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Hero or Green-eyed monster ?
ある日の朝、寝返りが打てずに苦しくて目を開いたら、胸の上に2番目の猫が箱座りをしていた。
「おはよ。どうしたの、朝からなんて珍しいじゃない。」
2番目に声を掛け、「ちょっと苦しいから退いて…」と彼女を退かして寝返りを打つ。
2番目は
「んなおおおおぉん」
と不満気に声を上げ、『どう考えても退かされたことに納得が行かない』と言わんばかりに唸り始めた。どうしてもわたしの上に登りたいらしく、右を向いたわたしの左脇腹の上で蹲る。
耳はイカ耳状態で、瞳を細め、尻尾をバシバシと叩きつけてきた。
寝返りを打てたことに満足したわたしはそんな2番目には構わず「あと10分…」と抱き枕にぎゅっと抱き着き、再び微睡み始めた。
次の瞬間だった。
「痛っ!」
「ヴゥゥワァァア! シャーーーーーッ」どすっバリバリバリッ「ンンンナオオオォッ!!」バシバシバシッ「痛い痛い痛い!!!」
凄まじい2番目の唸り声と威嚇の声、そしてわたしの悲鳴が響き渡った。
見れば、2番目と3番目がわたしの身体の上で大喧嘩をしている。
因みに、上記の猫の唸り声の間のバリバリっという音はわたしが猫爪の被害に遭う音である。
2番目はイカ耳状態で姿勢を低くし、唸り声を上げ続けている。
対する3番目は静かに、しかし大きな丸い瞳を全開にして2番目に向かい合っていた。毛は逆立っていないが足場に爪が食い込んでおり、2番目に対して本気で怒っていることが伝わってくる。
尚、お分かりかと思うが、このときの「足場」とはわたしのことである。
3番目が片手を上げているところを見ると、恐らく2番目に飛び掛かり、そのまま猫パンチを喰らわせたのだろう。
3番目のパンチは強い。猫が猫を叩いているとは思えない音がすることがある。
2番目が下手に動けば、即座に3番目のバネを効かせたストレートが火を吹くだろう。
足場のわたしにはわかる。痛い。3番目、力入れ過ぎて全部爪出てるもん…。
足場、もう二の腕と肩に赤い線何本も入ってるもん…。
これ以上は流石にごめん被りたい。3番目の怒り具合が文字通りダイレクトにわたしに伝わってくる。心の底から「2番目よ引き下がるんだ…」と願った。
そうして暫く睨み合った末、2番は小さく唸りながらベッドの上に退散していった。
「んぎゃあっ!」ベッド上に戻る2番目に左足の甲を踏切台にされたわたしは、悲鳴を上げてもんどりを打つ。足の甲には新たに赤い線が引かれていた。
「………。」
終始無言だった3番目は2番目が去ったのを見ると、ふぅーっと息を吐いた。同時に構えを解く。-ボクサーかな?
そう。3番目は終始無言だった。騒いでいたのは2番目とわたしだけである。
3番目はふすっと息を漏らし、台所の方向へ去って行った。後ろ姿に猛者の風格が漂っている。
あとには、静けさと傷だらけのわたしだけが残された。わたしが何をしたと言うのか。
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どうやら3番目は「2番目がわたしを困らせている」と思ったらしく、わたしを救いにきたらしい。
起き上がって会いに行けば、満足そうにスリスリと身体を擦り付けてきた。
しかし、3番目には『わたしの手から直接袋入りの液状フードを貰う末猫に平手打ちをかました』という前科がある。
わたしが初めて末猫に液状フードをあげた際のことだ。
「手から食べるかな?」と袋を差し出せば、末猫は実に神妙な顔をして座り、直接袋を舐め始めた。今までの猫たちは皆お皿に出さないと食べない子たちばかりだった為、CMでよく見るような食べ方が可愛くて、わたしは末猫に「美味しい?良かったねえ!」と声を掛けながらフードを与えていた。
お気に入りの座布団の上でご機嫌で寝ていた3番目がその声に目を開き、---そしてなんとも形容し難い凄まじい顔をした。
そのままジッと末猫がわたしの手から直接ごはんを貰うのを見詰める。
末猫が食べ終わった瞬間、3番目はスッと座布団から立ち上がり、末猫に向かってスタスタと真っ直ぐ歩み寄って行った。
そしてそのまま、満足そうに顔を洗う末猫をノーモーションで一発ぶん殴ったのである。
まるでドラマを見ているような光景だった。「この泥棒猫!」というセリフが聞こえてきそうな。
恐らく一生忘れないだろう。
動画を撮っていなかったのが未だに悔やまれるくらいだった。
そう。3番目はそれくらいわたしのことが大好きなのだ。
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『ヒーロー』としてわたしを救いにきたのか、はたまた『緑色の瞳の怪物』として2番目を追い払いにきたのか。
答えは3番目のみが知っている。
green-eyed monster
1. 緑色の目をした怪物
2. 〈話〉嫉妬
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