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人生の天国と地獄をみた過去

何十本とあるフィルムのスリーブの束の中から、
ハラリと一枚の写真が舞い落ちた。

20年前、当時の俺は学生だった。
無責任を絵に描いたような生活だった。
そんな俺はある日、遊び感覚でエントリーしたパンツ一丁武道会、
通称パンイチ武道会で優勝してしまった。
その優勝した金で毎夜毎夜、飲み屋街に繰り出し、
酒を浴びるように飲み、好きなだけ女を抱いた。
シャブの代わりに、メリケン粉を吸った。
マジックマッシュルームの代わりに大量の「キノコの山」を口にした。
亀仙人を鶴仙人と呼び捨てた。
手に入らないものはないと思っていた。
愛だって買えると思っていた。

が、すぐ金は底をつき、消費者金融をはしごする生活に変わった。
無論そんな生活は長く続くわけもなく
借金まみれになり次第に女たちは去っていった。

「キノコの山」も買えなくなった。
「タケノコの里」には興味がなかった。
すべてを失った。

夜な夜な逃げた。
あらゆるモノから逃げた。

すべての連絡を絶ちアパートの自室にこもり、
電気もつかない暗い部屋で毛布にくるまり、
見えないモノに怯え、子犬のようにプルプルと震えていた。
ドーナッツ食って死にてーとも思った。
「プレスリーか」と自嘲した。

目が暗闇に慣れてきた。
何かが転がっている。

ふと手を伸ばすと、硬い物質が指先に触れた。
「なんだろう?」
よく見ると、それは「きのこの山」の持つところだ。
無意識にそれを口にいれた。

「カリッ」

ま、まだいける!

その刹那、僕の中のスイッチが入った。

外に出て冬の澄んだ空気をすって、白い息を吐き出した。
生きている実感が湧いた。
白い息とともに自暴自棄の自分も吐き出た気がした。
臥して死を待つよりも討って出て活路を見いだすべきだと、
心に火がともったそんな思い出。

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