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採用支援してたら組織開発につながり、結果的にリファラル採用が進んだお話

採用活動に追われていると、リファラル採用を実施したいと考える人事担当者様も多いと思います。しかし、リファラル採用は一朝一夕でできるものではありませんね。社員のみなさまの理解や協力を得るための仕組みづくりや、知人を紹介したくなるような会社や人事との関係や職場づくりなど、メンバーと会社との日常の好循環を生む関わりの結果、起きる現象なのではないでしょうか。

今回は、私があるファッション系企業様の採用支援をしていたら、組織開発をすることになり、結果的にリファラル採用が増え、1年間で従業員数が1.5倍に、店舗数が1.6倍に、そして、エージェントに支払う紹介手数料が0円になったというお話を、公開できる範囲でご紹介します。振り返ると、我ながらうまく行き過ぎたのではないかと思えるほどの経験でもあります。

1.ご支援先の状況

当時、従業員30名規模で4店舗展開していた、あるファッション系企業の人事支援を行ない、主に販売スタッフの採用支援をしていました。当初の採用要件としては、ファッション系の販売経験が必須ということでしたが、毎月のように中途入社していただく方をご紹介できていました。しかし、ただでさえ人の出入りが激しい販売業界。その波に乗るかの如く、早期離職が相次ぎました。

採用での人物要件見直しを随時行ないはしましたが、同じことの繰り返し。そういうわけで、「これはそもそも組織に原因があるのではないか」と、タッグを組んでいた先方のマネージャーと社長に提言をし、その原因を調査するべく、全メンバーにヒアリングを行なったことが、事の始まりでした。

2.全社員への面談による現場の状況把握

私は外部の人間でしたが、ほとんどの社員の方に知られていたので、面談を始めやすかったとは思います。それでも、面談の目的をきちんと伝え、信頼関係を築くことには注力しました。「みなさんの現場の状況をより良くするために、会社に報告するしないは別として、ご自身のことも現場のことも問わず、事実や本音を知りたい」ということを、まず、一言目に伝えていました。

そして、店舗メンバーや店長、バックオフィス、社長を含め、全社員への面談をいざ始めると、特に大多数を占める店舗メンバーから、下記のような類の悩みや不満、相談などが多発していました。

・メンバーにより生じるスキルの習熟の差による気おくれや不満
・店舗内での人間関係
・メンバーが足りずシフトがきつい
・どのような仕事を今後していくべきなのか、という将来への不安や希望
・会社制度や福利厚生、評価のされ方がわからない
・三角関係のもつれなど、プライベートなお悩み

などなど、30人いれば30通りの多種多様な話題でした…

3.メンバーの話をマネージャーとディスカッションで分析

このような調査目的の面談では、あげればきりがないほど、個別事象が出てくるものです。それら全てを対処しようとしても、きりがありません。そのため、それぞれの問題の根源をマネージャーとのディスカッションにより分析し、共通項を見出すことにしました。そうすると、多くの問題の根源は、「マネージャーと各メンバーとの関係性の希薄さが起因しているのではないか」という予測をつけることになりました。

4.マネージャーへの行動支援

問題の根源と予測をつけたマネージャーに対し、まずは「2ヶ月に1回は全メンバー面談を行なっていただく」という行動目標を立て、私はその併走支援を行ないました。

メンバーから聴く問題は、しっかり聴き出すと、「お店をもっとよくしたい」「お客様に喜んでもらいたい」「そのために自分は貢献したい」などという前向きな思いが隠れていることが多いです。一見、愚痴のように聞こえても、それを効果的な問いかけにより内省を促し、言語化するような関わりができると、本当の思いを引き出すことができます。愚痴が多いメンバーも、きちんと話を聴き出せば、熱い思いをもっていることも多いのです。

そのため、まずはマネージャーがそのような話を聴き出す機会をつくることができるような行動支援をすることにしました。そして、マネージャーが聴き出したメンバーたちの声を活かし、中途入社者へのオンボーディングやスキル維持やUPを目的とした社員トレーニングの見直しに手を付けました。

5.マネージャーへの1on1トレーニング

マネージャーがメンバーへの面談を行なうにあたり、面談での関わりの見直しを行ないました。特に気をつけていただいたことは、質問内容や伝えることなどをあらかじめ決めてしまうような「単純な構造化を避ける」ことでした。目の前にいるメンバー個人の話に集中して聴く姿勢を示し、隠れた思いを聴き出すことに加え、会社やお店の状況は伝え、その中でメンバー個人に対してマネージャーとして期待していることを伝える。そのために、まず今から何をすれば良いかを一緒に考える。このような面談をしていただけるよう、1on1トレーニングをしました。場合によっては、会社の制度や評価方法などを伝えるということも必要ですので、それも含めてです。

6.「メンバー募集しているよ」ということを率直に伝える

マネージャーには、スタッフ募集をしていることを伝えるようにしていただきました。シフトがタイトなことはメンバー当人たちにも大きな問題でもあったので、それを「一緒に解決するために協力してほしい」「知り合いなどで一緒に仲間になってくれる人がいたらぜひ、紹介してほしい」「何かあったらマネージャーに直接連絡してくれて構わない」ということを伝え、もしメンバーが紹介したい知人がいた場合、その後の様子や結果などをフィードバックするようにしました。

タイトなシフト問題の解消だけではなく、「会社として、ブランドとして、お店として、今後、どのようなビジョンを描いているのか」「その中の一員としてあなたがいて、あなたのような方を仲間としてもっと増やしたい」という思いを、マネージャーからメンバーに伝えていただきました。全社会議の場などでは、社長自らも訴えていただきました。採用に関する取り組みは全社で一丸となって行なうことが大切ですので、社長自身からメンバーと目線を合わせるような発信も効果的です。

7.メンバーの自分事化が進んだ

6のような話を直接されると、「自分は必要とされている」という承認欲求が満たされ、自己肯定感も高まります。徐々にではありますが、メンバーからの知人紹介が発生し、採用まで至るようになりました。また、これまでの採用要件では経験必須にしていましたが、未経験でもカルチャーマッチ具合が高いと戦力化が早いことが証明もされ、お店の雰囲気も良くなることが多かったです。

次第に、複雑な人間関係の問題や上司や部下への不満といった類の話は減少しました。もちろん、前向きな話としてそのような話題が出ることはありましたが、自分事化しているので、ただの愚痴で済ませるのではなく、改善するために自分は相手にどう関われば良いのか、という行動指針を自ら立てるようなコミュニケーションが明らかに増えたのが特徴的でした。

8.結果的にリファラル採用が進み、採用コストが圧縮した

組織課題の解消から入ることで、結果的にリファラル採用が進みました。マネージャーへの1on1トレーニングをしてから1年後に、従業員数は45名(1.5倍)に、店舗数は7店舗(1.6倍)になりました。

また、特徴的だったのは、この1年間で産休・育休を除き、離職者が0人だったことです。そのため、エージェントに頼んでいた人材紹介を止めることができ、紹介料の圧縮にもなりました。その圧縮された紹介料分の予算は、メンバートレーニングや福利厚生など、「今いるメンバーをいかに大切にするか」という観点での投資に使えるようもなりました。

リファラル採用が進むととともに、今いるメンバーへの投資ができ、安易な早期離職が減少したということになります。

9.まとめ

入口は採用支援ではありましたが、これまでの流れを整理すると以下のようになります。

①マネージャーとメンバーとの関わりを見直した
②メンバーの定着率が向上した
③自己肯定感が高まったメンバーに「自分のお店で知人とはたらきたい」と 
 思ってもらうことができた。また、そのためにどうすれば良いかを知るこ
 とができた。
④リファラル採用が進んだ。
⑤採用コストが大幅に圧縮された。
⑥圧縮された採用コストを、今いるメンバーを大切にするための投資に使え
 るようになった。
※②~⑥の繰り返し

企業成長のために、目下の課題となる採用を強化することは大切なことです。私もそう思い、かつては採用支援に注力していました。しかし、せっかく入社いただいても、受け入れ態勢や組織の状況に大きな問題があった場合、早期離職につながってします。手間とコストをかけて採用した方が、すぐに離職してしまう。また採用を強化する。すぐ離職する…この負のスパイラルから脱するためには、組織にある穴をまずはふさぐ必要があります。穴の開いたバケツにいくら水を注いでも水が溜まらないことと同じことです。

採用課題に着手する際、視野を広げ、組織課題にも手をつけることが、企業成長につながる人事戦略になります。人事の中でも役割分担をされる企業は多いと思いますが、各役割の方々が他の領域も見えるようになることが、バケツの穴をふさぐための一歩にもなるでしょう。その役割を担うのが、HRBPと呼ばれる方かもしれませんね。

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