見出し画像

乙女だった彼女たちからのエール

美少女戦士セーラームーン。それは80年代後半〜90年代前半生まれの多くの女の子たちにとってかけがえのないあこがれの存在。もちろん、90年生まれの私にとっても。

幼い頃、身の回りのものすべてがセーラームーン一色だった。タオル、歯磨きコップ、毛布にパジャマ、寝ても覚めてもセーラームーン。ピンクとゴールドのビビッドなグッズはキラキラ輝いていて、胸をときめかせながら買ってもらっていたのを覚えている。

「だれやる?」「わたし、あみちゃん!」

保育園で幾度となく交わされた会話。その度に私は水野亜美ちゃんになりきって才女を演じた。そしてセーラーマーキュリーに変身し、悪の組織を倒しては世界平和を守っているつもりだった。幼い頃の私は最強のセーラー戦士だった。

小学生になると、セーラームーン以外のあこがれの存在がどんどん増え始めた。SPEEDやモーニング娘。などのアイドルや、GAL’Sの蘭ちゃん・ご近所物語の実果子ちゃんをはじめとする少女漫画のヒロインたちなど。それまでセーラームーンへの憧れ一色で染まっていた世界が極彩色に彩られた。当時の私は最高のティーンエイジャーにあこがれていた。そしていつの間にかセーラー戦士を引退していた。

ついに私たちは本当に最強で最高のティーンとなった。最強の友情と最高の恋愛を謳歌した中高生の頃、当時流行したケータイで作成できるホームページに夢中だった。そこには”ズッ友”や”○○夫妻”などくすぐったいけれども真っ直ぐな言葉たちが並んでいて、リアルでもネットでも朝から晩まで友情や恋を育んだ。私の世界は友達、彼氏、進路でいっぱいいっぱい。セーラームーンが入る余地なんてどこにもなかった。

”最強で最高なウチら”なら、将来どんなことだってできるし、何にでもなれる。未来はきらめいて可能性は無限大だった。






「これ、懐かしくない?」

深夜、大学の研究室で友人のパソコンから流れてきたのは「乙女のポリシー」。セーラームーンRのエンディングテーマだ。

なりたいものになるよね
ガンバルひとがいいよね
涙もたまにあるよね
だけどピッと凛々しく

研究室にいた友人たちと聞きふけった。懐かしさがこみあげてきた。「こんなにいい曲だったんだ。」「初めてちゃんと聞いたかも。」みんなで感想を口にする。ティーンと大人との間で揺れ動いていた大学生時代。まだまだ素直で、歌詞に共感し、がんばればすべて叶うと信じていた。研究は過酷でしんどかったけど、この歌が私たちみんなを応援してくれているようだった。なりたいものになる。がんばって憧れの仕事に就くんだ。仲間と鼓舞しあい研究に励んだ。「乙女のポリシー」は作業用BGMの定番になった。


そして私は大人になった。

驚くべきことに、あんなに夢中だったセーラームーンにまつわるほとんどはもう覚えていない。せいぜい登場人物の名前や変身の呪文(?)、主題歌、そして決め台詞「月に代わっておしおきよ!」。そのくらい。ストーリーはほとんど忘れてしまっている。最終回どうなったかも当然分からない。

そして、この歌のように、頑張れば何でも叶うと信じる素直さも私の中からもう消えてしまった。

しかし、不思議と大人になっても「乙女のポリシー」は変わらずにパワーをくれている。幼い頃浴びるように聞いていたであろう、けれども忘れていたこの歌。この歌を聴くと相変わらず頑張ろうと思えてくる。もうちょっとやってみようと前向きになれる。きっとセーラームーンの主題歌じゃなかったらここまで聞きふけったり、心揺さぶられることはなかったと思う。それくらいセーラームーンはなぜか特別なのだ。私にとってのセーラームーンとは一体、何なのだろう。この前向きな気持ちはいったいどこから湧いてくるのだろう。



どんなピンチの時も絶対あきらめない
そうよそれがカレンな乙女のポリシー

こんな歌い出しの「乙女のポリシー」。この歌はティーンの矜持を歌ったものだと思う。どんなに苦しくても、辛くても、毎日は楽しいものになるはずで、未来は輝いていて、恐れずに前だけ見つめていく。そんな心持ちが歌詞に現れているような気がする。

多分わたしにとってセーラームーンはティーンエイジャーの象徴なのだ。しかも史上最強のティーンエイジャー。幼少期の私にはとっては憧れの存在。そしてティーンになってからは”最高で最強のウチら”と同じ存在だったのかもしれない。その頃の私はセーラームーンすら忘れていたのに、気づかないうちにセーラー戦士の”乙女のポリシー”を胸に秘めていたのだと思う。幼いころからの憧れとともに。


コワイものなんかないよね
ときめく方がいいよね
大きな夢があるよね
だからピッと凛々しく

きっとこれはきらめく未来を追いかけていた、昔の私からの問いかけ。まるで、ティーンだった、乙女だった私から「大人のわたし、それでいいの?大きな夢があったよね?」って言われてるみたい。だから、この歌は大人になった私にももう少し前を向こうと思わせてくれるのだろう。未来がきらめいていた、あの頃のワクワクを思い出させてくれる。

大人になるにつれて、世界が広がり、たくさんのことを知って、自分の小ささ弱さを見つけては縮こまっている私がいる。身の丈や世の中の常識やいろんなものをわきまえて、その中に自分を押し込んで、それこそが自分だと知っている気になってはいないだろうか。

小さくて弱くて。あの頃憧れていた大人には全然なれていないけど、わきまえるには自分を知らなさすぎるかもしれない。だってこの歌を聴いて、私の奥底にいる乙女だった自分を見つけたのだから。

ピッと背筋を伸ばして、乙女だった頃の私に恥じない大人になりたい。


「乙女のポリシー」

それは、セーラー戦士たちから、そして”最高で最強だったウチら”から、大人の私に向けたエールなのだ。





この記事が参加している募集

#最近の学び

182,162件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?