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差添い(さしぞい)

 佐渡の海と書いてサトミ、妻の名だ。
「母さんを佐渡に連れていきたかった」
 去年の今頃、彼女はそう言っていた。
「いつも佐渡おけさ歌ってるもんな」
「いい所らしいのよ。毎晩太鼓に合わせて踊ったんだって」

 サトミの叶えたかったことを代わりにしようと思った。横には認知症の義母がいる。
「謄本ではこの辺りですよ」
「…」
 無理な計画だとはわかっていた。自己満足のための旅だ。

 宗太夫項坑に来た。蝋人形が金の採掘作業を再現している。
「義父さんもここで働いていたんですよね」
「江戸時代の人じゃないわよ」
 確かに、この坑道跡は江戸時代のものだ。明治から平成元年まで使用されていた坑道は別にある。時々クリアになるので難しい。

 尖閣湾に来た。この絶景を観れば何か思い出すかもと思ったがやはり無反応。いいさ、サトミ、やるだけやったよ。

 車を走らせていると、突然義母が叫んだ。
「止めて」
 夫婦岩だ。
「お前のオッパイに似てるって言ったの」