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ヤンキー (猫) が鎧を外す時

うちの末猫はヤンキーならぬニャンキーだ。

近くを通りかかった先輩猫たちにも人間たちにも「シャーーーッ!」とか「キャァアァアア!」とか「キェエエエェエ!」とか言ったりする。
言うだけじゃなく手も出す。鋭い爪を出したままパンチを繰り出してくるので、気付けば足が傷だらけになっていることも数知れず。

因みに、手足ではなく頭を差し出すと「お疲れ様です」と言わんばかりに彼女も頭を差し出しすりすりしてくれる。ヤンキーだからヘッドには逆らえないのかも知れない。



そんな末猫、全く人に甘えないのかと言えばそうではない。

人目および猫目か無いところだと甘えてくる。

但しこれに関しては末猫だけではなく、割とねこの家の猫たち全般がそんな感じだ。
「他人に弱みなぞ見せてなるものか」ということなのだろうか。ねこの家の猫たちの暗黙の了解になっているのか、本猫ほんにんたちの気質の所為なのかは定かでは無いが、いずれにせよ殺伐としている。

他者の目があっても甘えてくる例外がいくつかある。
1つ目は「誰が見ていようが気にしない」場合で、1番目の場合は概ねこれだ。
2つ目は「仲良しアピール」で、3番目はたぶんこれに当たる。誰にどんな目で見られていても気にせず3番目はわたしに抱っこをせがみ、抱き上げられた先でわたしの頭にゴロゴロと自分の頬を擦り付けてくる。家族と他の猫はぽかーんとしている。
3つ目。「誰かに見せ付けたい為」。末猫が良くやるのだが、わざと3番目の目の前でわたしに擦り寄ることで3番目を煽り散らかす。目の前でそんなことをされた3番目が般若の如き顔になっているから、末猫の煽りスキルの高さが伺える。紛うことなき天性のヤンキーなのかも知れない。本当に凄いと思う。


素直に甘えてくるときの末猫は可愛い。彼女は深夜にゴロゴロと喉を鳴らしながら「んにゃあ。おわぁあ。」と一生懸命話し掛けて来て、わたしの枕元にゴロンと丸くなる。
普段尖っていても寂しい時は寂しいのだろう。
自分の肉球を吸いながら、もう片方の小さな猫手で枕を揉む姿は大変愛らしい。
撫でるのを辞めるとこちらを見上げ、「ぐるにゃ」と訴えて来る。何処かの組織の首領ドンの如き姿はそこには無い。
甘えん坊ニャンは他者に舐められぬよう必死なのだ。彼女も日々戦っている。人目のない時に限るとは言え、少しの間でも鎧を外した姿を見せてくれるのが嬉しい。

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他者の目があるにも関わらず、末猫が鎧を外したことが一度だけある。

つい先日、わたし自身が大荒れしたことがあった。
最初だけ声を上げて泣き、その後は唇を噛み締めて声を殺した。涙だけは止まらなかった。
少し寝ようと思って寝床に戻ったわたしの枕元に末猫が駆け寄ってきた。
ゴロゴロと喉を鳴らし、一生懸命布団をふみふみしながらわたしの目を見上げてくる。手を伸ばせば頭を擦り付けてくれる。昼間なのに。他者の目もあるのに。
そのまま、彼女は「ぐるにゃ。おわぁ。んにゃあ。ごろんにゃん」とわたしに話し掛け続け、枕元に丸くなった。いつもの様に肉球を吸う訳でもなく、ただそこで「おわぁん。にゃ!」と声を上げながらわたしに寄り添い続ける彼女は間違いなくわたしを慰めていた。
彼女はわたしが落ち着くまで側に居て、もう大丈夫かなという時分にそっと立ち去った。
彼女はただのヤンキーでは無かった。「実は心根が優しい」タイプのヤンキーだったのだ。
末猫には近々お礼を用意しなければならない。

因みに、大親友の3番目はこの時別の部屋で爆睡中だった。
もしこのとき3番目が居たとしたら、3番目も駆け寄って来ただろう。そうしたらきっと末猫は遠くからじっとわたしを見ているだけで、その優しさはわたしに伝わらなかったかも知れない。



猫たちは賢い。他者のことをよく見ている。
あの後、実際に3番目も後ろ足だけで立ち上がってわたしの足に抱き着きながら必死に何かを目で訴えてきた。可愛すぎたし、その優しさが心に染みた。
我が家のもふもふした友達はみんな優しい。
しかし末猫がこんなにも慈愛に満ちていたとは思ってもみなかった。

人も猫も素を見せる相手を選ぶ。そうやって「素を見せる相手」或いは「優しくしたい相手」としてわたしを認識してくれた全てに、わたしも優しくありたいと思う。

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