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【部下を推す話】⑧ 羊と歌とプロポーズと。《後編》

わたしは推したち-部下A、部下B-とカラオケに居た。

通された部屋は3人で一杯だ。
席は直角になっており、奥からB、わたし、Aという順で座っていた。あまりにわたしが得過ぎる席順であった。両手に花とはこのことか。

時間は2時間。楽しい時間の始まりである。


テーブルに持参したプレイマットを敷き、カードを取り出す。

『たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ。』製品ver.
もうパッケージが可愛い。

AとBにルールを説明する。(※ルールはひとつ前【部下を推す話】⑦ を参照)
取り敢えず最初なので、基本セットのみでプレイすることにした。


ジャンケンでの結果、Bを親にして開始することになった。

わたしとAが山札から6枚札を拾う。
Bが10数え始める中、手持ちの固定札6枚と山札から引いた6枚の12枚でそれぞれプロポーズの言葉を作り上げていく。


前回のプレイからブランクがある為、わたしでも10数える中で組み立てるのはなかなか至難の業だ。

「ごめん、B、もう少しゆっくり目で…」
「6.1、6.2…」

頼んだ途端小数で数え始めてくれたBの順応力の高さよ。流石わたしの推し。大好き。

Bがゆっくり数えてくれたお陰で、なんとか形に出来た。
隣を見遣れば、Aは固まっていた。

「何をどう組み立てれば良いのか…」

わかる。初見は本当に組み立てるのが難しい。
困惑するAに、「色付きの固定カードだけでもプロポーズの言葉は作れる。そこに山札から引いた6枚を付け足してくと作りやすい」と教える。

Aが組み立て終わるのをBと待つ。そして、わたしの共犯者であるBは言った。

「待ってる間、わたし一曲歌って良いですか?」

ナイスだB! そのフリはファインプレイだ!
その最高のトス、わたしが全力で撃ち込むこととしよう。

「そしたら、親が歌ってる間にプロポーズ作るのはどう??」

あ、勿論無理強いはしないからねーと続ける。

かくして、【Aの歌聞きたい同盟】メンバーのわたしとBによって下地は整えられたのである。


「♪〜」

宣言通り、Bが歌う。プロポーズの言葉を作り終えているわたしはBの美声を堪能していた。

-歌声綺麗だし可愛いし最高か。

隣で悩むAを差し置き、わたしひとりだけノリノリである。心の中では拳を振り上げてすらいた。
大好きな可愛いBが目の前で歌っている。ライブに参戦している気分である。
この後Bは歌う度に「声すごく綺麗! 最高! ファンです!」とわたしに言われることになる。


それからBが歌い終わり、Aもプロポーズを作り終えた。
それぞれ音読で披露する。これが難関②である。

わたしは言い慣れてるから、すらっすら言ってしまう。Aは…声を上擦らせて読み上げる。

んんんんんん! 可 愛 す ぎ る 。

並び的にこのすぐ後に親になるのはわたしだ。
これ、思っていた以上にわたし得過ぎるのでは…?

思いが昂り過ぎた所為か、この後わたしは久々のカラオケで盛大に音を外した。大変悔しい。


そして、待ちに待ったAが親になる番。

「僕が曲選び終える前に2人とも作り終えるのでは…?」

初回は実際そうなってしまった。
しかし2巡目、Aが入れた曲を見てわたしは思わず叫んでしまった。
流れてきた曲は、今年30周年を迎えたあのバンドの初期の頃の曲だ。えっ選曲センス良過ぎない?
Aは「しまった知ってる人が居た」とひとりごちた。流れる前奏。そして。

「待って良い声してるじゃない!?」
「え、何で歌うの拒否してたの!?」

Aの歌声を聞いた瞬間、わたしとBは絶叫した。
因みに前者がわたし、後者がBのシャウトである。

さくっとプロポーズの言葉を作り上げてAの歌を堪能することにした。
ズルいんですけど! ポテンシャル高過ぎるんですけど!! Aが歌ってる間、その隣でわたしはずっとそう言ってのたうち回っていた。ファンを超えてもはや不審者である。通報されてもおかしくない。

間奏のタイミングで、わたしとBが言葉を作り終えてるのに気付いたAがリモコンに手を伸ばした。

「「待って! 止めないで」」

わたしとBの制止の声に、Aは「えぇ〜」と言いつつ最後まで歌ってくれた。最高か。


途中、Bがドリンクを取りに行っている間、Aが次の曲を選び始めた。
手元を覗き込めば、広島出身のロックバンドのリストを開いているようだ。
そのグループだったらわたしはこの歌が聞きたい、と駄目元でリクエストしてみた。

持ち曲とかあるだろうし、本当に駄目元でのリクエストだったのだが。

…数分後、わたしは悶絶していた。

Aがリクエストを聞いてくれたのである。貴方が神か。拝むしかないかな?
この時点でわたしのテンションは割と振り切れていた。

しかし、Aの攻撃はまだまだこれからであった。

「ねこのさんの前で歌うのはあれなんですが、」

次の周でそう前置きをしてAが入れたのは、Janne Da Arcの『月光花』。
わたしが一生推す最推しのyasuさんが所属していたロックバンド。大好きな歌。
モニター画面の表示を見てわたしは両手でガッツポーズをとった。
そして、喜びの後に込み上げる困惑。

-待って待って待って。行きの車の中で話した時、君はJanne Da Arc知らなかったじゃない!?

「友人で歌うやつが居たので」とかいう理由でソロプロジェクトのABCのフルネームは言えてたのに。因みにわたしは勿論ABCも好きである。

かくして、再びわたしは悶絶することとなった。

ファンサが凄い…何この神イベント…
残業続きのわたしへのご褒美かな?

AとBからプロポーズを受け、Aが歌い、Bが美声を響かせる。
わたしは昂り過ぎて音程が取れなくなる。負のループである。
それでも良い。わたしは推したちの歌声を聞ける上、可愛い部下たちから合法的にプロポーズの言葉まで聞ける。幸せ過ぎる。



カードゲームの方では、一試合目は辛くもわたしが勝利を収めた。そうこうしている内に、AもBも段々とプロポーズ作成のコツを掴んできたらしい。
二試合目では拡張セット「ラバーズピンク」を追加してのゲームとなった。

拡張セット『ラバーズピンク』を混ぜれば、いつもよりラブラブな雰囲気のプロポーズに…
たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ。公式HPより

公式HPでは上記の通り謳われているが、わたしの友人たちの間では「これは…入れるとより際どいものが出来るのでは?」と評判である。
尚、ラバーズピンクだけではなく、ストーカーブラックも加えるとより一層振り切れたものが出来る。大変オススメだ。


ここで、Bによる最高の一品を披露させていただきたい。

パワーフレーズが過ぎる。

Bが綺麗な声で言うのが最高に面白くて可愛い。
わたしが爆笑している隣で、Aは「家族ネタは強いですね」と冷静に頷いていた。

そして、AはAで真面目路線にほんのりアクセントを加えて繰り出してくる。

「トキメキで賞」の破壊力。

わたしの目を真っ直ぐ見ながら、ちょっと声を震わせて言ってくるA。いや演技力の発揮の仕方よ。

真面目路線で演技力まで発揮されてしまっては、太刀打ち出来ない。
お陰で後半戦の自分が親の回では、わたしは両手で顔を覆って本気で照れるしか無かった。

想像していただきたい。
推しが、真っ直ぐ自分の目を見てプロポーズしてくるところを。
照れるしか出来ない筈である。

因みに、「何言ってんだろ?」の部分は「な〜に言ってんだろ?」と発音していた。ポイントが高い。

尚、二試合目ではAが勝利した。
わたしの敗因は途中でネタに走るか真面目にするか悩みネタに振り切った結果、露出狂からのプロポーズが出来上がってしまったところか。
不審者が露出狂にレベルアップしてしまった。通報されなかっただけありがたい。


そうして、あっという間に2時間が経過した。

外に出てから、Aは「最初カラオケ入ったときは『やばいなどうしようかな』と思ってたけど、結果的に楽しくて良かったです」と語ってくれた。可愛い。
BはBで「またカードゲームやりましょう!」と言ってくれた。可愛さの二乗…!

今思えば、AもBも上司を喜ばそうとしてくれてたところもあるのだと思う。2人ともとても出来る子たちだ。
だけど、それだけじゃなくて楽しんでくれてたと信じたい。


さて、次の出勤時、わたしはどんな顔して出勤しようかな…noteを書きながら当時の自分のはしゃぎっぷりを思い出し、わたしは遠くを見るのだった。

羊と歌とプロポーズと。〜完〜


前編はこちら!


そして中編はこちら!!

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