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【物語:自由詩シリーズ】第11話 春雷と温もりの素敵な因果関係

大地を揺るがす唸りに慌ててベッドを降りれば
春の夜はまだ冷たくて
裸足の私はブルリと身を震わせる。
廊下を急ぎ、そっと兄のベッドに潜り込む。
寝ぼけ眼の彼にすり寄り、
その温もりに安堵する。
そうして音も光もいつしか遠くなり、
優しい眠りの中へと落ちていく。

そんな少女の頃は
都会の密室ですっかり忘れたものとなった。
私はそれを大人になったからだと思った。

それなのに、ここへ戻ってきて再び。
けれどわかってしまった。
それは守ってくれる人がいるからだ。
大丈夫だよ、そばにおいで。
そう言ってくれる人がいるからだ。
ずっとずっと、
本当はいつだって甘えたかったからだ。

だから
おやおや、大人になったのでは?
世界で一番怖がりのままなのかい?
兄に揶揄されてもちっとも嫌ではない。
それどころか微笑みさえこぼれてしまう。

薄いカーテン越しに光が闇を切り裂いた。
遠く轟く低音に思わず身をすくめる。

でもあの頃とはもう違う。
裸足の足は冷たくなったりしない。
ベッドを降りることもなければ
あっと小さな叫びをあげる前に
すっぽりと後ろから包み込まれて
春雷は熱と鼓動にかき消されていくから。

一雨ひとあめごとに一夜ひとよごとに
そわそわと浮き足立つようなこの季節、
私は世界で一番安心できる温もりの中にいる。

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