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『日銀、QEやめるってよ』国債買入残高はどうなるのか?

2024年6月14日の金融政策決定会合で、日本銀行は「長期国債買入れを減額していく方針」を決定した。異次元の金融緩和は2024年3月の金融政策決定会合で終了が宣言されたが、その時点で国債買入れには変更がなく、実質的にはQE(量的緩和)が継続されていた。これがようやく終わることになる。国債買入減額の詳細については、市場参加者との意見交換を踏まえ、次回7月の金融政策決定会合で「今後1~2年程度の具体的な減額計画を決定する」とされた。

今回の減額決定は事前に織り込まれており、債券、為替とも、公表後に大きな反応は見られなかった。筆者は、先週6月10日の記事で「国債相場の利回り調整が進み、長期金利がターミナルレート付近まで上昇した場合」には、国債買入を減らしても長期金利の急騰は避けられるかもしれないと記述した。
https://note.com/catapassed/n/nbe746687a9e5
さしあたり、「利回り調整」はかなりの程度進んでいたという解釈でよいと思われる。

さて、実際の減額ペースはどのようになるだろうか。植田総裁は記者会見で「ほんのわずかしか減額しないということではありません」、「減額する以上、相応な規模になる」と述べている。また、「もちろん国債残高の大まかに5割を日本銀行が保有しているという状態ですので、長期的に望ましい状態にまで1、2年で到達できるというふうには思っておりませんし、それから、その長期的に望ましい状態での、例えば日銀の負債側でいえば、超過準備の水準がどれくらいであるかという点に関しても、現状では確固たることはなかなか言いにくいうことだと思います。」とも発言している。
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2024/kk240617a.pdf
この、1、2年で到達しない、の意味は、文脈から考えてストックのことであろう。日銀が公表している、2024年6月10日時点の国債保有残高は585兆5186億円であり、買入のフローをどれだけ減らしても保有残高のストックは簡単には減らない。

以下、どの程度までフローを減らせばどの程度までストックが減るかを大まかに試算した。今回の声明文には「今後1~2年程度の具体的な減額計画を決定する」とあり、2年後を目途に買入フローをある程度正常化する考えと見られる。例えば、異次元緩和が実施される前、2012年に日銀が実施した国債買入は月額平均1.8兆円程度であり、この水準をとりあえずの目途とすることが考えられる。

アローアンスを考慮し、2年後に向けて、月間買入額を、

  • 2兆円まで減額

  • 1兆円まで減額

  • 3兆円まで減額

という3つのケースに加え、一部市場で議論されていたらしい、

  • 5兆円まで減額

の場合も含め、日銀の保有国債残高推移を示した。

長期試算では買入銘柄の平均残存年数が大きな問題になる。現状は7年超であるが、2012年当時の買入平均残存年数は3年弱だった。どこまで短期化するかは市場との意見交換も踏まえつつ決めることになろうが、さしあたり5~6年程度となる想定で試算した。

(日本銀行公表資料から筆者作成)*一定の仮定に基づいた試算値であることに注意されたい

試算では、月間の買入額を2兆円とするケースで、10年後に日銀の国債保有残高は200兆円あまりになる。同様に、月間1兆円なら残高150兆円程度、月間3兆円なら残高250兆円程度となる。月間5兆円のケースでは、残高380兆円程度である。正直言って、桁が大きすぎてあまり違いが分からないが、10年かけても保有残高380兆円というのは「相応な規模」の減額と呼ぶにはペースがやや遅いのではないか。

こうした残高削減が長期金利に及ぼす影響については、日銀自身が2024年4月に公表したレポートが一応の参考になる。
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/box/2404box6a.pdf
この分析では、これまでの日銀の国債買入れのストック効果について、「かなりの幅をもってみる必要がある」としつつも「概ね▲1%程度の長期金利の押し下げ効果がみられた」としている。仮に、今後10年で日銀の保有国債が585兆円から200兆円になるとすれば、ストック効果のほぼ3分の2が剥落し、長期金利は0.6~0.7%ほど上昇するといったイメージになる。とはいえ、もとよりラフな推計であることに加え、ストック効果が線形であると考える根拠もなく、きわめて乱暴な計算であることには強い留意が必要である。

付け加えるべき点として、このレポートでは、「国債買入れのストック効果については、市場参加者が織り込む将来予想の影響も含めて捉えるために、一定の仮定のもと『将来の国債保有割合予想』という変数を作成して説明変数としている」とある。日銀の国債保有残高減少が予想されれば、「予想の変化」を通じて、その時点でストック効果が弱まると解釈できる。市場参加者がどの程度のストック削減を予想しているのか、あるいはそれが現在の長期金利にどの程度反映されているのか、様々な解釈が可能である。

いずれにしろ、国債買入れ減額決定直後の市場の反応がきわめて限定的だったことは、日銀としてはひとまず歓迎すべき状況である。今後決定される減額ペースや買入銘柄の調整は、市場参加者の意見を踏まえたものとなる筈であり、短期的には市場に与える影響は大きくないと見込まれる。ただし、今後の利上げをめぐる思惑や情報発信の変化、長期的な債券市場の需給動向に加え、直接的影響が大きい海外金利の動向には特に留意が必要と考えられる。


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