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株式会社CAST 薄型センサー商品化を目指すまで【前編】 ―“研究”だけをしていた16年間

熊本駅から車で約20分。熊本の中心市街地を過ぎ、飲食店などが並ぶ小道を通って見えてきたのは、熊本大学黒髪キャンパスです。文系・理系双方の学び舎がある一方で、熊本大学認定ベンチャー」制度をつくるなど、研究成果をもとに起業を目指す教職員や学生の支援もおこなっています。

その環境下で2019年に誕生したのが、株式会社CASTです。

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コア技術は、独自の「薄型センサー」。“薄い”だけではなく、どんな形状でも貼れるフレキシブル性・高温の場所でも使える耐熱性が特徴です。製造業の課題解決を目指して、商品開発を進めています。

熊本大学の教員が立ち上げた株式会社CAST(以下、CAST)。とはいえ、大学からは完全に独立しているベンチャー企業です。なぜ研究だけではなく、商品開発まで自らの手で実現しようと思ったのでしょう。そもそもなぜ、会社を興す必要があったのでしょう。

CAST創業の経緯を、代表取締役の中妻啓さんに取材しました。

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株式会社CASTとは】
・創業:2019年9月
・創業メンバー:中妻啓・田邉将之・小林牧子
・メンバー数:7名(2021年11月26日現在)
・所在地:熊本県熊本市中央区黒髪2-39-1(熊本大学内)
・事業内容:センサーおよび周辺機器・ソフトウェアの研究・開発・製造・販売
・ミッション:「あらゆる場所にセンサーを」


~創業の経緯~

CAST説明資料V3.pptx (1)



コア技術は2000年にできていた

NRC集合写真

―CASTはどのようにスタートしたのでしょうか?

CASTは、設立前にコアとなる技術が先にできていました。創業の約20年前です。創業者の一人でもある共同研究者の小林が2000年にカナダで博士課程を取得したときの、研究内容がもとになっています。

CASTのセンサーは「ゾルゲルスプレー法」という自動化されたスプレー塗布の独自技術を用いて、ぐにゃぐにゃと曲げられるフレキシブルなセンサーを作製できることが強みです。センサーを付けたい場所が複雑な形状でも、問題なくセンサーの機能を果たします。あと熱に強くて、1000℃までの耐熱性を兼ねそなえているのも特徴です。

2000年の時点ですでに、「フレキシブル」「耐熱」のふたつは技術の軸になっていました。今までセンサーを付けられなかった場所……例えば配管ですね。曲面かつ高温の場所を、センサーでいかにして可視化していくか、研究していたようです。

小林は博士課程修了後、数年間カナダの国立研究所で働いたのちに熊本大学に着任しています。ぼくたちが出会ったのが、熊本大学だったんです。


CAST創業メンバーの出会いは「授業の研修」

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出典:熊本市 事業化ラウンドテーブル

―創業メンバーとの出会いを教えてください。

中妻・田邉・小林が出会ったのは、2015年でした。ぼくが助教として熊本大学に着任して3年くらい経ったころで……。たまたまでしたね、知り合ったのは。

そのときカナダで英語の授業の研修を受けることになって、参加者の一人に田邉がいたんです。田邉は小林と同じ学科で、2人はすでに共同研究をしている仲でした。田邉から小林が研究しているセンサーの技術を初めて聞いたとき、ピンと来たんですよ。

というのも、ぼくは皮膚感覚に関する研究をしていて、ロボットの表面に取り付けられるセンサーがないかと考えていまして。スプレー塗布なら「ロボットでもセンサーをつけられるじゃん!」と思ったんです。研修後、中妻・田邉・小林に現在は退職しているもうひとりを加えて、学科を超えた共同研究が始まりました。CASTの原点です。


共同研究を進めるも、本格稼働には3年弱

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―会社設立以前に、共同研究をしていたのですね。

ええ。当時の共同研究のテーマは「ロボットスキン」。まさに、ロボットにセンサーをつけるプロジェクトでした。ちょうど大学で、NEDO(新エネルギー・産業技術開発機構)のプロジェクトに採択されたので、予算が取れたんです。研究の後押しとなりました。

まず「手作業でおこなっていたスプレー塗布の自動化」を目指すことに。するとたまたまなのですが、ある会社から機械の宣伝DMが届きまして……。試しにCASTのセンサーが生産できるかテストしに行ったんです。

そしたら、すごいうまくいったんですよ。じゃあ買おう!と、トントン拍子に話が進んでいきました。


ただ、ですね……。納品されたものの、しっかり使えるようになるまでに3年弱かかり……。

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そもそも備品がなくて、機械を動かせなかったんです。例えば、機械を動かすには圧縮エアーが必要なんですけど、なかったから買いに行きましたし。

あとは機械を置く部屋が狭いことに気づいて、2部屋を1部屋にする工事をしました。クレーン車を呼んで壁を壊したり、機械を窓から入れたり……なんてしていたら、半年はあっという間に過ぎるじゃないですか(笑)

備品を用意して、部屋を拡げて「よし、ようやく使える!」と機械を使ってみても、まあだいたいうまくはいかないもので……。「あれ、前はうまくいったのにな」と思いながらいろいろ試しているうちに、3年弱が経っていました。


「CAST」は、創業メンバーのグループ名だった

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―ちなみに「CAST」という名前は当時から付けていたのですか?

いや、研究を始めた当初は創業メンバーを象徴するような名前はなくて。「CAST」と名乗ったのは、2016年でした。名前はたまたまつけたんですが、こうして振り返ってみると、創業メンバーとの出会いも、大学からの支援や機械化のタイミングも、本当に“たまたま”が多いんですよね……。笑

2016年に大学内で学部・学科を超えての共同研究が加速しまして。「熊大の顔となるようなプロジェクトを作って、研究を盛り上げよう」との企画も立ち上がっていました。それに参加する際につけたのが、「CAST」だったんです。はじめはグループ名のようなものでした。

「CAST」は、「Core of Advantest Sensing Technology」の頭文字をとっています。「AST」は日本語でいうと「先端計測技術」。「Core」については、大学の企画趣旨として「研究“コア”を作ろう」だったのでつけた、という単純なきっかけです。

でもね、ぼくのなかでは『Center』のCにするっていう思惑もあったんですよ。CASTは研究コアを育てたら、熊本大学内で『研究センター』くらいの規模にはなるだろうなあと思っていました。そのときに『Center of Advantest Sensing Technology』で「CAST」にしよう、と。

とはいえ、「CAST」と名乗り始めたときはただの“研究グループ”ですから。まさか会社を立ち上げて商品開発をしていくとは、当時は思いもしなかったですね。


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前編はここまで。次回は「研究重視」から「研究と開発の両輪」にシフトした、創業ストーリー後編をお届けします。


株式会社CASTは、「nano tech 2022」に出展中です!CAST独自のセンサー技術を知る機会として、気軽にお立ち寄りください。

【オンライン展示会】
2021年11月26日(金)~2022年1月28日(金)


コンテンツ設計・取材・執筆:小溝朱里

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