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「No.28」「夏の星空」ティントレット《天の川の起源》

こんにちは!かずさです!

今日は7月7日「七夕」ですね。(旧暦では8月になりますが)

皆さんは何かお願いごとをしましたか?東アジアの天の川の物語に登場する織姫は、機織女から来ていて昔は機織りや刺繍などの上達を願っていたようですね。さしずめ、「学芸上達」といったところでしょうか。

今日は、そんな「七夕」にあった作品を紹介します!

作品紹介

今回の作品は、ティントレットの《天の川の起源》です。

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1575-1580頃 油彩、キャンバス 149.4cm ×168cm  ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵(イギリス)

画面中央に結婚の女神ヘラと幼児のヘラクレスにヘラの母乳を飲ませようとするゼウスがいます。そして、その周りに4人のプットーが描かれています。

ギリシャ神話の中での「天の川」は、ヘラの母乳が空にまき散らされたものとなっています。ゼウスとペルセウスの孫であるアルクメネの息子ヘラクレスの怪力を象徴するエピソードです。

物語にはいくつかのバージョンがあるようですが、概ね「ヘラの不死の力をヘラクレスに与える為に母乳を飲ませようとしたところ、あまりにもヘラクレスが強く引っ張るため母乳がこぼれて、空にまき散らされた。」という感じです。

(戦いの女神アテナがヘラクレスをヘラの下へ連れて行ったり、神々の伝令係であるヘルメスが連れて行ったりといくつかあるようです。)でもここでは、ヘラクレスを抱えているのはゼウスです。ティントレットは「ゼウスが飲ませた」と書かれている10世紀に変遷された『ゲオポニカ』という本を参考にしたとされています。でも浮気相手の子に正妻の母乳を飲ませるとか、なかなか勇気がありますよね笑

物語上、中央の女性がヘラであることは分かりますが、絵の中にもヘラであることを示すもの(アトリビュート)が描かれています。

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画面右下に2羽のクジャクがいますが、これがヘラのアトリビュートです。これと同様に、ゼウスのアトリビュートもしっかり描かれています。ゼウスの胸のあたりにいる人形のようなものとそれを掴んでいるワシです。

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この人形のようなものは「ケラウノス」といい、キュクロプスの作ったゼウスの雷霆です。またワシは、水瓶座の由来となった美少年ガニュメデスを天上へ連れさったときにゼウスが変身していたものです。

また登場人物についてだけでなく、テーマである天の川も場面設定に合わせて描かれています。

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ヘラからこぼれた母乳は周囲に飛び散り、その先で星へと変化していきます。星自体が描かれているのはこの部分だけですが、ヘラのベッドの上にあるオレンジ色のカーテンに真珠が縫い付けてあって、さながら天の川の星のようです。

さらに、ベッドが置かれている(本来なら寝室でありそうな)場所は、壁もその他の調度品も置かれていません。空の中で全てが浮かんでいるようであり、天の川を想起させる背景となっています。

ティントレット

この作品を描いたティントレットは、ヴェネツィアで生まれたマニエリスムの画家です。前の世代のヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノから強く影響を受けていました。

(前回ティツィアーノ作品を取り上げたので、是非ご覧ください。)

「マニエリスム」という言葉はイタリア語の「マニエラ(様式)」に由来しています。これは元々はあまり良い意味で使われておらず、マニエリスムの画家はルネサンスの画家ミケランジェロの手法を「型」として反復した模倣者と見做されていました。

マニエリスムが見直されるのは20世紀になってからです。今でも色々な解釈があると思いますが、現在では概ね盛期ルネサンスの「自然的調和」を抜けて、洗練さや技巧を追求したものとされています。この様式の主な特徴として、極端なポージング、冷たく鮮やかな色調、非合理的な空間表現が挙げられます。

さてティントレットはティツィアーノの死後には、同じくヴェネツィア派の画家であるヴェロネーゼと共にヴェネツィアを代表する画家として活躍しました。ティントレットがどのような注文を主に受けていたかというと、教会や総督府を飾る作品でこれらは公共性が高い作品とも言えるものでした。

16世紀当時、ヨーロッパでは宗教改革が起き、プロテスタント側では「偶像崇拝」を促すものとして宗教画があまり良く思われませんでした。これに対し、カトリック側では「対抗宗教改革」の1つとして、「分かりやすく、感情に訴える美術」を必要としていました。

今回の作品《天の川の起源》もそうですが、物語の場面を分かりやすく・劇的に表現した作品が多く制作されるようになります。

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ティントレット《マナの収集》1577年 油彩画・キャンバス H550cm×W520cm サン・ロッコ同信会館(イタリア・ヴェネツィア)

この作品は、旧約聖書『出エジプト記』の「マナの収集」を描いたもので、サン・ロッコ同信会館の天井画としてあるものだそうです。マナとは、この作品の中では光る白い粒ですが、神がユダヤの民のために降らせたパンのようなものです。(甘いと翻訳本では書かれています。)空から落ちてくるマナを集めようとする人々の様子は迫り来るようで、(天井にあることもあって)マナは本当に降り注いでくるように見えるでしょう。

同じ主題でも17世紀のニコラ・プッサンの作品は大分違います。

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二コラ・プッサン《マナの収集》1637 -1639 油彩画 H149cm ×W200cm ルーヴル美術館蔵(フランス)

迫り来るような感じは無く、どちらかというと「舞台の上で展開する劇」のように引いてみることが出来ます。このような比較からもティントレットの「迫力」のある表現が意図的にされたものであるということが分かると思います。


今回は、天の川にちなんだ作品を選んでみましたがいかがでしたでしょうか?ティントレットの《天の川の起源》の迫力もさることながら、ギリシャ神話の天の川のエピソードも東アジアのものとは違って迫力があるダイナミックなお話ですよね。

今日をきっかけにさらに他の地域の天の川の起源を探してみるのも面白いかもしれません!

次回はまたヨーロッパのアートを紹介します(o^―^o)

画像は全てパブリック・ドメインのものを使用しています。

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今回参考にした本、おすすめの本を紹介します!ぜひ、おうち時間に読んでみてください!






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