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ジェンダーを「女性脳・男性脳」で説明しちゃいけない理由(わけ)

こんにちは。ひとケアワークLab.の巽 真理子(たつみ まりこ)です。
今回は、ジェンダーと「女性脳・男性脳」について説明していきます。


「ジェンダー」とは

SDGsの第5目標として注目されている「ジェンダー」。女性活躍やDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を推進する人や企業研修を担当する人は、絶対に知っておかないといけない知識ですね。
「ジェンダー」について、私はこう説明しています。

性別を、「子どもを産むかもしれない身体」をもつ女と、そうではない男の二つに分け、それぞれの性に社会的・文化的な役割や責任を割り当てることによって、つくられる性差

まず妊娠・出産する可能性がある身体(子宮・卵巣がある)かどうかで、性別が男女に分けられてしまう。そして、どちらの性別かによって、本人の希望や能力に関係なく、その社会でどのような責任や役割を割り当てられるかが決まってしまう、というのが「ジェンダー」です。

ジェンダーは歴史的・社会的・政治的に変わっていく

社会の状況が変わるのに合わせて、ジェンダー(女らしさ・男らしさ)の意味づけも変わります。
たとえば第2次世界大戦後の日本では、こんな感じで変わっていきました。

高度経済成長期の頃(1955年~1973年)は、男性は一家の大黒柱となるべく、企業戦士として土日も夜も働くのが一番で、それを支える専業主婦になるのが「女の幸せ」だといわれていました。
この頃は日本の人口が多く、男性だけで労働人口を十分にまかなえていました。そのため、妊娠・出産しない(産休をとらない)男性に働き続けてもらえれば、経済が成長でき、国が潤ったのです。

そして今はワーク・ライフ・バランスが大事だから、男性はイクメンとして子育てすることも期待され、一方で女性活躍の時代だから、女性は子どもが産まれても仕事で活躍して昇進することが期待されています。
それは、日本では少子化がものすごい勢いで進み、労働人口が少なくなっているため、労働者として男性だけでは足りなくなり、女性にも経済界で活躍してほしいという社会からの要請があるからです。

たった70年ほどで、日本でのジェンダーは大きく変わってきました。
このようにジェンダーは、社会に都合よく、歴史的・社会的・政治的に変わっていくのです。

「女性脳・男性脳」は脳科学?

2018年頃から、脳科学とされるジェンダーのトリセツが人気になっています。「女性脳・男性脳」という言葉を使って、「女性は/男性は、脳が~だから〇〇が得意」といった説は、企業研修などにも応用され、「性別による脳の違いを理解して、コミュニケーションを取ることが重要」などのアドバイスがされたりします。

しかし、この「女性脳・男性脳」という説は、脳科学の最新の研究成果を反映していないとして、複数の研究者によって否定されています。

四本裕子 准教授(東京大学大学院 総合文化研究科 )
--こうした「男性脳」「女性脳」という考え方を紹介している本の中には、最新の研究成果を反映していない非科学的なものが少なくありません。
男女の脳の違いを示す根拠として「左右の脳をつなぐ脳梁(のうりょう)の太さに差があり、女性のほうが太い」という研究結果がしばしば引用されますが、これは今から約40年も前の1982年に、男性9人、女性5人という限られた数の解剖データを元に書かれたものです。この見解を否定する研究結果も複数出ており、今も信じている研究者は少ないと思います。

ニューロセクシズムとは何か?「脳の男女差」に潜むわな:日経xwoman (nikkei.com)

そして、脳の働きは男女差よりも個人差の方が大きいことも、おとなになっても脳が変化していくことも、明らかになっています。

だから、ジェンダーを「女性脳・男性脳」で説明しちゃいけない

「女性脳・男性脳」のように「男女の脳は生まれつき違うから、行動や思考が違う」という考え方は、「ニューロセクシズム」といいます。
ニューロセクシズムは、性別を男女の2つだけと決めつけている点でも、生まれついたものが変化しないと考える(本質主義)点でも、矛盾を孕んでいます。そしてニューロセクシズムは、ジェンダーが歴史的・社会的・政治的に変わっていくことも、個人が変化していくことも、否定する考え方です。

性別よりも個別性による差が大きいことは、脳科学だけでなくジェンダー論でも、様々な調査結果から主張されてきました。
社会も個人も、変われる可能性をもっています。
この点を間違えると、女性活躍やDEIを推進するための、ジェンダー視点からの組織改革はできません。

だから、「女性脳・男性脳」でジェンダーを説明しちゃいけないのです。

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 第1回 1月20日
「女性活躍とアンコンシャス・バイアス」
 第2回 2月17日
「働き方とジェンダー(男らしさ)」
 第3回 3月16日
「子育てとジェンダー(女らしさ)」

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