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ブランディングの第7ステップ:ブランド戦略の策定

認知ゴールとブランド戦略

ブランドの認知ゴールを設定した後は、いかに早く、そしてコストをかけずにそのゴールに到達できるかの方針を決定します。それがブランド戦略です。数多ある到達コースの中から、最適なコースを選ぶ作業でもあります。

ここで戦略と戦術を再度確認しておきたいと思います。戦略は「目的達成のための大きな方向性、方針、指針」、戦術は「その戦略に沿って、目的を達成するための具体的な手段」です。ブランド戦略の場合、達成すべき目的は、認知ゴールへの到達になります。

ブランド戦略の策定プロセス

認知ゴールの設定においては、これまでのステップで整理したブランド価値の確認やターゲットの探求、そしてブランドの価値の根源となる部分への深い探索を踏まえた上で行います。

認知ゴールもブランド戦略も、できるだけシンプルな言葉が理想です。戦略には新しいベネフィット(便益)言い換えると、新しい価値が含まれており、一言でチームのモチベーションが上がり、ブランド全体の行動指針となるべき行動変容を促す力のある言葉が求められます。

戦略ワードは、最低限これらの要素を満たす必要があります。自然とアクションが見えるものが理想です。

例えば、ニトリの「お値段以上」は、オーバーバリューの商品づくりにはじまり、売り場づくりや接客など、一言で価格以上の価値を提供するという一貫性が担保できる戦略になっています。

例えば、焼肉きんぐのCMでは「焼肉は自由だ!」というキャッチコピーが出てきます。本当のブランドの戦略ワードは別の言葉ですが、焼肉は自由だ!は、ほぼ戦略に近い言葉であり、これを戦略としても問題ないと考えています。

同店は焼肉食べ放題のチェーンですが、売り上げは数年前に牛角を抜いて業界1位に君臨しながら、店舗数は牛角の半分くらいしかありません。いかに利益率が高いかが分かります。

焼肉きんぐはひときわメニューが豊富で、タレや薬味など食べ方のバリエーションも何万通りもできるほど豊富です。焼肉⇒アイス⇒焼肉⇒〆め⇒ケーキとコーヒーなど、食べ方も食べ順も全てがやりたい放題できて、なんでも自由にできるところにFACTも機能価値も情緒価値もあります。焼肉きんぐこそ「焼肉は自由だ!」胸を張って言える焼肉チェーン店ととらえることができます。

この、ほぼ戦略になっている「焼肉は自由だ!」の考え方に沿って、自由を体現し消費者が体験できるメニュー展開やフェアを考えていけばよいのです。店舗スタッフはお客さんの自由をサポートする役割です。これが戦略から戦術を考えるということになります。

ブランド戦略の理解と浸透

ブランド戦略がわかりにくいものであれば、改善する必要があります。なぜなら、社内へのインナーブランディングの時点で
「ちょっと何言ってんのかよくわかんないんですけど」となり、疑問を持たれた時点で戦略が浸透しづらくなるからです。
「は?、わけわかんねえ」となったらおしまいです。
ですから、ブランド戦略を策定するのは非常に難しいのです。

戦略と言葉の選び方

われわれはそもそもフレームワークに入れてていないので規定しませんが、戦略に限らずブランド・コンセプトやブランド・アイデンティティ、ブランド・ビジョンなども同様です。わかりにくい言葉は使えません。

いろいろな会社や事業のブランド戦略を見ていると、言葉をこねくり回して、カッコだけつけて意味不明になっているものが散見されます。

以前、われわれもそのような横文字系の言葉を、企業側の要請で提案した時期もありました。
「意味はしっかりしていても分かりづらくないか?」と思い、クライアントに進言しましたが、「これでOKです」と意見の強い担当者に押されて終了となったこともありました。

中には成功したブランドもありましたが、戦略で成功したというより商品力で成功したと理解しています。

ブランディングやマーケティングは横文字が多い点でもわかりにくさを助長しています。

十数年前に英語教材をブランディングした際、今は亡き翻訳の大家から
「なぜそんなに英語を使うのか、わかりづらいだけじゃないか」
とお叱りを受けたことがあります。
「英語じゃないと微妙な意味が通らないんです」と返すと、
「日本語でわかりやすくする努力をしていないだけ」と言われました。その通りだと思いました。

その時から、われわれは、なるべく日本語でわかりやすく説明ができるように言葉を選ぶようにしました。従来はファンクショナル・ベネフィット=機能ベネフィット、エモーショナル・ベネフィット=情緒ベネフィット、ブランドパーセプションゴールなどの言葉を使っていましたが、ワークショップなどを行ううちに、機能価値、情緒価値、認知ゴールに変更した方が結果的に使いやすいということになり、現在はこの言葉を使っています。

戦略の浸透とシンプルな表現

話を戻し戦略に関して言えば、われわれもよく英単語で表現することがあります。アルバイトの若者でも、パートのスタッフでも理解できるような言葉でないと、ブランド戦略が浸透するわけがありません。シンプルだけど、意味が複層的というか、深い含みのある言葉が良いのです。

優れた戦略は、ダジャレなどから生まれることがよくあります。英単語を使うのは、英単語の方がダブルミーニングやトリプルミーニングなど、多様な意味合いを持つ単語が多いからです。

ブランドコンセプトなるもの

多くの会社がブランドのコンセプトを作り、それに基づいてロゴデザインなどを行っています。そのできあがったコンセプトを読んで「?」となる場合、内部にいる人たちも「?」と、納得していないことが多いのです。

われわれはコンセプトという言葉は曖昧なので使いません。コンセプトってどうやって表現していますか? 理念、概念、構成、構造、ストラクチャー? ブランドの理念、概念て日本的で重々しくないですか? その言葉ってポジショニングや戦略に置き換えられませんか? わたしは元P&Gバイスプレジデント和田浩子さんに、コンセプトではなく、ポジショニングの方が明快だと言われ、以来ポジショニングという言葉を使います。

また、ブランド戦略を作るときに、意見の強い人が仕切っていたりすると、曖昧なわかりづらい戦略がそのまま通ることがよくあります。他の人が「わかりづらい」と言いにくい環境です。

その戦略が正解の戦略なのかもしれませんが、近くにいる人たちが腑に落ちていない場合は、やはり表現を熟考する必要があります。わからないままで、進むと、関係者が?となり、そこから先のクリエイティブイデアや戦術案など全てが?になり、モチベーションも半減し、結果としてブランディングが失敗します。

合意形成型ブランド戦略の構築

われわれは、ブランド戦略を提案する際、多くの人たちに確認をとりながら、みんなが納得して動ける戦略であることを確認できなければ、最終的な戦略として提案していません。

だからこそ、合意形成型でコンセンサスを取りながらワークを進めていくことが重要なのです。

ブランド戦略は、打ち出の小づちを振れば出てくるようなものではありません。ブランドの価値やターゲットの特性、ブランドの根源的な価値提供など、複層的に積み重なった結果としてひねり出されてくるものです。

戦略と認知ゴールの適正化

われわれがブランディングのワークを進めていく上で、認知ゴールとブランド戦略が逆の方が適正と思うことがよくあります。

どちらをゴールにすべきか、どちらを戦略とすべきかは、わかりやすさや行動喚起しやすい言葉であるかなどの視点で適正を決めていきます。

戦略はキャッチフレーズではない

認知ゴールやブランド戦略を、キャッチフレーズのように考える人もいますが、それは違います。結果的にキャッチフレーズのように使えるものになっているだけで、もっとシンプルで全くキャッチフレーズに使えない言葉になる戦略も多くあります。

また、戦略自体が他でもよく使われている言葉になる場合もあります。これは避けた方が賢明です。ブランド戦略は基本的に外には出ない言葉なので、他で使われているというのも気にする必要はありませんが、あまりにもメジャーな言葉はNGです。同じカテゴリーでも使われている場合はさらにNGです。

ブランド戦略のチェックと柔軟性

ブランド戦略を策定したら必ず競合と比較しつつ、俯瞰して読み直してください。ワークショップなどでありがちなのが、
「他のブランドでも言えることだよね」
「これが戦略だとしたら弱すぎない」
「普通のこと言ってるよね」
「今と全く変わってない」
「新しさがない」
など、苦労して様々な情報を整理した結果、なんてことない陳腐な戦略ワード喚起てくることが多いのです。

われわれのセミナーなどを受けて、「自分たちでブランド戦略を作ってみました」というところが陥るのが、この状態です。競合の動向を意識せずに戦略構築を進めていると、こういう状態になります。

また、今まで我々がブランディングを経験してきた企業のほとんどが保守的であり、新しく物事を変えようという戦略作りに腰が引けている状態であることが多いのです。

今よりも違う新しいことをやる! という戦略を打ち出させるためには、担当者たちの決心、決意が必要になります。

戦略を決めたら、それに沿って戦術を作り、活動していくことになります。そこに自信が持てなかったり、これから、きつい状況が増えるな、と思ったりするとさらに腰が引けていくわけです。この状態ではブランディングは成功しません。

競合分析の重要性と戦略の柔軟性

われわれがブランド戦略を策定する際、類型を避けるために様々なチェックを行います。ブランド戦略がそのまま商品名やキャッチコピーなどに使える可能性もあるので、商標等のチェックも行います。

戦略がしっくりこない場合は、まずは(仮)状態で

ブランド戦略を策定したら、すぐに走り始めましょう。1カ月後、2カ月後など期間を決めて再検討する場を設けます。戦略が決まらないからと言って、活動をストップさせてはいけません。ブランド戦略はいつでも変更可能です。

ブランディングは1分1秒でも早く始めたほうが成功に近づきやすくなります。競合に先んじる必要が絶対的にあるのです。ブランディングの目的は利益を出すことの一点です。時間がかかると利益が薄まります。1分1秒でも利益を早く出す。ここに集中しましょう。



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