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夕暮れ時の後楽園前 蝉への好奇心を救いたかった話し。

これはつい最近、一時帰国をしていた時のお話です。

長女と一緒に長女の志望校のオープンスクールに参加して、かつ、先生方や卒業生とも良い具合でお話しできたことに満足しながらの帰り道での出来事でした。

時間帯は17時あたり。

家路を急ぐ人の群れの中に、幼稚園帰りの子供とママの組み合わせがアチコチ目につくなか、年中さんくらいの男の子が歩道の真ん中で枯れ葉を使って何か地面のものを動かそうとしていて、その横にはそれを覗き込むママの姿がありました。

進行方向だったのもあり、その光景を遠くから長女と見ていたのですが、
だんだんと近づくに連れ、それがひっくり返った蝉だと分かったその瞬間、私のすぐそばを自転車で通り過ぎた私より年上のおばさんが、スタッ、トットットッと自転車から降りて、

「ねえ〜、これじゃ通れないんだけど!!」

と不満気たっぷりに言い放ったではないですか。

(いや、自転車で横を通り過ぎるだけの空間はあるよな…。)

と思いつつ、その状況を眺めていると、男の子のママは「すみません。」と苦笑いをしながら男の子を端に寄せようとしますが、男の子はひっくり返った蝉を放っておけずで、なかなか動かず。

そんな状況でもママも本人も蝉には触れない…な状態で…
このままひっくり返った蝉を放置して端によけたら、あのおばさん自転車で踏みつけていく可能性もあるな、と思った私は歩み寄りながら大きめの声で、

「あ〜、じゃあ、おばちゃんがこれでちょっとこっちに寄せちゃうね〜。

と持っていたトートバッグで横に寄せると、ジジジジッと突然ジタバタしながら鳴いた蝉を見て、「あ!やっぱりまだ生きてたんだね!」と4人で驚きながらもテンション上がる上がる。

そんな10秒もしない一連の出来事を見ながら、自転車のおばさんはブツブツ何か言いながら去っていきました。

寄せた後、私のトートバッグにしがみついている蝉を見て、「これ、僕が見つけた蝉なんだよ!」と所有権を主張してくる男の子に、

「おばちゃん、触れないんだけど、ここから取れる?」と聞くと、困った笑顔で答える男の子。と同時に、私も触れないかも、と笑顔のママ。

実は私も虫が苦手なもので、しょうがないな〜、とおっかなビックリで親指と人差し指で掴もうとすると、またもやジジジジッと暴れ出し、すぐそばの植木に飛び移ったので蝉の所有権は守られました。

すると、その男の子はしっかりと私の目を見ながら、
「有難うございました!」というではありませんか!!!

ママから促されるまでもなく、自分からこの歳で言えるなんてなんて立派なもんだ!と感心しながら、「いいえ〜、どういたしまして!」と返す私。

その後、その場を離れてしばらくすると、「ママ、やるじゃん!」と肩をぶつけてくる長女。

ハハハ。と笑いながら、

「だってあの自転車のおばさんの言い方聞いた?ちょっと避ければ通れるのにね。」

と堰を切ったかのように始まった私は、

「あのまま放っておいたら、あの子のママは我が子の蝉への好奇心よりも、あのおばさんに遠慮して、あの子と一緒にあの場から離れたと思うよ。
そしたらあのおばさん、蝉を自転車で引いちゃう可能性もあったでしょ?しかもあの子の目の前でね。ママはね、それだけは絶対にさせたくなかったの!絶対にね!!」

とやや興奮気味に話す私の肩をぽんぽん叩きながら、長女は「うんうん、ママ、よくやったよ。」と褒めてくれました。笑。

夕方は家路を急ぐ人が増えて、時間に余裕がない人もたくさんいる事は重々承知の上。あの自転車のおばさんも家路を急いでいたのかもしれない。
しかし、ちょっと避ければ全然通れる通りだったのにも関わらず、わざわざ降りて物申すとは、恐らく今日嫌なことがあったのか、疲れ切っているのか…。今日だけなのか常日頃なのか分からないけれどアンハッピーだったには違いない…

でも、そんなことは私にはどうでもいいことで、何より優先したかったのはあの子の好奇心で、その好奇心を目の前で失わせてしまうのは絶対に避けたかっのです。

そしてあの瞬間に大事にしたかったのは、自転車のおばさんの小言を聞くことではなく、「やっぱり蝉は生きてたんだ!」と目をキラキラさせている男の子の気持ちの方と、そして、その状況を後ろからまたもや嬉しそうに見ていたもう1組のママと男の子だったのです。

願わくば、時にはなんだか面白い人が世の中にはいて、全く知らない大人でも自分のことに目を向けてくれるんだな。と幼心に思って思えたら嬉しいなと思えた行動でした。


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夏の思い出

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