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CommunityHospital@シンガポール見学記①(国策として推進されるCommunityHospital)

シンガポールは高齢化が進行する中で、国の医療政策として地域を支える病院(シンガポールでは“Community Hospital”と呼ばれている病院)を増やす取り組みを行っています。

C&CH協会、同善病院の小笠原雅彦医師が2024年1月にシンガポールのCommunity Hospitalに見学に行って参りましたので、その見学記を3回に分けてご紹介します。

医療制度や環境は異なるものの、高齢化という同じ問題を抱えている中で、コミュニティホスピタルという同じ形の医療に行き着いているという点は興味深いですし、日本に比べて自由診療に近いシンガポールでは、第2回で紹介する「よりソーシャルな取組み」が重視されているさまは、今後の日本のコミュニティホスピタルの取組みの参考になります。
長文ではありますがぜひご覧ください。

シンガポール見学記① 国策として推進されるCommunityHospital
 https://note.com/cch_a/n/n1d80d1792327
シンガポール見学記②  ソーシャルな機能を有す2つのCommunityHospital
 https://note.com/cch_a/n/n4dd2f46a8470
シンガポール見学記③  今後のコミュニティホスピタルの方向性と可能性
 https://note.com/cch_a/n/n47fc6a15e50d


シンガポールでの見学内容をご紹介する前に、第1回目の今回はシンガポールという国、この国での生活、医療制度などについて解説いたします。

シンガポールの国土・文化・生活

シンガポールの面積は734平方km、東京都23区と同じくらいの広さに対して、人口は540万人で東京都23区の半分ぐらいの人口になります。
公用語はほとんどが英語で、加えて中国語・マレー語・タミール語など。教育水準によりますが、ほとんどの人は2か国語以上を話すことができます。
人種は中華系が74%、マレー系が13%、インド系9%で混血も多く、日本に比べると多様な人種で構成されています。そして、多民族国家ならではの生活上のルール・法律(ポイ捨て、飲酒、喫煙、ペットのフンの不始末に罰金など)がたくさんあることも特徴です。
また、国策で車よりも公共交通機関が推奨されていて、車には多額の税金が課せられているので交通渋滞は少なく、公共交通機関よりも車で移動するほうが速く移動することができます。


平均年収は約677万円、ほぼ共働きであるために世帯年収は1200万円台で日本の2倍程度になっています。物価は日本よりも高めで、国土が狭いこともあって地元民(永住権あり)は80%が家族向けの公営住宅に住んでいます。公営住宅の価格も3000~8000万円で購入するのが一般的で、低所得者向けの賃貸物件でも月10万円程度です。またこれらの団地の一階はホーカー街というフードコートのような食事ができる店舗であったり、スーパーになっていたりします。


シンガポールの高齢化と保険制度

シンガポールの医療レベルは日本と同等と言われています。平均寿命は83歳(日本と同等)である一方で、平均年齢は39歳と日本の48歳よりも10歳若くなっています。合計特殊出生率は1.10で、2005年頃から日本(1.34)よりも低い水準になっています。
高齢化率は18%で日本(29%)よりも低いものの、10年前からは+7%と急増していて、今後日本の2倍のスピードで高齢化が進んでいくことが予想されています。
介護については、高齢者施設は非常に高額になっていることに加えて、「基本は家で」という儒教の教えに基づいて自宅介護が中心です。現在、今後の介護需要の高まりを見据えて、政府主導で高齢者住宅が急ピッチで整備され、介護専門職の育成などにも力を入れています。また、定年の撤廃を含め様々な「健康寿命の増進」策のもとでアクティブシニアを目指す取組みが拡がっているので、日本よりも高齢者ワーカーは多くなっています。しかし、見方を変えると年金が無かったり、医療保険も日本ほど行き届いていなかったりと、働かざるを得ないといった背景もあります。

医療保険と年金制度に関しては、日本における民間の医療保険のようなシステムで、収入のレベルに応じていくつかのプランが用意されていて、低収入な人でも医療が受けられるような配慮がされているものの、日本の社会保険制度のような手厚さはありません。
日本の医療との大きな違いは、すべて自由診療であるということです。日本では想像するのが難しいかもしれませんが、病院によって手術の費用や入院費用が異なっていて、それに対して保険が一定の範囲でカバーするという形態になっています。つまり、高額な医療を受けると保険でカバーできず負担も多くなりますので、お金があれば良い医療が受けられますが、そうでなければ色々な面で負担を強いられることになります。
このような背景もあって、低所得者層からすると特に病気になったら行き倒れて死ぬというような恐怖感を持っているようで、プラス・マイナス両面で国民の健康に対する意識は高くなっているようです。

シンガポールの医療費

シンガポールの医療費については、GDPに対する国民医療費負担比率は4.4%(OECD 8.8%)、政府支出割合5割(OECD 7割)と低く抑えられていると国際的にも評価されていますが、国民一人当たりの総医療費2,621$(2018年)は日本と同程度(2018年)であるのに対して、国民一人あたりの自己負担額は1,311$(日本562$)と日本に約2.5倍となっていることから、国民負担によって政府支出が抑えられていることがわかります。数年前の高齢化が進む前のシンガポールの医療提供体制は良かったようですが、高齢化が進んでいる(といっても日本の高齢化率よりも-10%)他の先進国同様の困難を抱えています。

シンガポールの医療体制

医療体制面では、人口当たりの医師数は日本と比べて大差はない(人口1000人あたり日本2.4、シンガポール2.2)ですが、看護師(人口1000人あたり日本9.0、シンガポール4.8)、薬剤師(人口1000人あたり日本2.1、シンガポール0.6)は日本に比べると非常に少なくなっています。
シンガポールはイギリスの医療制度の流れをくんでいますので、GP(General Practitioner)という、専門領域を持たない日本で言う「かかりつけ医」が、まず家庭医療全般を診ることになります。しかし、イギリスと違って必ずGPクリニックにかからなければならないという制度ではないため、直接何らかの専門医を受診することもでき、その点では日本の医療環境と似ているといえます。ただし、専門医療は非常に高額でGPにかかるよりも5~20倍くらいの費用がかかりますので、一般的にはまずGPクリニックに受診するようになっています。

シンガポールの病院

次にシンガポールでの病院について説明します。
シンガポールには13の公立病院と、14の民間病院があり、病床数は13953床、人口10万人あたりで258床となっていますので、東京23区(人口10万人あたり791床)や全国平均(人口10万人あたり964床)にくらべて病床数は4分の1程度です。日本の医療環境からは想像するのが難しいですが、その分、急性期病院の平均在院日数は手術を含めて3~4日程度とかなり短くなっています。例えば、膝の人工関節手術をした場合は、4~5日で(リハビリ病床に転院ではなく)自宅退院するような、高回転な医療になっているということです。また、そもそも長期入院するような病床が存在せず、最も長いトランジェントケアといわれる「移行期医療」を支える病院でも平均在院日数が1ヶ月くらいなので、日本の回復期リハビリテーション病床よりさらに短く、地域包括ケア病床くらいの入院期間になっているようです。

シンガポールの医療政策

あらためて、現在シンガポールが取り組んでいる医療政策についても紹介します。
シンガポールでは2023年から、今後の高齢化を見据えて60歳以上の国民を対象とした「Healthier SG」という医療政策が始まりました。これはこれまでの病院を中心とした医療から、地域コミュニティーの中で健康づくりをする予防医療へと大きくかじを切ったもので、具体的には以下のような取り組みが軸になっています。
これらは日本でも重要視されているものばかりですが、国単位で取組むというダイナミズムはシンガポールの方が勝っていると感じます。
https://file.go.gov.sg/healthiersg-whitepaper-pdf.pdf

SG1:家庭医を増やしてエンカウントさせる
SG2:ヘルスプロモーションをプラン作成し管理する
SG3:地域志向型ケアを実践する
SG4:かかりつけ医の登録制度を実施する
SG5:人材育成、経営、ITシステムを向上させる


国策で推進されるCommunity Hospital

シンガポールでは医療圏を3つに分けて、病院機能別に総合病院(General Hospital)、コミュニティホスピタル(Community Hospital)とプライマリケアを担当するポリクリニック(Polyclinic)を配置しています。
シンガポールでのCommunity Hospitalは、急性期病院からの退院後、短期間の治療継続が必要な患者に医療・看護・リハビリテーションを提供する病院で、私たちが目指すコミュニティホスピタルと共通する部分が多くあります。先程述べた通り、いまシンガポールでは病床が足りておらず、このままでは立ち行かなくなることが目に見えているので、国の医療政策としてこのようなCommunity Hospitalを積極的に増やしているとのことです。
https://www.moh.gov.sg/docs/librariesprovider5/pressroom/resources/moh-factsheet.pdf


第1回の今回は、シンガポールの生活や医療制度などをお伝えしました。
次回はこの背景も踏まえて、本題であるシンガポールで見学した2つのCommunity Hospitalを紹介します。

第2回につづく



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