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母との日々

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2022年2月の記事一覧

木曜日は母のコーラス

木曜日は母のコーラス

毎週木曜日は、母がコーラスに出掛ける日である。いつもは、わたしも出勤していて家にいないのだが、1月6日は、年が明けて陽性者が増えてきたこともあって、テレワークに切り替えて二階で仕事をしていた。午後から大雪になると天気予報は告げていて、テレワークにしておいてよかったと思った。

母は、早くから台所で歌を練習する声が聞こえていたが、すぐにやめてしまったので、出かける準備をしているのだと思った。だが、8

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柿は身体を冷やすから…

柿は身体を冷やすから…

11月下旬の寒い朝、朝食に柿が出た。今年初めてではないだろうか、と思った。食べながら母が、「明智光秀は織田信長の家来だよね」という。「徳川家康と戦ったのは誰だっけ?」

「石田三成」とわたし。

「そっちの、みつ、ね」と母。「柿が大好物で、死ぬ前に柿を食べるか聞かれて、身体が冷えるからってことわったんだって。これから死ぬって時に、身体が冷えるからって。今柿を食べたらお腹が冷えてくる気がして思い出し

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野獣(のけもの)死すべし

野獣(のけもの)死すべし

お昼に台所に下りていくと、ボイラー室の屋根でネズミが死んでいる、と母が言う。洗濯物を干しにベランダに出た時に気づいたのだという。行ってみると、たしかにネズミのようにみえたが距離が離れているのではっきりしなかった。

最近は、うちの屋根裏を走るネズミはいないから、だれかが嫌がらせで置いたに違いない、と母はいうのである。みじめなふりをしないから、とか悔しい顔をしないから、とかいろいろいうのだが、終戦直

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母のお伊勢参り

母のお伊勢参り

わたしが、伊勢神宮に行ったときのことを母に聞くと、母は結婚してから伊勢神宮に行ったことはない、と言った。「だから、あんたたちを伊勢神宮に連れて行ったはずはないわね」というのである。

母は、むかし祖父と二人で行ったことはあると言った。それは、戦争が終わったばかりの冬のことだったという。なぜ祖母と三人でなかったのかと聞くと、祖母は当時すでに身体を壊していたから遠出は難しかったということだった。

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