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第223号(2023年5月29日) ウクライナの「パレスチナ化」と「イスラエル化」

【今週のニュース】ベラルーシへの戦術核兵器配備続報

ベラルーシに戦術核兵器配備を「開始」 ルカシェンコ大統領

 5月25日、モスクワでのユーラシア経済フォーラムに参加したベラルーシのルカシェンコ大統領は、同国への核兵器の移送に関する文書に署名したとプーチン大統領から口頭で知らされたと述べた。その上で、核兵器の移送が「始まった。既に始まった」と2回繰り返して述べたが、実際に自国に核兵器が既に存在しているかどうかは「帰国してからたしかめる」とした。

 一国の大統領が自国への核兵器配備について口頭で知らされるだけであり、実際にどうなっているかは帰ってたしかめるしかないというのはロシアとベラルーシの力関係を示すエピソードといえよう。
 なお、同日、ロシアのショイグ国防相とベラルーシのフレニン国防相は、ベラルーシ領内における核兵器の保管手順に関する合意書を締結した。この文書について、ショイグは、ベラルーシに核兵器を移転するものではないこと、管理と使用の決定権は排他的にロシア側にあると述べているが、同時にベラルーシ側には運搬手段の供与(イスカンデル-Mの配備とSu-25に対する核爆弾搭載改修)が行われていることを考えるに、NATOと同様の核シェアリングを行うものと解釈できよう。

 なお、ユーラシア経済フォーラムでは、ロシアとベラルーシが今や「核兵器まで共有しようとしている」とカザフスタンのトカエフ大統領が述べ、核シェアリングを公然と批判する場面もあった。

【インサイト】ウクライナの将来を考える 「パレスチナ化」か「イスラエル化」か

ウクライナ 3つのシナリオ

 日経新聞の秋田浩之氏による記事が我々の業界でちょっとした話題になりました。エストニアで開かれた国際安保会議「レナート・メリー会議」での取材を元にウクライナの今後に関する欧州有識者たちの意見を紹介したものです。

 その結果は、欧州がウクライナに関して以下の3つのシナリオを想定しているというものでした。

<ウクライナの勝利>シナリオ
 ウクライナは2月24日時点のラインまでロシアを押し戻すが、準戦時状態が続き、ロシアによる再侵攻も排除できない。
<ひとまず停戦>シナリオ
 妥協によって戦闘を止めるというシナリオだが長続きする保証はない。
<ロシアの侵略続く>シナリオ
 ロシアの占領が固定化される可能性があり、他の欧州諸国に対しても脅威が増大する。

 以上のどれが現時点で蓋然性が高いのかは、まだなんとも言えません。このメルマガでも繰り返し取り上げてきたように、ウクライナによる反転攻勢が成功するかどうか自体がまず直近の不確定要素ですし、しかも最大限うまくいってもこれで戦争が終わる可能性は非常に低いからです。とすると、来年以降に予想されるのは、反転攻勢に失敗したウクライナが劣勢下でロシアの次なる攻勢を受け止めるか、反転攻勢がうまくいった場合はその戦果を拡張するというシナリオでしょう。いずれにしても戦争はまだ続くということです。
 しかも第221号で指摘したとおり、ここには政治的ファクターも関連してきます。来年3月(おそらくはクリミア併合記念日の3月17日でしょう)のロシア大統領選で5選目を決めたプーチンが向こう6年は民意を気にする必要なしとして大規模動員に踏み切る可能性は排除できませんし、11月の米大統領選でトランプ再選となればウクライナ支援がトーンダウンすることも考えられます。この二つが重なるのが、第221号で描いた「最悪シナリオ」です。

「パレスチナ化」?

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