最大でノーリスクの投資があるならば
「もうちょっと何とかならないかなぁ」
スマホのちっさい画面を見ながら,夫がのんきにわたしに言った。
長子の塾で月1回行われている模試の成績は,模試が終わって3日後にはすぐさま,親が登録している塾生ページに反映される。
わたしは,まったくその塾生ページにアクセスしていないので,夫を通して結果を知る。
数か月前まで,塾生ページにアクセスできていたのに,スマホを変えたら,パスワードやIDも吹っ飛び,事務局に問い合わせて解決方法も教えていただいたのに,放置して1ヵ月。
要するに,子どもの成績に関してずぼらだ。
でも,それでいいと思っている。
模試は1か月に1回のペースであるし,週3回の塾の復習テストの結果を毎回,チェックして,教科ごとにファイリングしているので,だいたいの習熟度は把握している。
そもそも,子どもの学業成績なんて,1ヵ月で爆上げなんてない。種を蒔いて,芽が出て,その芽を枯らさないですくすく伸ばすためには,その芽に合わせた「成長の爆伸び期」まで,待たねばならないのだ。
どんなにテクノロジーを発展させても,所詮,人間は動物だ。
成長(進化)の速度は,わたしたち人間の祖先、ホモ・サピエンスが誕生した10〜20万年前からそんなに急激には変わっていないらしいのだ。
だけど,変わらないのは,自分が滅んでも,子孫が生き残れるように,種の保存しか考えていない遺伝子の乗り物というしくみだ。
この遺伝子の乗り物説にみるミトコンドリア至上主義なコンセプトは,進化心理学の基本。けれども,心理学研究の中でも,比較的新しい進化心理学は,心理学研究業界の中でも異端中の異端だ。
学問としての歴史が19世紀からスタートしたゆえに,歴史が比較浅いと揶揄される心理学の中でも,進化心理学はとりわけ最新過ぎる。
3年前の公認心理師国家試験でもブルーシートと呼ばれる、出るかもしれないから勉強しとけ範囲表にエントリーされてるくせに、出題されないアンタッチャブル案件だった。
要は、「ごめん、うっすらとした人気にあやかって勘違いして載せてみちゃった。でも、やめた。てへぺろっ」のような軽いノリにしか思えなかった。
最近では,大ブレイクしてベストセラー入り「スマホ脳」に進化心理学のコンセプトが基底に流れていたことが記憶に新しいかもしれなあい。
そこには,1万個の点が2ページに渡って印字したものを20万年の人類史とし,点1個が1世代,スマホが当たり前の世代に生きる世代も点1個分しかない,と論じられている。
点ポチ1個の進化とは!
非常にざっくりとした概要であるが,「なんだかんだ言って,わてら人間は人類が誕生した20万年前と脳みそが変わっていないのに,スマホいじって退化させてるよね」ってことだ。(ひどすぎる)
進化心理学は,優生学で有名な(いい意味でも悪い意味でも)チャールズ・ダーウィンの進化論(1871年)を発端として,1980年代にひな形が出来たとされる。
そもそも,進化理論は,似た領域の発達心理学研究でも,心理学の中でも基本として取り入れているのだけど,その発達心理学界隈でも,ちょっと異端扱いをされている,非常に危くてホットな領域だ。
進化心理学の名前を出すとき,研究者はちょっと口ごもったり,「これは論文に書くのはおやめなさい」など,明らかな別枠扱いなのだ。
だとしても,ヒトはやはり動物だ。心理学の授業でも,「動物行動学」「比較行動学」として,頻繁にサルとヒトの比較をしたりする。
ジャングルに行ってアカゲザルの集団に入って録音してきた音声を聞き分ける苦行のような授業を今でも,覚えている。先生は「違うんだ。よく聞き分けなさい」と,言うのだけど,わたしには,ぎゃーぎゃー,うるさいだけの声にしか聞こえない。
でも,子どもたちがきょうだい喧嘩をして,超音波のようなぎゃーすか声を発生しても,威嚇なのか,援軍を求めているのか,聞きわけができるのも,苦行のおかげかもしれない。
何度も書くが人間は,どう弁明しようが,高度なテクノロジーを生み出そうが,所詮動物だ。
何度も映画化された「猿の惑星」と同じなのだ。文明を作っては壊し,作っては壊しのスクラップアンドビルド,遅々たる歩みの動物。
けれど,遅々たる歩みでも,確実に進化しているのも事実。
それは,人類という大枠で見てもそうだし,同じ年齢集団の中での比較でもそうで,ぐーっとカメラの望遠レンズの焦点を引いて引いて引いて俯瞰して見れば,進化しているのだ。
ましてや,小学生である。生まれて10年ちょっとの子どもと1万年の人類の歴史を比較したら,あなた,1万分の10じゃないか!何をガタガタいってやがるんだ!
親ばかなわたしは,夫にそう言ってやりたいが,ぐっとこらえた。
「教育の結果は,そんなにすぐに点数として出ない。この1年の子どもの頑張りを評価してあげて欲しい。塾に慣れるだけでいいし,どうやったら,結果が出るかは,子どもにすでに伝えてある。
成績は,自分からやろうと思わないと伸びない。意識次第。
この子は,基礎学力はIQテストでも平均以上だし,能力バランスはいびつかもしれないけれど,弱点をカバーできるように工夫もできる知能がある。
どうしたら,成績があがるか,自分で意識を変えるスイッチが入れば大丈夫。それを待とうよ。親が信頼してあげようよ」
これは,塾の講師や予備校のチューター,家庭教師,大学のTA(ティーチングアシスタント),教育センタースタッフ,大学講師として,教育畑を学生時代から細々ながらも歩んできた実感として,確実に言える。
こんな実験データがある。
同じ学業成績の子ども(しかもちょっと悪い)を集め,親が子どもを信頼して,「この子は絶対に●●大学に入学できる」という根拠のない自信を子育てに持っている親の子どもと「この子は成績も伸びないでダメだろう」と悲観している親の子ども。
果たして,10数年後の大学進学はどうなったか。そうだ,根拠のない自信を持つ親の子どもは大学進学をし,悲観的な親の子どもは大学に進学できなかった。
数年前のベストセラーの「学力の経済学」に出ているエピソードで,教育投資への結果が数値(経済=お金)として証明されている。
教育は,最大の投資なのだ。
「子孫に美田は残さず」なんて,格言があるけれど,美田(田んぼなど有形財産)は残せなくても,教育は自分の子どもへの最大の投資。目に見えない無形の贈り物。
そして,例え,親でなくても,自分が勉強することは,最大にして最高の無償のリターンとなる自己投資だ。
勉強以外にこんな高配当の投資なんてない。
日本人の平均勉強時間は6分だ(平成28年総務省の20万人サンプル調べ)。
しかも,この6分は1日の平均ではなく,週全体で6分らしい。
・生活時間に関する結果の平日及び週全体の総平均時間及び行動者平均時間は各曜日別の平均時間から算出しているため,下記の場合は「-」と表示している。
・月曜日~金曜日までの当該属性標本が全てない場合の「平日」の総平均時間及び行動者平均時間
・平日,土曜日及び日曜日のうち,1つでも総平均時間が「-」で表示される場合,その属性をもった週全体の総平均時間
・月曜日~日曜日までの当該属性標本が全てない場合,週全体の行動者平均時間
だとしたら,たった6分でも,本を読んだり,この長ったらしい(2552文字だ)noteを読んでいるだけで,差がついているってことだ。
自己投資は裏切らない。
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