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母との日々

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2021年12月の記事一覧

桜の枝が折れた話(7)トーマス篇1

桜の枝が折れた話(7)トーマス篇1

ちょうど二十年前(2001年)のクリスマスに、家族三人でバーミンガムに行った。息子は五歳になったばかり。御多分にもれず『きかんしゃトーマス』が大好きだったので、本物のトーマスに乗ってサンタさんに会いに行こうというわけなのだった。

といってももちろん、本物のトーマスなんているわけがない。これはイギリスを中心に世界中で行われている「A day out with Thomas(トーマスでお出かけ)」と

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桜の枝が折れた話(6)

桜の枝が折れた話(6)

桜や他の木の枝がばっさり剪定されたことで良いこともあった。日当たりが良くなったのである。8月だというのに、剪定前の庭は一日中薄暗いままであった。それが、午前中から日が差し始め午後一杯それが続く。庭の照り返しで台所はカーテンを閉めないといられないほどだった。犬が死んだときに作った墓の隣に植えたレモンの木が、ずっと数枚の葉しかつけないでいたのが、日が当たり始めたとたんに葉が生い茂り始めた。

だが一方

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桜の枝が折れた話(5)

桜の枝が折れた話(5)

悲劇が起きたのは翌日の昼前のことだった。

朝から再び作業に現れた庭師を見て、わたしが母に「まだやることがあるんだね」と言うと、「そうよ、こっち側(と家に近いほうを示しながら)の折れた枝が残ってるじゃない」と母は答えた。

わたしが、ベランダに出て確認すると、確かにベランダのすぐ近くの部分でかなり昔に折れたと思われる枝が、妙な具合にねじれて枝を伸ばしているのが見えた。庭師は、その周辺を慎重に切って

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