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わたし王国ができる前
子どもの頃は、早く大人になりたかった。進級しても進学しても延々と終わりなく続く学校通いは好きになれなかったし、なにより自分の意思で環境やら行動を変えることができない、無力な日々に飽き飽きしていた。着るものも、食べるものも、行く場所も、会う人も、何もかもすべて自分で決めたかった。まあ列挙したことの半分くらいの裁量は子ども時代にも与えられていただろうけれど、とにかく誰かに迷惑を掛けない範囲において、何
もっとみるある晴れた昼下がりのこと
晴れた金曜の昼下がり、子どもふたりを連れて、地下鉄に乗っていた。水族館の帰り、はしゃぎ疲れてぼんやりしている上の子と、目が覚めかけてかすかにぐずり始めるあかんぼ。そろそろあやしどきかな、とベビーカーに手を伸ばしかけたとき、ふと通路を挟んだ向かいの席の人たちが目に入った。
あれ。いや、まさか。でもそっくりだなーー。その次の瞬間、目が合うと、向こうも驚きではっと息を飲んだのがわかった。互いに相手の名
世界がオーケストラであれば
物心ついた頃から、何となく喉に違和感があるような、お腹がごろごろするような、心もち体温が高いような、でも病院にかかるほどでもない、わずかな不調のある朝をむかえることがあった。少しくらい踏ん張れば、どうにか乗り切れそうなものばかりではあるが、生来根性なしだったわたしは、表情をくもらせ、2割増しくらいの症状を母に訴えた。
少しばかりの応酬を重ねた後、「本日はお休みします。大事をとって」というよう
無力感にさいなまれる夜は
自分のちっぽけさをひしひしと感じる夜は、布団をかぶって早々に眠ってしまうに限る。けれど、そう上手くいくばかりとは限らないで、もやもやとした重たい気持ちが邪魔をして、まんじりともせず空が明るくなってくるのを眺めながら朝を迎えてしまうこともある。
そんな時、わたしはある「遊び」に興ずることにした。
今抱えている仕事や人付き合いがどれもうまくいかないときには、何のしがらみもない新しい場所でひとり、生
思い込みでできている
ここ2ヶ月ほど、お酒を一滴もたしなんでいない。お酒については、個々の体質や個人の嗜好によりけりというところが大きいけれど、少なくとも20歳以降(としておく)のわたしの人生は、ほぼお酒ならびにお酒のお供となる肴とともにあったと言っても過言ではない。2ヶ月前までの自分にとって、飲酒は歯みがきやラジオ体操のように染みついた習慣のひとつであり、健康診断前夜とわかっていながらも、手が勝手に冷蔵庫を開け、指が
もっとみるしづ心なく花の散るらむ
とりわけ暴飲暴食や、気に病むことの心当たりがないのにもかかわらず、胃がしくしくと痛む日々が続いた。しくしくと、というほどのものでもない。どちらかというと、少し気怠いような、ずんとくるような、身体の中心が嫌な雰囲気。いつものドリップコーヒーも、普段通り淹れたものをお湯で割ってみるものの、何となく重たくて受け付けないので、どうにも気分もぼんやりしてしまう。かつては、お腹をくだすということはあれど、胃痛
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