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小説

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#短編小説

『フラオ・ローゼンバウムの靴』 大濱普美子

『フラオ・ローゼンバウムの靴』 大濱普美子

さらっと読めてぞわっと怖い短編小説を、今回も一作紹介しようと思う。
大濱普美子のデビュー作品集『たけこのぞう』(『猫の木のある庭』に改題して文庫化されている)に収められている作品だ。

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主人公は、ドイツの大学に学んでいる日本人留学生の「私」。
彼女はある日、一足の靴を手に入れる。
アパートの隣の部屋に住んでいたローゼンバウム夫人が亡くなったのだが、その遺言によって、なぜかその靴が彼女

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『菓子祭』 吉行淳之介

『菓子祭』 吉行淳之介

夏の休日。
冷房の効いた快適な部屋で、たまには吉行淳之介でも、と短編集を手に取った。

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「煙突男」

『ヒトラー』というドキュメント映画を観に行く、麻田という男。
彼はヒトラー及びナチスに関心を持っているようだが、その関心は奇妙にねじれて、過去の日本で起きた二つの殺人事件の方により強い興味があるようにうかがわれる。

一つは阿部定事件、もう一つは、とある青酸カリ殺人事件だ。
二つの事

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『望潮』 村田喜代子

『望潮』 村田喜代子

密かな名作短編をひとつ紹介したい。

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元高校教師の、喜寿の祝いの席。
老先生は、集まった教え子たちにある話をする。

10年ほど前、彼は俳句の仲間と、玄界灘の小島に吟行の旅に出かけ、そこで異様な光景に出会ったという。
「ほとんどエビみたいにつの字に曲がった腰」をした老婆達が、手押し車を押しながら、車道を行進する光景である。
地元のタクシー運転手は彼女達を「カニ」と呼んだ。「磯カニとおん

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