたことは容易に理解できます。デビューアルバム『3-D(2009)』、セカンドアルバム『The End of the World Party(2011)』を聴けばすぐにわかる。めっちゃキャッチーでポップです。レーベルが変わっていれば、彼らの音楽性はまた別の進化を遂げていたでしょう。その後はメタルコア要素が強くなっていって、『Treehouse(2016)』からはまた違った独自色が強くなっていきます。2019年にDevinはソロプロジェクト『shYbeast』を立ち上げることになりますが、バンドがポップスから離れていったことがこのプロジェクトの大きな起点になっているのでは、と思います。のちにまた触れます。
 
 I SEE STARSとともにエレクトロニコアを共に牽引していたといえば、Asking AlexandriaAttack Attack!がすぐに思いつきます。が、初期Asking Alexandriaのアルバム『Stand Up And Scream(2009)』は歌詞が酷いし(もちろんgoodな意味で)、その後のハードロック路線での大成功を既に予感させるもので、エレクトロニック要素はありますがポップスとは距離がありすぎます。クリーンとスクリームをDanny Warsnop一人でやっていることもスタイルとしては大きく違います。明と暗をクリーンとスクリームできれいに分けるスタイルではなかった。キャッチーでメロディアスな点では初期Attack Attack!I SEE STARSはかなり近いです。ただ、Attack Attack!『Someday Came Suddenly(2008)』というアルバムを出したときに音楽評論家たちに槍玉にあげられて、ずいぶんと批判にさらされました。エレクトロニカもハードコアもどっちつかずのbanger(昔流行ったものの焼き直し)だと。クリーンボーカルが基本加工ボイス(autotune=ピッチ補正、ボコーダー=変声)だってのも批判されてましたね。あとMVがださいって。ひどいですね。「crabcore」っつってネットミームにもされてます。検索してみてください。だからかAttack Attack!はエレクトロポップの要素を抑えるようになった。次の大傑作セルフタイトルアルバム『Attack Attack!(2010)』では、エレクトロな要素を数曲に適用しているのみです。ヘヴィネス、バラード、エレクトロニコアにポップ。どの曲もまとまりのいい曲で、洗練されています。おれはこのアルバムで、Attack Attack!がメタルコアにおけるひとつの最適解を出してしまったんだと今となっては思います。彼らは二作目にして早すぎる成熟を迎えて、そこでバンドとして完成してしまいました。このアルバムは著名な音楽雑誌でも高順位で取り上げられ、初週に15,000枚以上売り上げました。彼らの試みは評価されました。ただ、それでも彼らは音楽評論家に執拗に叩かれ続けました。特にエレクトロポップの要素について。新奇性がないとか。アルバムにまとまりがないとか。まだcrabcoreがどうのだとか。でもぶっちゃけそんなことはどうでもいいんです。批評家だか評論家がなんて言おうとも、Attack Attack!の曲は広くリスナーを獲得しています。今でも。評論家よりもファンの方が大事です。彼らのこのアルバムはメタルコアファンのマスターピースの一つです。次の『This Means War(2012)』ももちろん好き。Caleb shomoのその後のプロジェクトも素晴らしい。今はAttack Attack!に何が起きてるのかよくわかりません。

 で、I SEE STARSはといえば……、Devinが投稿で言っていたことを深掘りしてみます。つまりI SEE STARSがポップスをやってたということ。デビューアルバムから辿っていきましょう

 2009年4月14日にリリースされたデビューアルバム3-D(2009)』。Devinもさっき言及してた『3D』です。これをポップと言わずに何がポップなんだという感じ。

 あ、Devinはこのとき17歳です。もうめっちゃかわいすぎやばいって。Sugar-coated white lies(砂糖でコーティングされた真っ白な嘘)って「君」に語り掛ける歌詞から始まるんですけど。なんて皮肉が効いててチャーミングな比喩なんだ。文才はこの頃からキレてます。この曲は、もう君にはついていけないよ。俺には俺の人生があるからね。ってうたってます。何が3Dなんだろ。これが現実、って感じですかね。ポップ・パンク? エレクトロ・ポップ? エレクトロニコア? なんかこうやってジャンル分けするのは馬鹿らしくなってくるのでやめたいんですけどね。曲を語るときに、ジャンルでしか音楽を語れないのはものすごく貧しい。まあとにかく、始まりからI SEE STARSはポップスをやってた。で、このポップな感じがI SEE STARSっぽさだった。先ほどのDevinの投稿では、いくつか曲の例を出しただけでしたが、他の曲も総じてポップです。ヘヴィーなリフとZach Johnsonのスクリーム。それと入れ替わるようにしてエレクトロパートで光のようにDevinの底抜けの明るいハイトーンがポップに響く。歌ってるのは皮肉なんですけどね。ヘヴィな要素はあるんだけど、前に出てるのは明るいポップ。この雰囲気。このノリ。このポップな響きが特徴なのはこの後のアルバムでも続きます。

 スクリームボーカルのZach Johnsonの名前を出しましたが、彼はバンド内でいざこざがあって『3-D(2009)』アルバムリリース直後に脱退してしまいます。ですが一年したら戻ってきます。その間は元We Came As RomansのメンバーだったChris Mooreが加入しスクリームとキーボードを務めます。で、一年して新アルバムを完成させたところで、「音楽観が合わない」ことから脱退して、Zach Johnsonが復帰します。I SEE STARSファンはスクリーマーZachのことが大好きです。2024年現在未だに彼の名前を出すくらいに。なんでそうなのかに関してはのちにまた触れることになります。とてもクリティカルな問題なので。

 ちょっと思いつきですが、こういうヘヴィなスクリームパートと甲高いメロディアスなクリーンボーカルパート。この二つが入れ替わって曲が進行するスタイルはメタルコアの典型の一つで、エレクトロニコアでより強調された形になったのかなと。ヘヴィで暗いパートがキラキラエレクトロパートでより際立つ。頭も振れるし肩でノれるしジャンプもステップもできる。『New Demons(2013)』ではそれに加えてモッシュもサークルランもできるようになったわけですが。エレクトロパートでスクリームしてるのもすごい気持ちいい。

 2011年2月22日に正式リリースされた2ndアルバムThe End Of The World Party(2011)』。このアルバムで一番人気なのは、タイトル曲『The End Of The World Party』です。この曲もやっぱりDevinのパートはとても明るくてポップです。やっぱりこれがI SEE STARSっぽさなんですね。この曲は正直何を歌ってるのか自分にはピンと来なかったので他の曲の方が好きです、おれは。

 Not where I thought I’d be eighteen living the dream(夢を生きる迷子の18歳)という歌詞が出てきます。Devin18歳です。

 他の曲では、もっとそのぽさが顕著です。『Still Not Quite Enough』とかすごく好き。で、このアルバムのラストトラックは『Pop Rock And Roll』。すごく素敵なタイトルです。やっぱポップなんですね。

 このアルバム、正式リリースは2011年なんですけど、2010年6月頃にはもう完成してたらしいんです。で、その頃に、スクリーマーだったChris Mooreが「音楽観の違い」で脱退した。おれの推測ですが、彼はI SEE STARSポップ路線に耐えられなかったのではないかと思います。このセカンドアルバムはデビューアルバム『3-D(2009)』よりもポップな曲が多くて、スクリームが活躍する曲も少ない。だからだと思います。

 アルバム『The End of the World Party(2011)』ですが、先ほど、正式なリリースよりも半年以上も前の2010年6月頃にはアルバムができていたと書きました。前作のデビューアルバム『3-D(2009)』は2009年4月14日リリースです。わずか一年ちょっとで新アルバムを制作している。バンドはツアー中にアルバムの中からいくつか曲を披露していますが、やはりリリースまでのこのラグ。正式リリースが年をまたいだのはSumerian Recordsのマネージャーか誰かが遅らせるように進言したんじゃないかなと邪推します。ミキシングマスタリングが遅れたとかってのは考えにくい。前作と同じプロデューサーだし。ツアーの組み方とか、次のアルバムまでのつなぎをどうするかとか、まだ『3-D(2009)』をこすれるとか。ほんと邪推になっちゃいますけど。バンドは完成していたできたての熱がこもった曲たちを懐に秘めながらライブを行っていたわけですから、どんな心境だったのかなと。まあこんなことはよくあることなんでしょうけど。大人の都合ってやつ。けど、やはり一年でアルバム制作してんのはすごい。プロデューサーが同じだったからとはいえ。で、この高速アルバム制作ペースはこの後も続きます。『New Demons(2013)』まで。このアルバム制作ペースのカラクリに関しては自説があります。これも後ほど触れます。

 2012年3月14日に3rdアルバムDigital Renegade(2012)』がリリースされます。プロデューサーが前作とは変わります。『Filth Friends Unite』を筆頭に、メタルコアとハードなダブ・ステップ要素が出てきて、それまで全体的な基調となっていたキラキラしたポップス要素は後ろに下がります。また、曲の表情が多彩になったのがわかります。各パートでガラッと印象が変わり続ける。情報量がとにかく増えました。

 攻撃的ですね。歌詞も社会問題を基底にしていて、メッセージ性も鋭いです。アルバム全体をみても、Devinの歌唱が減り、スクリームZachの存在感が増しました。そして、前作よりも圧倒的にメタルコア化しています。ポップが後ろに下がってメタルコアに道を譲ったといったところ。でもって、各曲にもところどころポップの要素は顔を出していて、ぽさは少しですが残ってます。Devinの投稿でポップな曲としてあげていた『iBelieve』と『Electric Forest』もそうですし。

 このアルバムは商業的にも大成功を収め、より多くのファンを獲得します。メタルコアファンですね。対して、それまでのI SEE STARSファンの動揺が心配されました。このアルバムでバンドが方向転換したと語られることが多いのは知っていますが、おれはどうしてもそうは考えられません。より多彩になってヘヴィに進化したことは明らかですが、これは曲の作り方の変化であって、彼らの転向を意味しないと思います。Devinもインタビューで、何か特定のサウンドを志向していたわけではなく、純粋に楽曲のクオリティを上げる新たなチャレンジをした結果がこのアルバムなのだと、アルバム成功を受けて興奮交じりに答えています。おれは、やはり前2作とこのアルバムの明らかな連続性と一体性を確信しています。なぜならそれは、前述した彼らのアルバム制作スピードがそう思わせるからです。
 
 前作『The End of the World Party(2011)』は2010年中頃には完成していたと書きました。多く見積もって前作から2年弱でのリリースです。やっぱり早い。その仕事の早さについて彼らは、インタビューでマルチタスキングをしていたと語っています。ツアー中に曲を書いて、ツアーが終わった頃にはアルバムがひとつ出来ていた、そう言っています。そして、出来た12曲を新しいプロデューサーのもとに持って行ったそうです。リリースされたアルバムの曲数は10曲なので、2曲間引かれたか、他の曲に吸収されたり合体したりしたんでしょうね。で、スタジオでプロデューサーと曲のマッシュアップに集中する。通常ならプロデューサーと一緒に曲を書くのでしょうが。だから、このアルバムの本質的な部分はプロデューサーの変更とは関係がない。このアルバムは、あくまで彼らの愛するロックとEDMを深化することにフォーカスしてつくられた。それはそれ以前のアルバムでもそうだし、次のアルバムでもそうです。それは、彼らが特定のサウンドに固執せずに、ロックという広いフィールドでとにかく多様な音楽を展開しようとしてきたということを表しています。そして次のアルバムも高速で出来上がります。おれが強調したいのは、彼らが「息継ぎせずに」曲を書き続けていたという事実です。多様な音楽の展開は連続的に行われてきた。


 前作からわずか一年半で完成させた四枚目のアルバム『New Demons(2013)』は2013年10月22日にリリースされました。このアルバムはメタルコアファンとEDMファンに言わずと知れたアルバムで、前作の勢いのまま大成功を収めます。初週で10,000枚を売り上げた。『Murder Mitten』。もうバッキバキに究めたハードスタイルEDM。ライブでやったらもう大変なことになる曲です。ポップさは感じられませんね。エレクトロニカとメタルコアを同時に究めたらこうなった。ここでエレクトロニコアは完成して、頂点に達しました。

 この曲は、アル中だった母親とオリバー兄弟(ボーカルDevinとドラムAndrew)の深刻な関係をうたったものです。かなり二人のトラウマ、というか家族のトラウマに深く迫っていますね。家族のトラウマを抱えている方は珍しくないと思いますが、たいていの方は掘り返したくないと思ってるんじゃないかな。でも封印しているつもりなのに、ふとしたとき、ふとしたきっかけでフラッシュバックして苦しめられる。『Murder Mitten』は、そういったトラウマに苦しめられ続ける状態から決別して前に進むための曲です。Andrewもドラムを叩きながら歌うところがあります。彼の声もDevinのように美しいです。このアルバムをつくった頃、彼らは20歳くらいです。重要な節目に立っています。この曲は彼らのアイコンのひとつです。せっかくなので動画を詳しく見ていきますか。

 映像内では、キッチンドリンカーの女性が倒れてしまうシーンがありますね。最初と最後はホームビデオ。最初のシーンは1993年、マイクを持って歌うDevin1歳、サングラスをして微笑むAndrew3歳。アル中のママが虐待でもしてんのかなって思ってたけどそんなことはなくて。"Now it's a solo by Devin."「Devinのソロだね」母親が言っています。"Hi, Andrew let's singing a song now."「Andrewも一緒に歌おうよ」父親が言っています。これ聴き間違ってたら恥ずかしいな。まあとにかく微笑ましいシーンでノスタルジーを感じさせます。あまり、ビデオの内容には意味がなくって、あくまでノスタルジーを誘う素材として導入されてるって感じですね。バンドが演奏中もホームビデオのカットインが入ってきます。ホームビデオのカットインはカラーなのに、バンド演奏シーンは白黒です。カットインは赤く塗りつぶされていきます。Devinが壁に赤いペンキを塗って、赤い「i」をなんか「これでいいんだ」って感じで見上げる。Andrewがペンキをぶちまけて、バンドは楽器を破壊して、Andrewが真っ赤になった壁をなんとも言えない表情で見上げて去っていきます。最後にはまたホームビデオで、父親がAndrewになんか言わせてますね。マイクスタンドを握らせてショーを模してビデオを撮っています”……thank you very much ladies and gentlemen.”"Thanks for coming my show."”And I hope you help wonderful time.””See you later.”おぼつか無い舌使いがかわいくて微笑ましいです。ただ悲しくなります。バンドが楽器を破壊したり、赤いペンキを塗りつぶしたりぶちまけたりするのは、無傷では変化と前進が得られないということを示しています。動画の最後には、赤文字で次のような文章が。

"CHANGE IS INEVITABLE AND MAY NOT INTRODUCE ITSELF IN THE KINDEST OF ALL WAYS. THE IDEA IS TO FIND HOPE IN SOMETHING. ANYTHING. NEVER LOSE HOPE IN YOURSELF. NEVER LOSE HOPE IN FAMILY. THIS SONG IS DEDICATED TO DEBRA OLIVER, WHO HAS FINALLY FOUND HOPE IN THE WORLD AGAIN. WE ALL LOVE YOU, MOM."
         -DEVIN & ANDREW OLIVER

I SEE STARS - Murder Mitten (Official Music Video)

 つくづくおれに響きますわ。訳します。

「変化は避けられないとともに、最も優しい方法でもたらされるとは限らない。何かに希望を見出すことだ。それが何であれ。決して自分自身を見捨ててはいけない。決して家族を見捨ててはいけない。この歌はDebra Oliverに捧げられた。彼女はようやく、再び世界に希望を見出すことを叶えた。みんな愛してるよ、ママ。」

 タイトル。『Murder Mitten』。Murder Mittensといえばネットミームです。直訳で「殺人犯の手袋」ですが、ミームでは猫の足のことです。鋭い爪を持ってるのに愛らしい猫の足を愛情を込めてMurder Mittensと呼んで愛でてるんです。殺人的な可愛さだって。ネット界、猫ミームには事欠きませんね。あと、murderってmotherと似てますよね。mittenミトンなので厳密には手袋の中でも鍋つかみ(あるいはそのような形状の手袋)を指します。指が分かれてない手袋ですね。MotherがキッチンでMittenをはめて鍋を掴んでいる。料理をする母の温かい姿。殺人犯の鍋掴み。殺人的で甘いアルコールの誘惑。

 なんかこの曲について語りすぎましたね。もしかしたら、この文章コピーしてこの曲の翻訳記事に移植するかも。いや、もうあまり予告はしたくないんですが。いや、しませんと言っておきます。もう十分だよね。他の曲の話もしないと。
 
 まあ、とはいっても、このアルバムはもうみんな大好きなのであえて付け加えることはないでしょう……。なんかおれも息切れがしてきましたが……。まあ全部神曲です。前作『Digital Renegade(2012)』で顕著になったハードなEDMサウンドがより激しくなりました。DevinよりもスクリーマーZach Johnsonがメインボーカルです。エレクトロニコアの極致、といいたいところですが、エレクトロニコアというジャンルに閉じ込めたくはないな。おれはここであえて、エンターテインメントということばを使いたい。このアルバムは圧倒的に楽しいエンターテインメントです。そして、彼らI SEE STARSがデビューアルバム『3-D(2009)』からずっと追及してきたEDMの深化は、この『New Demons(2013)』で完成、完結したのではないか、とおれは思います。

 こうやってアルバムを辿ってきたのは、Devinの「I SEE STARSはずっとポップスを示してきた」という投稿が意味深いと思ったからでした。つまり彼は、I SEE STARSは単なるエレクトロニコアバンドじゃないと言いたかったのでは。そして、ロックEDM、ポップスなど、もっと広い音楽世界の中で曲をつくってきたのだと言いたかったのではないでしょうか。さて、準備ができました。ここで前述した、彼らのアルバム制作スピードに関する自説を話します。

 I SEE STARSは2009年のデビューアルバムから約五年間で、なんと4つのアルバムをリリースしました。『3-D(2009)』・『The End of the World Party(2011)』・『Digital Renegade(2012)』・『New Demons(2013)』。ほぼ毎年アルバムを出しています。結論から言います。この驚異的なアルバム制作の早さは、これら4つのアルバムの中の曲たちがすべてシームレスにつながっていることを示しています。これらは4つで一つのアルバムなんだ。これがおれの主張です。きわめてシンプルです。ただこれは重要な視点だと思います。四つすべてのアルバムが、ひとつのアルバムに入ってしまうのではないかとさえおれには思えるのです。彼らは息継ぎせずノンストップで曲を作り続けていたので、曲はアルバムごとに区切られてはいるものの、コンセプトは変わっていない。というかアルバムそれぞれにコンセプトは特になかった。彼らはアルバムごとにコンセプトを用意してから曲を作るということをしない。なにか一貫性みたいなものがあるとすれば、彼らの愛するEDMの深化です。この4つのアルバムの軌跡は彼らのEDMの徹底的な追及の軌跡です。彼らはエレクトロなポップから離れていったのではなくエレクトロをより「多様に」深化させていった。多様な絵の具の色を混ぜて、新しい色をつくろうとする営み。そして、そこにあったのは、純粋にいい音楽を書こうとする姿勢。何かにとらわれずに、ひとつの曲に集中して音楽をつくる姿勢。だから、ポップスに背を向けたのではなく、それを含めた多様な音楽の展開のすべてがI SEE STARSだったということです。すべてが彼らの手札であり、各アルバムは比較不可能なのです。そのすべてがI SEE STARSですから。

 ポップスからメタルコアへ。彼らは、自分たちの音楽の多様さを大きく示してきた。互いに遠い場所に位置するはずのポップスとメタルコアとの2つのジャンルを華麗に横断し、エクストリームなEDMを追及し深化させていった。それは多様な音楽の展開だった。メタルコア要素が強化されていったのは、彼らがSumerianにいたからというのも大きい。もちろん彼らがメタルコアを愛していたことは決定的に創作に反映されてます。おれが言いたいのはつまり、Sumerianが抱えていたファン層が彼らのメタルコアへの傾倒を強化したのだということです。Sumerianにいて、Sumerianに所属する他のバンドとツアーを回る中で、彼らはSumerianのメタルコアファンの観客からフィードバックを得ます。もちろんレーベル押しなんかしてない人もいるし、riseとかepitaphのアーティストのファンからもフィードバックを得ます。だから、リスナーの喜ぶポイントの反映と自らの表現の深化との両方の模索が無意識的になされていた。彼らが過去熱心に聴いていたメタルコアバンドたちもそうだし、Sumerianにいて他のバンドと一緒にツアーを回る中で影響を受ける中で、彼らのEDMのエクストリーム化とメタルコア化がカチッと嚙み合った。

 5年間、彼らはあくまで連続的に曲をつくり続け、そうやってつくられた曲たちには分かちがたい一体感がある。そのすべてがI SEE STARSだという一体感。5年間の4つのアルバムのどの曲を並べたとしても、その曲たちは彼らの追及する多様な音楽展開の連続性の一部であり、一体感の中にある。繰り返しますが、これがおれの主張です。先ほども言ったように、彼らは意識的にポップスから離れたのではない。ポップスは常に彼らの手札にあった。繰り返します。彼らの多様な表現の深化がそれまでの彼らの連続的な軌跡であり、『New Demons(2013)』でそれが完了した。だから、彼らはある特定のサウンドを志向していたのではなく、彼らの中には常に別の表現が拡張する可能性が多様にあった。何度も繰り返します。『New Demons(2013)』までの軌跡は、新しい多様な音楽の展開としてつながっている。彼らの手札を広げていく過程。ポップスからメタルコアへの長い距離をEDMを介して多様な色使いで走り抜けた。何回も強調しますが、『3-D(2009)』から『New Demons(2013)』までの5年間のアルバム制作が極めてハイペースで連続的に行われていたことがこれらのことを証明しています。5年間ずっと、一曲一曲の曲制作が連なるように、そして同時に行われてきた。つまり、5年間かけて、I SEE STARSは一つの壮大なアルバムを制作していた。そして、その大きな一つのアルバム内の曲は、すべてが「リアルタイムの」I SEE STARSだったということです。

 彼らはポップス、そしてメインストリームに意識的に背を向けたことは一度もなかった。だから、『New Demons(2013)』リリース後の彼らは、求めていたエクストリームEDMの結実とスクリーマーZackとギターJimmy Gregersonの脱退などバンドのメンバー再編成もあいまって、初めて水上に上がって一度息継ぎする機会を得た。なので、それからの彼らの創作表現が、一番意識的に行われたものなのだと思います。EDM深化の長距離走を一旦走り抜けた。そして、そこで初めてまともに息を整えて、新たな音楽制作への方向性を見つめなおした。5年間かけて一つの壮大で多様なアルバムを作り上げたあとに、次は何の音楽をするのか。この姿勢は、後に触れる、DevinのRedditという掲示板型サイトでのファンとのやりとりからもわかります。彼は音楽をに例えています。

 『Treehouse(2016)』はそれまでの制作スピードの二倍以上の時間がかかっている。Devinも、これまでで最長の制作期間を要した『Treehouse(2016)』に関して、インタヴューでその苦労を語っています。だから『Treehouse(2016)』はそれまでのスタイルと一線を画している。そこで彼らは、自らの表現の可能性を今一度開こうとしたのではないかと思います。『Treehouse(2016)』はよくも悪くも、統一感のないアルバムです。それぞれの曲はみな別の方向を向いているように感じます。でもそれは、それ以前とあまり変わってないんじゃないかな。アルバムごとにコンセプトを用意しないというコンセプトは。彼らは、今一度、I SEE STARSとは何なのか、どんな音楽をやってきたのか。そして、新しく何ができるのか。それを問い直した。彼らがずっと追い求めていた音楽というのは、単なるエレクトロニコアではなかった。もっと広い音楽世界の中で彼らは活動していた。ポップスもメタルコアもエレクトロもすべてがI SEE STARSであり、彼らの壮大なロック・ミュージックだった。そこが、一部のリスナーとの齟齬だったのでしょう。だから、彼らにとって『Treehouse(2016)』は、『Digital Renegade(2012)』と『New Demons(2013)』で拡大したファンたちへの挑戦でもあった。しつこく繰り返してきましたが、I SEE STARSはもっと広いフィールドで音楽をしてきた。彼らの音楽はすべてつながっていて、それをアルバムごとに分けるから誤解が生まれていた。あのアルバムはいい。あのアルバムは悪い。どうこう。って比較するからね。しかしながら、彼らの現在のスタイルは、彼らの初期のスタイルとは不可分なのです。連続しているから。というか、それは"同時に"行われてきたから。ノンストップで作り上げてきた、その多様な音楽すべてが彼らなのだから。そして、その連続的な活動I SEE STARSがこれまでに広く音楽をやってきたことを確かに示してきた。彼らは、『Digital Renegade(2012)』をリリースしたときに、特定のサウンドを志向してはおらず、とにかく良い曲を書くことを目指しているのだと語っています。ここまでデビュー作から軌跡を辿ってきたおれたちには、その意味がわかります。この4つのアルバムはつながっている。そして、この4つのアルバムはすべてが彼らのスタイルであり、それは今も変わらないということ。『Treehouse(2016)』リリースから2年が経ってからのDevinの投稿、そして『Treehouse(Acoustic)(2018)』のリリースには、このような姿勢を示す意図があったのだと、おれは確信しています。

 さて、Devinの2018年4月の投稿に触発されて、奇しくもI SEE STARSの歴史を辿ることとなりました。長い回想でした。結果的に、この記事はI SEE STARSの全史のようなものになりましたね。全史って言ったら大げさですかね。まあ、彼らのことがよりよくわかったのでとてもよかった。これでまた前に進むことができる。よし、整理完了。前へ進みましょう。

 
 ときは2018年。アルバム『Treehouse(Acoustic)(2018)』がリリースされましたね。おれはこのAcousticアルバムが出たとき、当然楽しく聴いてはいたんですが、他方で「とりま新曲をはやく頼む!!!!!!!」って感情が抑えられなかったですね。今なら、このアルバムは彼らの表現したいものの追求の一つだと理解できて、その深みにも浸れますが、その頃のおれは「アルバムできないからって時間稼ぎしてるのでは……?」という下衆な思考になってしまったんです。どうしてもそういう思考が拭えなかった。だから、おれの中ではacousticのEPがリリースされてるのに、空白の7年間なのですね。彼らにとっては空白でもなんでもなかったわけですが。

 ここまで読んで頂いた方には自明の通り、「空白の7年間」というのは、単なるおれの主観にすぎませんでした。ただ空白はやってきます。I SEE STARSは2016年『Treehouse(2016)』以降、意欲的にツアーやイベントに出演し続け、パフォーマンスを続けていました。それが2018年になってから徐々に活動が鈍化していきます。

I SEE STARS @iseestarsmusic

オーケイ、少しまじめな話だけど、TREEHOUSEがリリースされてから二年間、聴いてくれているみんなに感謝している。本当に素晴らしい時間だった。みんなとこの時間を共有できてとても幸せ。愛をこめて

I SEE STARS @iseestarsmusic

 ただ、ここらへんからツアーへ参加しなくなります。新曲を制作しているという情報もありません。
 2018年8月25日、また訃報が。We Came As RomansのボーカルKyle Pavoneの死。

I SEE STARS @iseestarsmusic

今日は友人Kyle Pavoneの生涯を讃える……。ぼくたちのWe Came As Romansとの関わりは、ミシガンでの地元公演から最初のツアーまで遡る。たくさんの愛と思い出が一つの場所に集まったんだ。安らかに、Kyle……たくさんのいい人たちが君を恋しく思ってるよ。

I SEE STARS @iseestarsmusic

 We Came As RomansのクリーンボーカルだったKyleは唯一無二の声を持っていました。ときどきWe Came As Romansの過去のアルバムを聴きたくなりますが、彼の声はよく通る声でとてもクールです。メタルコアファンは、とても惜しい人を亡くしました。
 
 2018年後半は前から見られた活動の鈍化が進み、I SEE STARSは散発的なアコースティックライブ行うのみです。11月末から12月末までは、Acoustic tourが開かれます。が、これもバンドでやるというよりは、ボーカルDevinとギターのBrent Allen二人で回っていたようなものでした。なので、2018年後半からは、I SEE STARSバンドとしての活動は事実上休止となっており、ツアーといえるツアーには参加しませんでした。

 そして、ここで特筆すべきことが。Zackの脱退以降はクリーンボーカルとキーボードを担っていたDevinの兄Andrew Oliverが11月2日に、自身がプロデュースするプロジェクトDream Beachで新曲を発表します。『Our Last Dance(feat.VLPXX)』という曲です。そして翌日、それを含んだEPがリリースされます。EDMです。そのプロジェクトで曲のリリースやDJでの活動が多くなっていきます。さて、ここからですね。I SEE STARSの空白は。

 そして、アコースティックツアーをこなして2019年になります。また規模を縮小したアコースティックツアーで1月、2月に10回ほど公演を。そして、3月にやっとバンドとしてツアーに復帰します。KayzoというDJ主催のツアーに出演します。ただしツアーで各地を飛び回っていたわけではありません。3月と4月に2回ほど出演した程度です。その他は散発的にたまにイベントに出演するのみで、やはり2018年後半からみられた活動の鈍化は続きます。そして4月

I SEE STARS @iseestarsmusic

 Devinのソロプロジェクト開始です。shYbeastについては以前触れましたね。上述もしました。

Devin Oliverと彼の新しい旅、そして新しいプロジェクトshYbeastはとても誇らしいです。このバンドは多様な音楽をあなたに届けてくれるでしょう。まあ、とりあえずは"shYbeast"をフォローして楽しんでください!

I SEE STARS @iseestarsmusic

 2019年4月2日、ボーカルDevin OliverのソロプロジェクトshYbeastの始動が発表されます。Devinは”A new story begins……”と投稿しています。

shYbeast @shybeast

ここから新しい物語が始まる。これは「サイド」プロジェクトなんかじゃない。shYbeastはぼくの将来の重要な構成要素なんだ。曲をリリースするので、人生に新しい音楽を必要としている友達に知らせてあげて。このプロジェクトは、いつでも好きなときに音楽をリリースできることを意味する。そして、それはまさにぼくがこれからやろうとしていること。

shYbeast@shybeast

 shYbeastで自由に音楽をやっていくんだという強い意思表明ですね。ていうか、新しくプロジェクトやるのに、I SEE STARSの片手間でやってますなんて言うわけないですから。Facebookの方ではもっと長文を投稿していて、そこでは、shYbeastI SEE STARS同じように、人生の重要なパーツなんだと言ってますから、I SEE STARSを辞めるつもりなんてサラサラなかったんですね。ただ、ファンたちはいろいろ勘繰ります。I SEE STARSの方は新曲の情報もないですし、活動も活発じゃないですから。AndrewもDream Beachやってるし、もう解散しちゃうんじゃないかって。

 コラボしてリリースした最初の曲です。

 shYbeastはエレクトロ・ポップテイストのEDMプロジェクトです。日本でいうテクノポップ。上述したように、初期I SEE STARSのポップテイストが洗練された形で表現されてます。でもって確実にI SEE STARSではない音楽です。Devinのソロプロジェクトですからね。なんつーかな、Zeddみたいな感じもするけど違う。なんかfuture bassっぽさだったりアンビエントだったりも取り込んでる。Devinが一人で自由に音楽をやるとこうなるのかーってすごく興味深いです。Devinは比較されるのを酷く嫌がるでしょうが、I SEE STARSというバンドを捉えなおすいい資料にもなります。それはAndrewのソロプロジェクトも一緒で、これからのI SEE STARSの方向性にももちろんつながってきます。

 初曲リリース直後、DevinのX(Devin OliverとshYbeastのアカウント2つ)を見てると、本当に楽しそうにしてるのがわかります。I SEE STARSという大きなバンドで曲をつくるのはかなりプレッシャーがあったんじゃないかな。一人で自由に音楽をやることに、とてもワクワクしているのが感じ取れる投稿がいっぱいです。なんですが。

 しかしながらここで、彼は自身の深刻な状態を公表します。2018年からのI SEE STARSの活動の鈍化、そしてAndrewが自身のプロジェクトに集中し始めたことの理由が、ここで明らかになります。Devinが自身の罹患している重い病気を明らかにしました

shYbeast @shybeast

昨年、ぼくの体は頭から脊髄液をうまく排出できないことが判明しました。一年中、入退院を繰り返し、ひどい痛みに悩まされていました。音楽が人命を救うというのはよく聞く話ですが、入院中、歌詞を書くことで生きがいを得られたので、そのことを本当の意味で理解できました。

shYbeast@shybeast
shYbeast@shybeast

 これからたくさんの曲が生まれます。そのほとんどは、人生で最もつらい時期に書いたものです。

shYbeast@shybeast

 前の項でのせた『Anomaly』に関してのインタヴューでも、彼はこの病気について触れていましたね。そのインタヴューでは、彼は2年間の入退院の中で『Anomaly』を書いたのだと言っていました。ということは、2018年から2020年まで、ずっと入退院を繰り返していたということになります。I SEE STARSの活動が鈍化したと書きましたが、それは反転すれば、過酷な病気の中ででも、彼はできる限りの音楽を続けていたということです。おそらくそれが彼の生きがいであり、治療の一つでもあったはずです。入院中はベッドの上で歌詞を書くことが生きがいだったとも書いています。ほんとうにたくさんの歌詞や曲のアイディアを書いていたはずです。つまり、それがshYbeastのプロジェクト始動に繋がった。病院のベッドの上で書いた歌詞や曲のアイディアは、彼が一人で書いたもので、AndrewはじめI SEE STARSのメンバーと書いたものではなかったはずです。その歌詞の多くはI SEE STARSの歌詞ではなく、Devinの歌詞だった。だから、彼はshYbeastとして曲を発表することになった。shYbeastの活動は2021年まで続きます。

 shYbeastの曲と同時期に、病気に苦しむ中で書いていたはずの『Anomaly』はshYbeastでは曲にしなかった。時間を経て約4年後にI SEE STARSの曲としてリリースすることになった。彼は重い病気という異常状態でこれを書いていたが、それが曲になるまでに時間を要した。加えて、それがI SEE STARSの曲として結実した。これはやっぱりshYbeastの色とは違ったからですかね。回想して書いた可能性もあります。他にもあるはずです。今出ている直近のシングルもそのとき書いたものかもしれないし、今つくっている曲もそうかもしれない。これはとても勇気をもらえるエピソードです。病気で最悪の状態のときに蓄積していたものが、のちに芸術作品として結実する。病気で苦しんでいる最中は、時間がただ不毛に過ぎ去っていくように思えるけれど、その時間は決して無駄ではなかった。shYbeastという新しいプロジェクトを生んだし、I SEE STARSで新しい曲を生んだ。

 2019年4月のこれ以降、AndrewはDream Beachで、DevinはshYbeastで順調に曲を発表し続け、ライブに参加しています。このときDevinはまだ病気で入退院を続けていると考えられます。I SEE STARSは時々フェスに参加して演奏していた程度です。活動は断続的に続けていますが、そのうちI SEE STARSのX公式アカウントがあまり更新されなくなります。

 こんな投稿もありますが、今となってはよくわからない。

I SEE STARS @iseestarsmusic 

2019/11/04 バンドは、来年MCRをサポートするときにニューアルバムをリリースすることを決定しました。このアイデアに賛成なら「いいね」、泣きたくなったら「RT」してください。

I SEE STARS@iseestarsmusic

 MCR。ちょうどこの数日前、2019年の10月31日My Chemical Romanceが再結成を発表しています。で、2020年から再結成ツアー開始を発表。世界中大歓喜。ただ、今となってはこの投稿はよくわかりません。I SEE STARSがほんとうにマイケミのサポートバンドとして再結成ツアーに参加するならやばいです。けど、今となってはわからない。

 ただ、2020年初頭からCOVID-19のパンデミックで世界中が大変なことになります。2019年末にマイケミは一回再結成ショーを行って、2020年からワールドワイドツアーが開始予定でした。コロナでそれが延期しまくって、結局ツアーが開始されたのは、2022年5月です。もしかしたら、ほんとうにI SEE STARSは2020年にマイケミのサポートバンドを務める予定で、コロナでその話がぶっ飛んだのかもしれない。で、同じくアルバムも、2020年に発表予定だったのが、コロナで予定が狂いまくって、ぶっ飛んだのかもしれない。Devinが上の投稿を引用RTして、"I’m crying already"とだけ言ってます。その数分前には"I wish MCR would get back together."と投稿しています。together一緒に帰ってくることを願ってる。いや、マジでわからんので誰か教えてください。マイケミとI SEE STARSってそんなに関係値あったの? 冗談にしては笑えないのでマジで教えて。

 で、DevinはshYbeastで頻繁にコラボをしながら曲をリリースし続けます。AndrewもDream Beachに集中しているため、ファンは不安になってきます。これってI SEE STARSの終わりを意味するんじゃないのかって。ですが、それはDevinがredditで否定します。彼はただやりたい音楽を自由にやりたいだけ。そういう時期だった。

 2020年に入って1月18日、DevinもといshYbeastは、redditという掲示板型ソーシャルサイトで、AMA記事を開きます。AMAは”I Am A”もしくはネットでよく知られた”Ask Me Anything”の頭文字をとったものです。”I AM A”は「私は○○だけど質問ある?」ってやつですね。Ask Me Anythingはそのまんま「何でも質問して」。

reddit

Devin Oliverです。I SEE STARSとしてご存じかもしれません。shYbeastという新しいプロジェクトを始めて、先月、ファーストシングル『no 1 else』をリリースしました。何でも質問してください、旅に参加しましょう!

reddit

 ここでユーザー達から質問を募っていきます。いくつか抜粋します。shYbeastに関してや日常的なトピックも面白いですが、ここでは主にI SEE STARS関連のものを取り上げますね。キリがないので。他のユーザーからみて良い質問はグッドボタンみたいなのが押されて上に上がってくるのでわかりやすいです。

reddit(もうキャプション入力するのがめんどくさいから許してください)

Q:やあ、Devin! 私は新しい音楽が好きです。『no 1 else』はよく聴いてます。あなたはボーカルトラックだけを担当したのですか?それとも曲はすべてあなたが作ったのですか?また、これはI SEE STARSの終わりを意味するのでしょうか?もしそうでなかったら、いつになったらあなたとメンバーたちから新しい音楽が生まれるのでしょうか?
Devin:やあ!この曲(『no 1 else』)はぼくが作曲して、共同プロデュースして、演奏したんだ。このプロジェクトで聴ける曲はすべて、ぼくが作曲、共同プロデュース、演奏したものだよ。I SEE STARSに関しては、まだ終わったわけじゃないよ。今こうしてる間にも新曲に取り組んでる。だから、もうすぐバンドから何か新しい曲が聴けるだろうから、安心して待っててほしい:)

reddit

 つまり、I SEE STARSはずーっと新曲制作に取り組んでたってことですね。当たり前ですね。それはずっと前からそうだったのでしょう。『Treehouse(2016)』をリリースしてから、ツアーをしながら、アコースティックアルバムをリリースした後も、Devinが重い病気に罹患してからも、I SEE STARSの活動が鈍化してからも、AndrewとDevinが自身のプロジェクトを積極的に進めている最中でも、この2020年1月の時点でも。もうバンドはめちゃくちゃ苦悩してたってことがわかりますね。こうやって何度も新曲やアルバムに関して触れることがあったということは、デモ曲はいくつか出来てた。でもそれがレコーディングに繋がらなかった。いろんなものが噛み合わなかったんだろうなあ。推測にすぎませんが、コロナ、ソロプロジェクト、Devinの病気、プロデューサーがつかまらないとかetc……。うーむ……。どうなんだろう。想像をたくましくしても仕方ないですね。次に行きましょう。

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Q:I SEE STARSと比べて、shYbeastでの作曲で気づいたチャレンジとは何ですか?
Devin:コラボとひとりでの作曲の間にチャレンジがあるね。どちらにも長所と短所がある。I SEE STARSでは、自分のクリエイティブなアイデアに常にさまざまな人がチャレンジしてくるという意味で、とてもやりがいのあるプロセスだよ。頭痛の種になることもあるけど、本当に素晴らしい曲ができることもある。shYbeastでは、クリエイティブな自由がたくさんあるから素晴らしいことだね。でも、ひとりで作曲するのは大変。すべてが自分にかかってくるから、プレッシャーも大きい。でも、どちらもとっても楽しいよ。

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Q:I SEE STARSからリリースされる楽曲は、フルアルバムになりますか?それともシングル?
Devin:フルアルバム😝

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 確認しておきますが、これは2020年の1月時点です。Devinのこの反応を見ると、やはり作曲はある程度進んでいた。実はここから1年後の2021年4月時点、バンドのマネージャーかプロデューサーのNick Scottのインスタの投稿から、バンドがスタジオでアルバムのレコーディングを行っていたことがわかります。プロデューサーはDavid BendethとNick Scott、『Treehouse(2016)』と同様Luke Hollandがドラムを担当していることが確認されます。Nick Scottは、一ヶ月半のレコーディングの後、アルバムはレコーディングを完了したと明言しています。2021年の時点です。あとでも触れます。

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Q:あなたのソロ曲も聴いていますし、I SEE STARSもずっと聴いています。実はシカゴのWarped Tourであなたに会って、バンドのサイン入りCDも持っています♡ソロ活動を続けるためにI SEE STARSを完全に辞めることを考えたことはありますか?
Devin絶対ない!
----------Reaction:神様、ありがとう。r/ISeeStars(redditにおけるコミュニティみたいなもので、そこではI SEE STARSをテーマに語る掲示板が乱立している)ではバンドが解散するという憶測が飛び交っています。11月にAndrewと話したときに新曲が出ると言っていたのは知っていましたが、二度目の確証を聴けてよかった。

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 マジで、この頃のredditにはそういう憶測が飛び交ってます。DevinとAndrewは自分のプロジェクトに集中しているし、バンドはもう解散の発表を待っているだけなのだとか。未だに2015年に脱退したスクリーマーZackのこととか。『Treehouse(2016)』への不満とか。まあとにかくみんな悲痛にうめいていましたね。ここで断言してもらえて、ファンは本当に嬉しかったと思います。おれもこれからバンドが続いていくことの傍証が得られたので少し安心。

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Q:何のインスピレーションを得て、このプロジェクト(shYbeast)を始めたのですか?
Devin:ぼくのインスピレーションは、もっと曲を書きたいという深い衝動からきてるんだと思う。音楽にはとても広いスペクトルとたくさんの色がある。このプロジェクトは単にもう一つの色なんだと思ってる。I SEE STARSが色であるようにね。

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 これです。上でI SEE STARSのアルバムを振り返ったときに、デビューから5年間の4つのアルバムはぜんぶつながっているんだ。5年間彼らは一つの大きなアルバムを制作していたんだ。『Treehouse(2016)』はそれを外に開く展開のアルバムだったんだ。と自説を振るいました。それは、Devinのこのことばを踏まえて直観したことです。DevinはI SEE STARSの色を見極めている。それがどんな色をしているかを確かに捉えている。それはつまり彼らの曲すべてがその色をベースにしているということです。彼のこの音楽観、音楽には広いスペクトルとたくさんの色があるという考えは、他の多くのアーティストも賛同するんじゃないかと思います。

 ま、redditはこんな感じですね。あとはたわむれと同じような質問です。 Devinは何度も、I SEE STARSでは必ず新曲がリリースされるから安心して、と繰り返しています。shYbeastでは毎月シングルをリリースするつもりだとも意気込んでいました。ほんとうに、このプロジェクトを楽しんでいたのだと思います。

 Devinから希望的なことばをたくさんもらいました。I SEE STRASのアルバム。shYbeastでの自由な活動への意気込み。ただ、このあとコロナのパンデミックです。

shYbeast @shybeast

2020/03/16 計画を立てる余裕がなくなってしまった人や、この世界的な災害のさなかで孤独を感じている人々のことを考えずにはいられない。みんなは安全で清潔な生活を送るために十分な情報を得ていると思う。だけど、人間らしさは忘れないようにしよう❤誰かに食料品を送ったり、孤立している人に電話をかけたりしよう。

shYbeast@shybeast

 Devinすごいですよ。この一ヶ月後の投稿でショートメッセージでチャットしようって言って自分の携帯番号晒してんですよ。もうたまらん。たまりませんね、この人は。今でもその投稿残ってるんだけど、通じんのかな。んなわけないですけど、近々暇なときやってみます。一応。
 
 
さて、コロナは世界中のアーティストの活動に甚大な影響を与え、ストップをかけました。I SEE STARSも同様に。I SEE STARSも実際、出演予定だったフェスやショーはキャンセルになりました。で、I SEE STARSの2020年は何事もなかったかのように過ぎていきますコロナの影響で。上の前年11月のマイケミどうこうの投稿でアルバムに触れていましたが、それもありませんでした。公式Xの更新も散発的で、shYbeastの新曲リリースのプロモーションだったり、Dream BeachのRTだったりがほとんどで、あまり更新していません。DevinとAndrewは自身のプロジェクトに集中して、曲をリリースしています。Andrewの方はプロデュースがメインですね。shYbeastは7月17日『Middle of Love』をリリースして、8月7日そのacousticバージョンをコラボして出して、10月30日コラボ曲『Got the Blood』をリリースしてって感じです。どの曲も素敵です。『Got the Blood』に関しては2019年にもう完成してたらしいんですけど、それもコロナでリリース予定が狂ったんでしょうね。I SEE STARSとしては、SNSの公式アカウントはあまり回ってませんが、この2020年の間に作曲を進めていたことは、さっきも触れたインスタの件で明らかです。

 一般的な生活は隔離。隔離。隔離。2020年は一瞬で過ぎ去っていきます。

 まあしかしですね、2020年が何事もなかったかのように過ぎていったのはI SEE STARSのXアカウントとおれの大学生活でして、世界は激動でした。コロナは人々から機会を奪い、ツアーやショーがなくなり、空白の時間を作りましたが、アメリカ大統領選挙という大イベントがありました。11月3日に一般有権者による投票が行われました。バイデンが勝ちましたね。Devinも自身のXで投票を呼び掛けるなどしていました。コロナ下でしたが、投票率が前回よりも7%も上がって62%になったらしい。高いのか低いのかはわかりませんおれには。また、5月25日のジョージ・フロイドの死亡事件もあり、Black Lives Matterの運動は全米に広がって、デモが起こり、過激化したところでは暴動にまで発展しました。それがトランプ敗戦に繋がったのだという見立てもありますがほんとうのところはわかりません。

 そんなこんなで2021年に入り、shYbeastは2月5日コラボ曲『Anywhere』をリリース。で、2月といえばあれですよ。さっきも触れたマネージャーのインスタの件。もっかい書きますよ。

 2021年2月、バンドのマネージャーかプロデューサーのNick Scottのインスタの投稿から、バンドがスタジオでアルバムのレコーディングを行っていたことがわかる。プロデューサーはDavid Bendeth、『Treehouse(2016)』と同様Luke Hollandがドラムを担当していることが確認される。Nick Scottは、一ヶ月半のレコーディングの後、アルバムはレコーディングを完了したと明言している。これがその投稿。

instagram・nickshredscott

  レコーディングが終了したということは、あとはミキシングとマスタリングの作業です。このあとすぐDavid Bendethがミキシングを行ったと考えるのが普通です。ただ、Zakk Cerviniという方がDevinと一緒にミキシング作業を行っていたことが、Devinのインスタのストーリーで確認されています。
 
 彼ら、Xは基本的に使わなくなりました。数年前からInstagramに移行して、こっちで日常的な投稿やツアーの写真、作業風景などのストーリーをあげています。Instagramから情報を得るのは難しくって、Nick Scottのこの投稿みたいに残っていればいいんですけど。ストーリーはすぐ消えちゃうんですよね。だから、Devinが何かアルバムに関して重要なヒントをストーリーであげていたとしても、今からそれを辿ることはできない。今のところ確実に確認できるのはこの投稿くらい。ただ、Devinのインスタのストーリーのスクショがいくつかファンによってredditなどにあげられているのを確認しました。

 Nick Scottの投稿は公式アナウンスではありません。XのI SEE STARS公式アカウントではアルバムのことにまったく触れてないし、DevinのXでも触れてません。何ででしょう。トラブルの可能性を考慮して明言しないようにしているのか。で、このあと4月20日に、DevinはshYbeastのコラボライブをして、XのI SEE STARS公式アカウントはそれをRTしてます。そのライブは素敵なライブです。YouTubeで見れます。

 で、Xの更新が止まります。I SEE STARS公式アカウントが止まって、次にDevinのアカウントもアルバムには触れないまま2021年6月23日で更新が止まります。それから、2023年の『Anomaly』リリースまで、彼らは一言も投稿してません。あるいは削除されたかですね。Instagramも『Anomaly』リリースに関しての投稿より前のものは削除されているようです。このことは、ファンを動揺させてたことが確認できました。

X・I SEE STARS @iseestarsmusic

 とにかく2023年までまったく空白の二年間です。shYbeastのX2021年9月30日、Devinの写真とともに「次にどの曲をリリースするのか決めてる最中の僕」という投稿で更新が止まります。その後shYbeast名義で曲がリリースされることもありません。

 そもそも2021年にアルバムレコーディングしたのでは? それはどこにいったの? 『Anomaly』はほんとにそのときにレコーディングしたものなの? いや、たまにあるんですよ。レコーディングした作品がどこかに行っちゃうこと。誰かのPCファイルには入ってるんだろうけど、権利的に取り戻せなくなっちゃいました。とか。Attack Attack!でも解散前にあったんです、そういうの。

 この空白、このブランク。2022年、ファンの間ではあるrumor噂が広がりました。アルバムに関しての噂。「やはり、バンドのメンバーが自身のプロジェクトに集中している。だから、Sumerianはこのレコーディングしたアルバムを不採用にしたか、棚上げしたかのどっちかの判断を下した」っていう噂。確かめようがないので、嘘か本当かはわかりません。が、今から見るとこれは少し語弊があったということになりました。棚上げというか、延期ですね。何かしらのアクシデントがあって一度延期されたアルバムがシングルとして現在リリースされていて、のちにそのフルレングスのアルバムがリリースされるのだと思います。なぜかというと、ファンによってあげられたとあるDevinのインスタのストーリーのスクショがそれを説明してくれています。それが、レコーディングからリリースまでの二年のブランクを説明する最後のピースです。

 今から一年前にあげたらしいストーリー。『Anomaly』がリリースされる少し前ですね。とあるDevinのインスタのストーリーがあるんですけど。グロ画像なのでここにはあげられません。手術後と思われるDevinの左手の写真と文章が添えられています。

Last year I was hit on the freeway by someone driving under the influence. This past year has been a lot of recoverying and this feels like potentially the final step! thanks for all the love!
----昨年、ぼくは高速道路で飲酒運転をしていた人(の車)に衝突された。この一年は立ち直るのに必死で、これが最後のステップになりそうな気がしている!たくさんの愛をありがとう!

Instagram・devinoliver

 左の手首から手のひらまで、10センチ以上はある大きな裂傷の縫合手術を受けて間もないものと思われる痛々しい写真です。重傷です。当然腕だけじゃなく、体の至る所に負傷を受けたはずです。この治療で一年、新しいアルバムが遅れた。ただでさえ2018年から二年間、重い病気に苦しめられたのに(後遺症もあるでしょう)、アルバムを取り終えてリリースしようとした矢先、事故にあって重傷を負い、一年間の復帰治療を余儀なくされた。過酷すぎますね。

 さて、おれがdigって得た情報は以上です。改めてまとめます。ちゃっちゃと。冒頭でも書きました。

 2016年:Treehouse』リリース。ツアー。
 
 2017年:ツアー。『Treehouse』のアコースティックバージョンを制作。
 
 2018年:Treehouse(Acoustic)』リリース。Devinの重病発覚。I SEE STARS活動鈍化。AndrewのDream Beach本格化。

 2019年:Devin入退院を繰り返す。DevinのshYbeast始動。I SEE STARS活動鈍化継続。

 2020年:Covid-19。ツアーキャンセル。メンバー各々のプロジェクト順調。新曲制作中だと明かす。

 2021年:新アルバムのレコーディング完了。おそらくCovid-19の影響下で年内のアルバムリリース見合わせ。
 
 2022年:Devin事故に遭う。1年間の治療。活動ストップ。
  
 2023年:Anomaly』『Drift』『are we 3ven?』『D4MAGE DONE』リリース。ツアー。

 2024年:ツアー中。
 
 今年中にアルバムがリリースされるかはわかりませんが、楽しみに待ってます。

2023/03/15・Instagram・iseestars

 ALL THIS TIME ON THE CLOCK
 I THINK ITS TIME TO RESET.

 I SEE STARSの再始動。



④ あー、最後に変な話をします。

 この曲に寄せられた批判に対して、話しておきたいことがありまして。実は、②の項で書こうとしたんですが、自粛というかなんというか、最後に持ってきました。

 ブレイクダウンのDevinの歌唱についてです。なぜブレイクダウンでスクリームをしなかったのか。 
 I think it's time to reset! 
 ここ、引っかかった人が多いらしいです。YouTubeのコメントでもキレてる人がいました。そこスクリームしろよ!って。とにかくメタルコアファンはスクリームが好きで、ブレイクダウンのスクリームでどうしても脳汁を出したい。で、『New Demons』までスクリームやってたZackがでてくるんです。Zackがいればなあって。未だに言ってますよ。「Devinのスクリームも進歩したが、このバンドはZackがいなくなってから弱体化した。もはや聴いていない(キリッ」とかいって。こういうとこがよくないところなんですけどね。あんたらにはスクリームしか聴こえてないのかって。スクリーム以外に音楽語れないんですかね。だから、スクリームしてくれないと肩透かしにあった気分になるんです。まあわからんでもないです。スクリームがない曲聴くと、おいおいひよってんじゃねえよ、とかってキレたりする人が出てくるのは。わからんでもないけど、まあハードコアジャンルも成熟してることだし、おれらも成熟しようぜって言いたい。いや、成熟っていうのは、単にスクリーム(がある曲、ヘヴィネスドリブンの曲)から卒業しろってことじゃなくって、スクリームがない曲「も」味わえるようにならんといかんのでは、と思うわけです。音楽なんか頭振れればそれでいいんだって言われたら、何も言うことはないですけど。おれは音楽をそんな使い捨てみたいにして聴きたくないなー、と。これはおれ自身の反省でもあります。特に、日本にいると、文脈がわかんないし、英語の歌詞の意味なんてわかんないから、なんか音が気持ちよければいいんだって感じで、とにかく聴き流すクセがついてしまっていた。だから、ほんの数年前までは、ハードコアであれば何でもよかったし、ヘヴィであれさえすればなんとなくいい曲に聴こえてました。意味なんてわかんないから。おれはものすごい冒涜的なリスナーでした。もちろん、気を抜いて作業用BGMみたいにして聴き流すのも音楽の素晴らしい楽しみ方の一つです。特にサブスクで大量の曲が溢れる現代においては。でも、それとは別に、一つの曲の世界にどっぷりつかって聴くことも楽しいです。どっぷりつかれるかどうかは、自分にとって大切な曲かどうかの判別にもなります。10代の頃のおれはそれ以前の問題でしたね。

 だから、洋楽の翻訳をされている先人の方たちは、ほんとうに意義深いことをされてると思います。そういう人がもっと増えればいいなと思います。ただ、かつては物理のCD円盤を買うと、たいていは親切に対訳の冊子と楽曲解説とかが付いてました。日本版の円盤はなにせ高いから、その分付加価値を付けなきゃならなかったんでしょうね。その頃は3000、4000円をはたいてアルバムを手に入れなきゃいけなかったから、アーティストに対する思い入れというのが必要でした。そういうので、音楽を受け止める心入れみたいなのが自然にできてたんだと思います。CDというパッケージがそれを可能にしていた。音楽は楽曲だけで成立していませんでした。物理の円盤、表紙、歌詞カード、その他同封されてたあれこれに、付録、それらと楽曲がセットになってひとつの作品でした。アルバムは豪華で贅沢なものでした。それが、サブスク全盛になって、まとっていた衣服が剥がされて、作品としてかなりまずしいものになったのではと思います。音楽の使い捨てが進んだっていったらことばが悪いですが。

 まあベンヤミンがいうところのアウラの喪失じゃないですけど。でも、ベンヤミンは、『複製技術時代の芸術』ではアウラの喪失を否定してたわけではないのが面白くて。ここがアドルノと対立したところです。アウラが消えたから、閉じていた芸術がむしろ開かれたんだ、と彼はいってます。ベンヤミンは、芸術が複製(コピー)可能になって一般庶民に普及しやすくなると、庶民が芸術にアクセスしやすくなるために、庶民は市民として成熟するといっています。芸術によって啓発されるとともに、批判的態度も育つ。政治参画への意識も高まると。ていうか、芸術は現代において、歴史の過程において、そうなってくしかないんだってことをいってます。あ、彼はドイツのユダヤ人なので、1935年か6年に出たこの評論はファシズムへの対抗を前提としています。いや、今、マジでこれ、その通りになってますから。ベンヤミンめちゃくちゃ天才。大好き。現代では、音楽が活発に社会運動に動員されてんですよ。マイノリティのエンパワーメント。反体制。いや、何も政治色の強い社会運動じゃなくてもいい。消費社会下で、企業マーケティングとともに音楽がメディアミックスの一部になって促進剤(プロモーション)としても利用されてる。消費者はそれによって、より多(他)ジャンルの芸術作品にアクセスしやすくなってる。で、そういった運動やマーケティングの影響力というのは、誰でもアクセスできる動画サイトやサブスクサービスで、再生数高評価っていう目に見える数字が示されることでより実感が増す。音楽自体の訴求力もエンハンスメントされます。100万、1千万、1億再生されると、うおおおおおおおおすげえええええええってみんなで一体になって盛り上がってる感じがする。ていうか盛り上がってる芸術作品がより広がっていく。メッセージも広がる。多(他)ジャンルの音楽に触れやすくなって、これまたいろんなメッセージが広がる。全人類が文化人と化す。複製技術時代の芸術ここに極まれりって感じ。ただ、あまりに瞬間的に熱しやすいのも考えもので、多くの人は冷めてしまう。運動に動員されると、音楽は運動の影響力に左右されてしまいますから、運動が冷めると動員されてた音楽は意味を持ちにくくなる。もちろん、下火になっていた運動が加熱して、過去の芸術が復権するなんてこともあります。マーケティングなんか熱しやすく冷めやすいっていう、その傾向がとっても顕著なのはもはや当然で。次から次へと商品を用意しなきゃだから、作品は埋もれていきます。天才作曲家たちは、今ものすごいスピードで神曲を量産して楽曲提供していますが、内心複雑な思いでしょうね。時代を経ると、「あれ何だったんだ?」ってなる芸術作品は無限に出てきます。まあでも、芸術は存在するだけで尊いんですが。

 まあしかし、例えばおれは『シン・エヴァ』がこの世にある映像作品の中で一番好きで、暇があれば無限に観てます。エンディング曲、宇多田ヒカルの『One Last Kiss』を聴くだけでそのときの感動が胸に広がるので、この曲も無限に聴いてます。ですが、やがて、映画のエンディング曲という属性でだけじゃなく、宇多田の楽曲それ自体も別の意味を持って好きになりました。もちろん他の楽曲もより好きになりました。こういう出会いを可能にするのは、現代的"複製技術時代の芸術"の素晴らしいところです。まあ何が言いたいかっていうと、ほんとうに最高で素晴らしいものは人と歴史の中に残り続けるということですね。ただ、どれだけたくさん素晴らしい作品に触れていたとしても、消費するだけで使い捨てを続けていたら自分の中には残りません。おれは、せっかく芸術に触れるなら、それを死ぬまで思いっきりしゃぶり尽くして味わい尽くしてやりたい。それがいちばんの贅沢だと思うし、すごい作品は味わえば味わうほどに味わい深くなる。時代や文化の変化によって、また特別な意を持つようになる。その後どんな作品が出てきたとしても、その作品が特別だということは決して変わりません。自分にとって特別な作品がまた一つひとつと増えていく、そうやって豊かに作品を極めていきたいですね。

 まあとりあえず音楽を消費、使い捨てするムーブはやめたいものですね。という話。で、そうやって自らの音楽が使い捨てされるのを回避するために、アーティストたちはメインストリームで活躍するプロデューサーをチームに率いれてレコーディングをするわけです。それが最も成功したのが、世界的アーティストLinkin Parkの巨大な面影を追いかけていたBRING ME THE HORIZONで、なによりも彼らはいろんなジャンルから貪欲に素材を取り入れ、ほんとに多彩な音楽ができるようになった。彼らは今、1番自由に音楽をやってるバンドのひとつです。単に売れ線にはしったとか言われることもありますけど、売れ線を取り入れて他ジャンルに飛び出してリスナーをかっさらっていくくらいの野心と貪欲さがないと、自由な音楽はできなくなるのでは、というのがおれの勝手な考えです。BMTHの音楽は、より実存に迫るものに進化し続けています。ここでこういう引き合いの出し方はしたくありませんが……。ですが、NirvanaのKurt Cobainは彼らの音楽をアングラジャンルに閉じ込めようとするリスナーの不寛容さを内面化してしまって自由を失い苦しんだのだと思います。彼らの音楽は圧倒的な支持を得ましたが、むしろアングラにもメインストリームにも、すべてに応えていく姿勢でいろんなものを取り入れて変化していくことをリスナーが許容していたなら、Kurtはその先にほんとうの自由な音楽をみたはずです。

 思想家のMark Fisherは『資本主義リアリズム』でKurtを引き合いに出して、彼の悲劇は資本主義下で強制される商業主義の末路なんだと示唆しています。おれはそれを断固として否定したい。それはリアリズムじゃなくてニヒリズムです。商業主義の先には新たな地平が必ずある。自由があります。言っておきますが、おれは資本主義のある側面は肯定します。そして、またある側面は強く否定します。資本主義が我々を苦しめている現実は確かにあります。ただ、今資本主義社会を生きるにあたって、単に否定するだけして思考停止するのではなく、その中で活路というものを手探りすることは続けなければならないと、おれは強く思います。安易に加速主義とかに被れないように。だから、このクソみたいな資本主義をどう乗りこなしてやるか、どううまく利用してやるかを模索する、そのような強かさと狡猾さが重要になってくると思います。それは一種の開き直りです。

 そういう意味で、商業主義はきっかけに過ぎない。商業主義を強かに乗りこなす。メタルコアを自由にやるというのは、手札にメタルコアしかない状態でメタルコアをするのではないんだと思います。無数の手札を手に入れ、その中からメタルコアを選択することがほんとうの自由な音楽ではないのか。こうやって書いちゃうと、いろんなバンドを否定してしまうことになりますね。たしかに否定してます。だからおれに対する批判も甘んじて受け入れます。これにキレてくれるほどに俺の記事をまじめに読んでくれる人がいたらめっちゃうれしいですけど。まあでも、それくらいの貪欲さを持ってほしいです、ほんとに。もっともっと新しいポスコアが聴きたいです。だからBMTHの大成功と彼らのあり方は、おれにとっては生きる希望です。この時代にあって自由な表現というものがどうやって完遂されるのか、彼らは示してくれました。

 ここまで読んでいただいてありがとうございました。

 こんなに長い記事を読んでいただきありがとうございます。ものすごく長大な記事を一人で書いているので、正確性に欠ける箇所がどうしても出てきます。おれはみなさんとの情報共有を求めています。事実誤認などは、優しく指摘してくださるとありがたいです。また、この記事では、おれの持論をためらいなく書いています。それを楽しんでいただけてたらうれしいのですが、どうしてもそれに首肯できない方もいると思います。特にこの記事では、多岐にわたって持論を展開してきました。何か一つ以上は引っかかると思います。お時間があれば、ぜひ、コメントで考えを頂きたいと思ってます。追記という形で応答しますので、どんなことでも投げかけていただきたいです。新しい発見のために、みなさんとお話できる機会を待っています。
 ではでは。

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