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母との日々

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2021年10月の記事一覧

庭のヤツデ

庭のヤツデ

実家の庭のヤツデは、家が建った時からそこにあり、おばあちゃんが、お隣のエイちゃんを抱っこしてヤツデの前で撮った写真があった、と母は言う。ということは、そのヤツデには90年近い歴史があるということである。庭で一番古い木だという。

お隣のエイちゃん、というのがわからなかったので聞くと、昔お隣には別の一家が住んでおり、二人の子供がいたということだった。その下の子がエイちゃんで、写真は戦前に撮ったものだ

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傷ついた翼(6)

傷ついた翼(6)

秋分の日の直後の土曜日、いつものように妹夫婦が来て昼ご飯を一緒に食べて行った。

妹が勤める病院では、事務長が十五夜のためにダンゴを用意したが、ススキがなかったという話から、ススキが原の話になり、一面の彼岸花もきれいだと妹が言うと、「彼岸花の根をすりおろして土踏まずに塗ると腎臓に良いのよ」と母が言った。

妹が首をかしげると、母はすかさず「おばあちゃんがやっていたの」と答え、ひとしきり昔話に花が咲

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『半分の月がのぼる空』

『半分の月がのぼる空』

伊勢に行ったことは今でもはっきり覚えている。といっても、記憶しているのは、水路のようなところをたくさんの錦鯉が泳いでおり、そこには大きな鳥居があって大勢の人が参道を歩いていた、ということだけである。

お参りをした、という記憶はないが、なにか神聖な場所に来たと思い、その象徴が錦鯉だったような気がする。池ではなく人工的な水路で、それもかなり幅があり、そこに溢れんばかりの錦鯉が泳いでいた。そこには近鉄

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修善寺温泉

修善寺温泉

7月初旬のある日、いつものように昼飯を母と食べていると、突然、修善寺温泉に小学生のころ毎年のように行った話を始めた。どうやら、前日に熱海で起きた土石流のニュースを見ていて思い出したようである。

母の母、つまりわたしの祖母は、戦後すぐに腎盂炎になり、その後毎年のように修善寺温泉に湯治に行った。母は小学生だったので一緒についていき、その間は祖父がひとりで店番をした。もっとも、当時は女中さんもいたので

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