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【部下を推す話】[27] +

外の音が徐々に変わり始めた。いつの間にかコオロギやスズムシがコロコロと鳴いている。少し前まであんなに声を上げていた蝉たちは何処に行ってしまったのか。
空も薄い水色から澄んだ青に色味が変わっている。
空気が少しずつ秋を醸し始めたそんな折。わたしに部下が増えた。



新規入職者のCは採用が決まったときからわたしの下への配属となることが確定していた。
面談の際の数時間で「だいぶしっかりしたコだし、わたしは全然ウェルカム!」と思ったのを覚えている。
その感想をそのまま管理部門に伝えたら、管理部門の方々からは「ねこのさんは誰でも大丈夫でしょ?」と言われた。自他共に認めるわたしの人タラシ度は伊達じゃない。


懸念点は部下たちである。

Bは明るいコだ。すぐにとはいかなくても、いずれはCとも仲良くなれるだろう。
Aは…シャイなので不安だ。とは言え、彼は分を弁えたしっかりしたコだ。余程のことが無い限りはうまくやっていけるだろう。

但し、2人とも「後輩」が出来るのは初めてだ。今度は「先輩」として新規入職者をフォローする立場となる。


Cの入職に関して、AとBには事前に「Cが来たら、教えてみる?」と話を振っていた。
Aはすっと背筋を伸ばし、

「自分で良いのであれば」

と返答してきた。隣でBも頷いている。-ああもうこの2人最高に可愛い。
わたしは2人の良い返事に満足する。

「よしよし。人に教えることも勉強になるからね。2人がCに教えているところ、しっかりわたしも後ろから見させていただくね。

とわたしがニコニコしながら言った途端、「ひええ」「適当にやってることがバレる…」とAとBが騒めいた。自分たちも試されることに気付いたらしい。

「勿論、丸投げにはしないよ。人に教えるのは難しいからね。2人の教え方について事前に確認もするし。3人とも無理にならないように調整掛けながら指示するので、よろしくね。」

目を細めて言った言葉に、シャンと背筋を伸ばして意気込む2人はやはり可愛かった。いつまででも眺めていられる。

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そして、Cの入職初日。

「おはようございます。管理職のねこのです。会えるのを楽しみにしてしてたのよ。」

ニコニコと笑顔で告げれば、Cもおっとりと笑ってくれた。「わたし凄く緊張してるんです」という彼女。既に可愛い。あまりの可愛さに思わずデレてしまいそうになる。


結局、最初のオリエンテーションや導入は流石にわたしが行うことにした。
事前の準備が万端だったならAとBに振ることも考えてはいた。
「例えば、導入はどういう風に行う?」と部下たち2人にはそれぞれ考えて貰ったりはしていたが、それ以上は彼等の準備が追いつかなかった。全ては今年の8月が忙し過ぎた所為である。
しかもCにとっては未経験職種なのだ。そんな状態で準備不足の2年目2人に導入をブン投げるなどという無責任なことは出来ない。 Cどころか、AもBも可哀想だ。誰も幸せになれない未来は避けなくてはならない。


そんな訳でAとBには日常業務をお願いし、わたしはCを独占して業務内容や職務について授業を行っていた。
そして、わたしは早くも身悶えていた。

-待って可愛いんですけど!!!

Cはおっとりニコニコしながら、こちらの話す内容を咀嚼する。わたしはCの様子を見ながら、彼女のペースに合わせて話すスピードと内容を調節する。
説明した後に少し時間を与えれば、自分で整理してから疑問に思ったことを聞きに来てくれる。その内容は実に着眼点が良い。教えた内容を意図通りしっかり理解し、敢えて後回しにした内容に踏み込むような質問をしてくれるのだ。
可愛い。教える側としてはこんなに嬉しいことはない。可愛すぎる。
初日から彼女はわたしに褒めちぎられていた。

「Cさん来たら、ねこのさんの推しが増えますね」

とBが言っていたのを思い出す。
Bの予言通り、早くも推しが増えることが確定してしまったようだ。

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Cが入ってまだ1週間程しか経過していないが、Cにもしっかり「着眼点が良い」「飲み込みが早いし、仕事も早いね」と尊みを伝え続けている。
尚、先日、

「Cさん本当によく気が付くね。可愛いことこの上ない。」

とお伝えしたところ、

「ねこのさんから見たらもう全員『可愛い』になるじゃないですか。」

とCに突っ込まれてしまった。
我ながら突っ込まれるのが早い。

「えっ、だって本当に可愛いんだもん。」

と答える他ない。

因みに、Cは初日にわたしから「AもBも両方とも凄く良いコ。仕事もできるし優しいコたちだから、彼等にも遠慮せず頼ってね。色々教えてくれるよ。」と語られている。
その後もいつも通り3人にそれぞれ尊みをお伝えしていたら先のようなツッコミをいただいてしまったのだ。
わたしが伝える言葉は全て本気の言葉なのだが。

-まぁ彼女もそのうち慣れるし、本気だっていうのもわかるでしょう。

なんて言ったって、身近に良い例が2人も居る。




AもBもCも全員頭の回転が早く、最高の人材だ。そして何より可愛い。

真面目なのに、偶に見せる天然具合が最高なA。
いつも元気で、最高にノリが良く、思慮深く素直なB。
おっとりニコニコしており、着眼点も良く、言える相手には言うことは言うC。

-どう考えても推せる。

今後、仕事面でもそれ以外でもどうわちゃわちゃと可愛い動きをしてくれるのか。
わたしは楽しみで仕方ない。

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