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果報は寝て待て

働く親の天敵。それは子どもの急な発熱。子どもというものは本当になんの前触れもなく病気になる。特に保育園に入園した当初は、月の半分通えたかな?ってくらいによく風邪をひいていた。

通い始めて半年くらいたったいま、ようやく皆勤賞になってきたと思ったら、またもや風邪。これまで順調に通えていた中での青天の霹靂だ。

「お熱があるんです。迎えに来てください。」

保育園からの呼び出し電話にすぐ向かいますと伝え、今後の仕事の調整。この風邪がいつ治るかなんて誰にも分からないし、いつくらいまでリスケジュールをするかを悩みながら、関係各所への連絡をする。夫に発熱の旨を伝え、私がどうしても仕事を休めない日の予定を調整してもらう。そして、小児科へ受診の予約をしてから車に飛び乗り保育園へ急ぐ。この間、5分くらい。親というのは絶え間なく忙しい。

教室について子供の姿を探すと、きょとんとした顔でこっちを見ている。私の顔を見つけるとニッコリして、手まで振ってくれる。とりあえず元気そうでよかった。先生から園での様子を聞き、そのまま小児科へ向かう。

風邪との診断を受けて処方薬を受け取り、自宅へ戻ると、子どもは大フィーバーしていた。だって、平日の昼間から母と一緒にいられるんだから!風邪をひいているから大人しく寝ててほしいという私の気持ちはつゆ知らず、機関車トーマスのおもちゃをキャッキャとぶん投げている。歩き始めたばかりの子に、今日は風邪だから寝ていようね、なんて通じない。

しょうがないから、一緒にひとしきり遊んだ後、いっしょにお昼寝をしようと声をかける。いまは興奮状態の息子だが、暗い場所に行けば自然と眠くなるよね、そのうち寝てくれるだろうという淡い期待を持って寝室へ向かった。子どもを抱きかかえたままカーテンを閉め、ベッドに腰を下ろす。我が家では、お昼寝のときはいつも遮光カーテンを閉めて真っ暗にした寝室で寝かしつけをしている。

「さあ、ねんねしようね。」





まあ、子育てにおいて大体の期待は裏切られるのが定石だ。ベッドの上でも相変わらずキャッキャと声をあげながら楽しそうに遊ぶ息子。わたしは遮光カーテンの向こうから漏れてくる光をベッドに寝そべってぼーっと眺める。春間近、とっても天気のいい、あたたかな午後のひととき。

頭の中にはいろんなことが浮かんできた。といっても、主に仕事のことだけど。

わたしはそのとき、とあるプロジェクトで煮詰まっていた。いろいろ試行錯誤するけれどうまくいかない。なんとなくの道しるべがようやく見え始め、ガンガン動いていきたい時期でもあった。そんな時に子どもの風邪。誰も悪くないし、しょうがない。仕方ないのはわかるんだけど、なんでわたしはこんな時期に自宅のベッドにいるんだろう。隣にいる我が子はキャッキャと無邪気に遊んでいるし。元気じゃん。やるせない気持ちが湧いてくる。

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寝室の暗闇が、まるで自分の置かれている状況のような気がしてきた。暗がりでもがいてもがいて、ようやく光が見えそうだけれどまだ遠い。はやく明るくてあたたかな場所に行きたい。なのに動けずに縛られている。



すると突然、

部屋が明るくなった。



ひとり悶々と考えていて、気づかなかった。子どもがベッドから降りていることに。わたしが気づいたときには、彼はすでにカーテンを開けていた。

ああ、なるほど。まぶしい光を浴びて、ストンと胸に落ちた。

動く時期じゃないのかもしれない。今までできることはやってきたし、今は待つとき。なんとなくそんな気がした。

わたしの手でカーテンを閉めて作り出していた暗がりは、誰かの手によって開かれるかもしれない。暗闇の中でベッドに寝そべったままのわたしが、子どもの手によって明るい世界へと連れて行かれたように。まさに果報は寝て待て。

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コントロールできないことばかりの子育てだからこそ、ハプニングが生むユニークさは何事にも代えがたい。この日の寝かしつけはうまくいかなかったけれど、子どもはわたしに大きな暗示を与えてくれた。


きっと、いいことは向こうからやってくる。子どもと二人一緒にいられる贅沢さを今は味わおう。眠くもない子をむりやり寝かせるのはやめることにする。

明るくなった寝室で、わたしは我が子のふくふくの頬に顔をうずめた。

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