CommunityHospital@シンガポール見学記③(今後のCHの方向性と可能性)
C&CH協会、同善病院の小笠原雅彦医師が2024年1月にシンガポールのCommunity Hospitalに見学記の第3回。1~2回ではシンガポールの医療にまつわる背景、見学した2つのCommunityHospitalについてご紹介してきました。今回はこれまでのまとめとして、もう一つのシンガポールの医療、見学を通じて再確認した方向性と可能性についてご紹介して、今回のシンガポール見学記をまとめようと思います。
前回はこちら
タクシー運転手が口にした「もう一つのシンガポールの医療」
前回、前々回ではシンガポールの進んだ医療政策や、2つのCommunityHospitalの先進的な取組みなど、キラキラしたものをたくさん見てきましたが、空港に向かうタクシーの中で地元民であるタクシー運転手さんからとてもリアルな話を聞かせてもらいました。
運転手さんいわく、まず民間病院であるPrivate Hospitalは非常に高額で金持ち、海外の富裕層などしか行けるところではないと。今回見学した公立病院(Public Hospital)であっても安いと言われているけれど、少し診療を受けただけで150$位かかったりする。自分たち庶民には非常に高い。保険でカバーできるところもあるが、カバーできたとしてもとてもお金がかかる。イギリスや日本からみたシンガポールの医療はよく見えるかもしれないが、実際はとても高価であり生活するのはとても大変で、自分は70歳だけれども、年金制度はなく仕事を辞めることは一生できない。病気になって仕事を辞めてお金がなくなっても誰も助けてくれない―― と。
シンガポールの医療は、アジアの最先端といった紹介のされ方をしますが、現実的には良い面とそうでない面があって、とても難しい問題を抱えているとも言えます。
その点、日本の社会保障制度は救済措置の面でも世界の中でまれなくらい手厚い国になっていますが、財政面での持続可能性を考えると、このあたりのバランスが大切であるとあらためて感じます。
まとめ 見学から見えた方向性と可能性
最後に、今回のシンガポールでのCommunity Hospitalの見学を通して、「取り組むべきこと」「取り組んだ方がいいこと」が見えてきたので、今後、日本にコミュニティホスピタルを拡げていくために私たちが取組むべきことを7つにまとめました。
1. コミュニティホスピタル共通の強みを持つ
シンガポールでは特に入院領域において、急性期とコミュニティホスピタルの役割分担が明確でした。一つは、Multimobilityな患者への対応(Sub-Acute、Post-Acute)、もう一つは、リハビリテーション、認知症ケア、褥瘡/外傷ケア、食支援、在宅ケア、社会的処方など、「多職種で連携すること」が成果につながるような分野です。急性期病院では成果を出すことが難しいこのような領域については、コミュニティホスピタルの得意分野として、どのコミュニティホスピタルでも共通の強みとして確立していく必要性を感じました。
2. Social Activeをすべてのフィールドで
Social Activeは地域の中で語られることが多いですが、入院-外来-在宅-地域といったすべてのフィールドでSocial Activeでいることを保証することが重要で、そのためにCoordinatorの存在が必要になります。Coordinatorは地域には、地域包括(Community)、ケアマネジャー(Care)、社協(Informal Service)などが活躍している中で、コミュニティホスピタルにおけるMSWが果たす連携(Cooperation)と統括(Coordinator)という役割の重要性をあらためて感じました。
3. ボランティアの力を活用する
シンガポールではボランティアで大勢の人が関わっているのですが、その多くは患者さんです。送迎のドライバーさんやホスピスの調理をする人など、病院にお世話になって感謝した方がボランティアとして貢献する形ができています。そして重要なのはボランティアとしての活動そのものが社会的処方になっている、ということです。日本では医療機関でボランティアをする場はありますが、このような考え方はあまりないように感じます。すべての患者さんはボランティア候補者であり、こうした社会貢献のプラットフォームにコミュニティホスピタルがなることで、より多くのものを地域に還元できる可能性を感じました。
4. チームの力を最大限に発揮する
コミュニティホスピタルの強みとなるチームの力の最大限発揮する取り組みをすることです。シンガポールのコミュニティホスピタルでは理念や行動指針が病院内のいたるところに、患者さんにも見える形で掲示されていました。そして、理念・行動指針にそった活躍について大きな称賛するための表彰制度もあります。心理的安全性があって、意見や不満を声にすることができる組織風土もコミュニティホスピタルには不可欠だと感じました。
5. ITによる共通基盤からValue-Basedなコミュニティホスピタル運営を
シンガポールの電子カルテ、PHRを基盤とするベータ分析・研究で大きく医療が変革されていました。現在、私たちもコミュニティホスピタル共通の電子カルテ、CRMによってコミュニティホスピタル共通のプラットフォームを構築することを準備しています。より多くの病院でデータ解析をすることや共通アウトカム(KPI)を設定してValue-Basedを突き詰めた運営をすることの重要性を再認識することができました。
6. 地域医療の教育プログラムをつくる
現行の医学教育モデルのような専門性を高める教育だけではコミュニティホスピタル人財を育成することは困難で、地域包括ケアを実践し、地域医療に関わる人財育成プログラムの必要性を感じました。またこれは医療職や非医療職、多職種といった垣根のないプログラムであり、Social Activeを含めた範囲までカバーする教育プログラムであることが重要だと感じました。
7. 高齢化最先進国であることを誇りに
一方、これまで日本で行われてきた医療も、コミュニティホスピタルとして取組もうとしている全人的ケアも世界に誇れる魅力的な取組みであることを再認識しました。日本は高齢化最先進国であり、最先進国であるが故に参考にするものがなく難しいオペレーションを強いられている中で、医療ケアの質を担保しながら曲がりなりにもここまで継続できていることにもっと誇りを持ってよいのだと思います。諸外国での取り組みは日本を参考にしていることも多くありますし、もっと日本での取り組みを海外に自信を持って発信していくことの重要性を感じました。
今回の見学を通じて、日本とシンガポールという異なる医療制度や環境でありながら、高齢化という同じ問題を抱え、地域で生活を支えるという点では共通項も多く、あらためてコミュニティホスピタルという業態に求められる機能、この業態の持つ可能性を確認することができました。読んでいただいたみなさんの少しでもお役に立てば幸いです。
全3回にわたるCommunityHospital@シンガポール見学記を読んでいただきましてありがとうございました。
シンガポール見学記① 国策として推進されるCommunityHospital
https://note.com/cch_a/n/n1d80d1792327
シンガポール見学記② ソーシャルな機能を有す2つのCommunityHospital
https://note.com/cch_a/n/n4dd2f46a8470
シンガポール見学記③ 今後のコミュニティホスピタルの方向性と可能性
https://note.com/cch_a/n/n47fc6a15e50d
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