コロナウイルス対策についての仏マクロン大統領の演説(「百年で一番の危機」2020年3月12日)

【原文:Adresse aux Français, 12 mars 2020

フランス人、親愛なる同胞の皆さん、

数週間前から、わが国はCovid-19の蔓延に直面しています、幾千もの国民がこのウイルスに感染しました。もちろん、今晩わたしは、何よりもまず、犠牲者の家族や友人の方々に胸打たれ、励ましたいと思っています。すべての大陸、そしてヨーロッパ各国を襲っているこの流行は、フランスが経験する百年で一番の深刻な衛生的危機です。ほとんどの場合Covid-19は何の危害も及ぼしませんが、このウイルスは重篤な症状をもたらす可能性があり、とくに高齢の方や、糖尿病、肥満、癌といった慢性疾患のある方に影響を与えうるものです。

何週間も前から、われわれは準備し、行動してきました。病院職員、医師、看護師、救急隊員、緊急医療や病院に携わる方々、開業医、フランスの公衆衛生部門の方々が、献身的かつ能率的に働いてくれました。ウイルスの蔓延を遅らせ、重篤症例を抑えることができたのは、そうした方々が素早く対応してくれたからです。皆、自身や家族のための時間を、われわれの健康のために割くことを厭いませんでした。ですから、今晩わたしは、何を措いても、あなたがたに代わって、この白衣を着た英雄たちに、国民の感謝を表明したいのです、何千人もの立派な方々が、ただ治療のみを指針とし、人間のため、われわれの生活のため、端的に言えばわれわれの命のためにのみ集中してくれました。

また、今晩わたしは、あなたがたの示した冷静さを称えたいと思います。ウイルスの蔓延に際して、自身についても近しいひとたちについても、あなたがたは不安を、さらには煩悶を感じられたでしょう、尤もなことです。あなたがたは怒りや混乱に身を任せずに対処されました。そのうえ、適切な行動をとることで、ウイルスの拡散を遅らせ、病院や看護施設が準備万端となれるようにしました。まさしく偉大な国民です。全体の利益を第一に考えられる方々、価値観において一致できる人間の共同体、すなわち連帯と友愛です。

しかし、親愛なる同胞の皆さん、わたしが今夜、とても厳格かつ明快に、また正しい体制をとるという共通の意志によって、あなたがたに言いたいのは、この流行はまだ初期段階にすぎないということです。ヨーロッパ全体で、流行は加速し、激化しています。それに対するわが国の最優先事項は、われわれの健康です。わたしは一切妥協しません。

ひとつの原理がわれわれの行動を決めます、まず危機を予測し、のち数週間に亘って危機を制御するための原理です、継続しなければなりません。それは科学への信頼です。専門家の話を聞くことです。今朝、ヨーロッパの最も優れた専門家たちが、重要な声明を発表しました。わたしは今日、首相と厚生相とともに、科学調査委員会を招集しました。フランスには、最高のウイルス学者、最高の疫学者、高名な専門家、そして初期から報告を伝えてくれた現場の臨床医の方々がいます。皆が口を揃えて、ウイルスを抑制する努力にもかかわらず、感染拡大が続いており、ますます加速していると述べました。知っていた、そして危惧していた事態です。

恐れるべきは、この病気が最も弱い者から冒してゆくことです。その中には、病院での適切な治療を要し、しばしば呼吸補助器を必要とする方が多くいます。そのため、あとでまた述べますが、われわれは病院の受付能力を大幅に増やせるよう非常に強力な措置を講じています、他の患者も治療し続けねばならないからです。また、少し遅れて若者を襲うであろう第二波にも備えねばなりません、人数はかなり少なく、病歴のある方も少ないでしょうが、治療を要するには違いないのです。

こうした情況において、喫緊の課題は、最も弱い同胞を守ることです。急を要するのは、先に挙げた、われわれの病院、救命救急部門、看護施設といった、数を増すであろう感染者の治療に当たる方々を守るため、流行を抑えることです。これらが優先事項です。したがって、時間を稼ぎ続け、最も不安定な方々を見守り続けなければなりません。最も弱い者を最初に守るのです。これが最優先事項です。

よって、今晩、70歳以上のすべての方、慢性疾患や呼吸器疾患のある方、障碍のある方に、可能な限り家に留まるよう要請します。もちろん、買い物や換気のために外出するのは構いませんが、他人との接触を最大限に制限する必要があります。関連して、わたしは科学者の方々に、統一地方選挙について尋ねました。選挙の第一回は数日後に開催されます。科学者たちは、フランス人の投票を妨げる理由は、最も弱い方にとってさえ、何もないと考えています。また、わたしは今朝、すべての政治グループと広く相談するよう再度首相に要請し、皆が同意見を示しました。ただし、ウイルス防御のための行動と衛生のための勧告を厳守するよう、気を配らねばならいでしょう。首長および各々の市民意識を信頼しています。また、市役所や公共機関がしっかりと準備していることも知っています。高齢者が長時間待機させられず、行列ができず、距離が保たれるといった、周知の防御措置が充分に尊重されるよう、明日、より強い指示が与えられます。しかし現時点で重要なのは、われわれがしたのと同じく科学者の助言に従い、民主的な活動と自治体の恒常性を保つことです。つまり現在、優先事項の中でも最優先なのは、この流行で最初に被害を受ける、最も弱い方々を守ることです。

二番目は、流行を抑えることです。なぜか?厚生相と厚生省長官が何度も説明してきたとおり、呼吸困難となった患者が救命救急部門に押しよせるのを避けるためです。時間を稼ぎ続けなければなりません、したがって、全体の利益のため、皆さんの献身の継続、いっそうの献身をお願いします。

月曜日から、新たな指示があるまで、保育園、小学校、中学校、高校、大学は閉鎖されます、理由は単純です。これも科学者によれば、子どもや若者が急速にウイルスを広めていると思われるからです、ときに子どもには症状が表われず、さいわい今のところ重症にもならないように見えるとしてもです。子どもや若者を守ると同時に、全国的なウイルスの拡散を抑えるためでもあるのです。

地域ごとに保育部門が設けられます、防疫上の危機対応に不可欠な方々が確実に子どもを預けられ、皆さんを防護し治療するために働き続けられるよう、適切な組織が作られるはずです。この組織は、議員や全国の代表者たちの協力のもと、政府によって数日以内に作られます。

わたしは企業に対し、可能であれば従業員に遠隔勤務を認めるよう要請します。すでに各大臣が発表したとおり、われわれは遠隔勤務をかなり進めました。これを継続し、最大限に強化する必要があります。公共交通は維持されます、それを止めると全てが止まるからです、治療の可能性も失われてしまいます。しかしここでも、わたしは皆さんの責任感に訴え、すべてのフランス人に対して、最低限必要な移動のみに留めるよう勧めます。政府はまた、可能な限り集会を制限する措置を発表する予定です。

同時に、医療体制、とくに救命部門は、いっそう多くのCovid-19重症患者を受け入れる準備をしつつ、他の患者の治療を続けなければなりません。病院に空きを作らねばなりません。したがって、国の医療機関の総力、最大数の医師と看護師が動員されます。また、学生や早期退職者を動員します。そのための特別措置が取られます。もっとも、すでに多くの方々が動き始めています。感謝したいと思います。わたしは数日前、パリの緊急医療部門で、大規模で感動的で模範的な動員を見ました。試験から数ヶ月しか経っていない学生が通報対応や補助のために現場に立ち、引退したばかりの医師が有力な手助けをするために戻ってきていました。これこそわれわれが適切な対策をとりつつ一般にも広げようとしているものです。並行して、病院での重要でない治療、つまり緊急でない手術は延期されます、これらはすべて時間を稼ぐためです。健康は金に換えられません。政府は、援助のため、患者の費用を負担するため、命を救うために幾らかかろうとも、必要なあらゆる財政出動を行ないます。われわれが下している多くの決断、われわれが進めている多くの変更を、われわれは記録します、それはこの危機からも学ぶためであり、また医療関係者たちが大規模な刷新と動員を行なっているからです、目下やっていることからあらゆる教訓を引き出したのち、より強固な医療体制へと移行するのです。

研究者もまた広範な動員が行なわれます。フランスおよびヨーロッパで多数の計画、臨床試験が進行中です、迅速で効率的で効果的な大量診断ができるようにするためです。この分野での情況改善を目指し、フランスおよびヨーロッパ双方のレベルで作業が始まりました。わが教授陣は、民間関係者の支援も受けつつ、すでにパリ、マルセイユ、リヨンなどで多くの治療法を検討しています。治験が開始されました。数週間から数ヶ月のうちに、汎用できる最初の治療法が得られることを願っています。ヨーロッパはCovid-19の治療薬を世界に提供するあらゆる手段を持っています。また、関係者はワクチンの開発にも取り組んでいます。何ヶ月もかかるでしょうが、大きな希望をもたらします。フランスやヨーロッパの研究結集は期待どおりでもあり、引き続き強化してゆきます。

この試練には、最も恵まれない、最も不安定な方々に対する社会的動員も必要です。冬の猶予〔11月から3月までは家賃が未払いでも賃借人を追い出してはならないとする制度〕は2ヶ月間延長されます、わたしはこの情況で最も不安定な方々のための特別措置をとるよう政府に要請します。そして、われわれが経験している試練には、経済の面でも広範な動員が必要です。すでにレストラン、小売商、専門職、ホテル、観光業、文化産業、興行、輸送業の方々が苦しんでいることは、承知しています。経営者は発注書がどうなるか懸念しており、皆さんは自分の雇用や購買力がどうなるか心配しています。尤もな不安だと思います。今晩わたしが発表した決定により、この経済的不安は間違いなく高まるでしょう。

健康上の問題に加えて、経営者に倒産の恐れを、被雇用者に失業や月末不如意の憂慮を与えるようなことはしません。ですから、賃金労働者と企業を守るため、やはり幾らかかろうとも、あらゆる手段が講じられます。数日以内に、特別かつ大規模な部分的失業制度が施行されます。すでに各大臣が最初の発表を行ないました。さらに大きく踏み込みます。自宅待機を余儀なくされた被雇用者には、国が補償金を支払います。この点について、たとえばドイツが導入した、われわれよりも大規模で簡潔な制度を参照したいと思います。雇用と職能を維持できるよう、つまり被雇用者が自宅待機を強いられた場合でも会社に継続雇用されるよう、そして給料を支払われるよう望みます。わたしは個人事業主の保護も望みます。あらゆる必要な手段を講じて、経済面での保証を与えます。

すべての企業は、希望すれば、理由なし、手続きなし、罰則なしで、3月の社会保険料と税金の支払いを延期できます。あとでまた必要な取消または繰延の措置をとりますが、そうした措置が常に時間を要することは、わたしも知っています。われわれの経済力のための簡潔な対策を望んでいます。数日以内あるいは数週間以内に履行期限の来る債務は、必要ならば誰であれ停止されます。あらゆる規模の企業を守ります。すべての労働者を守ります。同時に、わたしは政府に、将来のため、わが国とヨーロッパ全体の経済振興策を、われわれの強みと貢献を鑑みて準備するよう求めました。

ヨーロッパとしての対応も必要です。欧州中央銀行は今日、すでに最初の決定を発表しました。それで充分でしょうか?わたしはそうは思いません。新たな決定を下すのは欧州中央銀行の役目です。しかし今晩、わたしは皆さんとともに明確にしておきます。われわれヨーロッパ人は、金融経済危機の拡大を許しません。われわれは強力かつ迅速に対処します。ヨーロッパ各国政府は一致して、何としても経済活動を維持し、そして再興させる決定を、下さなければなりません。フランスは決断します、そしてわたしは皆さんの名においてヨーロッパ全体のレベルを同じ水準まで引き上げます。すでにわたしは、昨日開催された臨時会合で、それを実行しました。金融市場が今後数日でどうなるかは分かりませんが、わたしは変わらず明確でいます。ヨーロッパは、ヨーロッパ経済を守るため、組織的かつ大規模な方法で対処します。また、国際的にも結束できるよう望みます。G7やG20の大国の責任感に訴えます。明日、わたしはトランプ大統領と対話し、G7構成国による特別な率先策を勧めます、というのは彼が議長だからです。今日の世界的危機への対処を可能にするのは、分断ではなく、皆で正確に素早く見極め、皆で行動する力です。

親愛なる同胞の皆さん、これらすべての措置はわれわれ全員の安全のために必要です、わたしは皆さんが一致団結して危機に当たるよう願います。実際、個人と集団の規律、そして一体性なしには、これほどの規模の危機に打ち勝つことはできません。わたしは今日、わが国で、さまざまな声を聞きます。「充分に踏み込んでいない」と言って、すべてを閉ざし、ときには過度にすべてを疑おうとする方もいれば、危機は他人事だという方もいます。わたしは今晩、わが国全体の方針をどうすべきか、皆さんに伝えようと試みました。親愛なる同胞の皆さん、われわれは今日、ふたつの落とし穴を避けねばなりません。

ひとつは民族主義的撤退です。このウイルスはパスポートを持っていません。われわれは力を集め、対応を一元化し、協働しなければなりません。フランスは現場なのです。ヨーロッパの連携が不可欠であり、わたしはそれを念頭に置きます。取るべき対策は間違いなくあります、しかしそれは影響を受けている地域とそうでない地域との交流を減らすために取らねばならない対策です。これらは必ずしも国境ではありません。安逸や混乱に流されてはいけません。境界管理や境界閉鎖を行なうことになるでしょうが、それは適切なときに、ヨーロッパ人として、ヨーロッパというくくりで行なう必要があります、われわれはヨーロッパというくくりで自由と保護を構築してきたからです。

もうひとつの落とし穴は個人主義的撤退です。この試練に独りで立ち向かわないでください。逆に、わたしではなくわれわれとして考え、連帯してこそ、この巨大な脅威に立ち向かえます。だからこそ、わたしは今晩、これから数日間、数週間、数ヶ月間、皆さんに期待していると伝えたいのです。わたしは皆さんに期待します、なぜなら政府だけで対処することはできないし、われわれはひとつの国家だからです。それぞれに果たすべき役割があります。わたしは皆さんに、当局から出された、あるいは追って出される指示、とくにウイルス防御のために周知された行動を尊重するよう期待します。それらは今日、ほとんど実行されていません。つまり、石鹸または水性アルコール剤で充分に時間をかけて手を洗うことです。ウイルスを移さないよう、頬を合わせたり手を握ったりせずに挨拶することです。1メートル離れて立つことです。取るに足らないと思われるかもしれません。これらの行動は命を救うのです、命です。親愛なる同胞の皆さん、わたしは皆さんがそれらを実行するよう厳命します。

各々が、それぞれの身近なひとをはじめ、他のひとたちの防疫を担っています。高齢者を訪ねるのではなく、最も不安定な同胞を気にかけるよう、期待します。苦しいのは重々承知しています。ただ一時的に必要なのです。手紙を書き、電話をして、近況を聞き、訪問者を限定することで守ってあげてください。わたしは皆さんに期待します、そう、近所の方が医療関係者で、仕事に行って他のひとたちを助けているあいだ、子どもたちの世話をすることを。わたしは企業が従業員の在宅勤務を支援するよう期待します。これを機にわれわれ全員が新たな連帯を作り出すことを期待します。こうしたことから、わたしは政府に対して、労使双方と協力し、この方向へと連携して動くよう要請します。この危機は、世代を越えた国民的団結行動の契機であるべきです。動機はあります。すでに実施されている活動もあります。われわれ皆で、さらに強くすることができます。

もちろん、医療関係者の皆さんにも、期待しています。わたしは皆さんがすでに行なったことを全て知っています、これからしなければならないことも知っています。政府もわたしも、皆さんのためにあらゆる責任を負います。わたしは、最も重症の患者だけでなく、多くの急患を抱えている、病院にいる全ての医療関係者のことを思います。病院の外で大規模に動員され、今後数週間ますます頼ることとなる、医師、看護師、すべての医療関係者のことを思い浮かべます。

わたしは皆さんに期待してよいのだと知っています。厚生相が、数時間以内に、皆さんをウイルスから守る助けとなる規則を明示するはずです。それはわれわれが皆さんを尊重するからであり、間違いなく国家が皆さんにすべきことです。規則は誰にとっても明確で、また適切かつ納得できるものでしょう。

わたしは皆さんが国家を支えることを期待します。われわれの最良のものを呼び覚まし、過去にフランスを最も困難な試練と対峙せしめた献身的な精神を示すことを期待します。

親愛なる同胞の皆さん、近い将来、われわれの辿っている転機から教訓を学び、われわれの世界が何十年も進めてきた欠陥を露呈している成長の仕方を疑い、民主主義の弱点を問わねばなりません。この感染拡大がすでに明らかにしたのは、所得や経歴や職業によらない無償の医療、われわれの福祉国家は、出費や負担ではなく、運命に襲われたときのための貴重な財産、不可欠な武器であるということです。この感染拡大が明らかにしたのは、市場原理の外に置かれねばならない商品や仕事があるということです。われわれの食糧や安全、生活基盤を維持する力を他人に委ねるのは、狂気の沙汰です。手綱を握りなおし、すでにある統一フランス、主権ヨーロッパ、ひとつのフランスそしてひとつのヨーロッパを、自らの手で運命を固く握りしめるものとして再び構築せねばなりません。この方向へ大きく舵を切ると決めるには、数週間か数ヶ月を要するでしょう。わたしは断行します。

しかし今は、われわれの同胞を守り、国民がまとまる時です。皆が同じ道を進み、混乱や恐怖や安逸に流されず、われわれの精神の強さ、わが国民に歴史上いくつもの危機を乗り越えさせてきた力を思い出すことによる、崇高なる団結の時です。

ひとつとなったフランスは、われわれがくぐり抜けている困難な時期にあって、最高の武器です。われわれは一体となって耐え抜くでしょう。

共和国万歳!

フランス万歳!

(訳:加藤一輝)

(第二回の演説「われわれは戦時下にある」2020年3月16日

(第三回の演説「共に生きる根源的な理由」2020年4月13日

(第四回の演説「新たなページを開く」2020年6月14日

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