『雨天炎天』村上春樹

一冊の中で一番好きだった一節・おそろしくぼろぼろのラーソを着て、それこそ腰を荒縄で縛って、ずた袋みたいなのをかついだ、ダイハードな、いわば武闘派の僧侶もいる。これは僧侶というよりは、はっきりと言って乞食に近いように見える。そうかと思うと、隣には皴ひとつない、クリーニングから今朝返ってきたばかりみたいなラーソをピシッと着込んで、アタッシェ・ケースをさげ、サングラスをかけたトレンディーなヤッピー型の僧侶もいる。そしてその両者を両極端として、間に様々な格好をした僧侶がグラデーション的に点在している。一か所に集めて、順番に一列に並べて見たくなるくらいのものである。


ギリシャ編とトルコ編の落差が凄い、どっちもハードではあるのですが。

『世の中、人間のやっていることはどこでもだいたい同じである』
この一節も心に残りました。何故人は賭け事をして噂話をするのか。人種を越えて本能レベルで理由があるんだと思いました。

著者が結構普通に悪態を吐いたり、辟易しているところがリアルで、とっても旅らしい…。決して過剰な言葉を使っている訳でも説明過多でもないのに、肌感覚で伝わってくる文章、不思議な心地がしました。さりげなく凄まじい…。

著者の宗教への視線がまたフラットで、教義・文化を通り越して、『生き方への説得力、人生への確信』を見ていて、穏やかながらも目が覚めるようでした。
様々な事情があるんだろうな、という暮らしをする人々の間をすり抜けていく。疑問の答えもほぼ得られないし、心温まる出会いもそんなにない。凄くリアルワールドでした。

何度も思い返して反芻できる、幸福な読書時間でした。S様ご紹介ありがとうございました。

 

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