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記念ではない思い出【野口里佳】


〈不思議な力〉というタイトルで東京都写真美術館にて個展を開催している。
父親が撮った日常の母の姿や娘のふとした表情が捉えられていて決めポーズなんてしない。
彼女もまた虫やら魚やら独特な切り取り方をしているけど生活や眼差しが懐かしい雰囲気に溢れている。


写真は苦手だ。
ありありと現実を写す上に画面の全ての力が強いから絵画よりも注意を引くくせに、なにをなにをみればいいかよくわからない。
良い悪いの判断も、好き嫌いの判断も、誰が撮ったの判別もつかない。
たぶんそういう人は多いと思う。

彼女の写真はなんとなくだけど、鑑賞者に判断を迫らない気がする。
良いとか悪いとか、好きとか嫌いとかではなくて、ただ懐かしさと暖かさをふくんでいる。
懐かしさという気持ちは美しい、と誰かが言っていたなということを思い出す。
懐かしい感情を喚起させる作品は美しいのだと。

1番写りたい顔はばっちり構えた記念顔だけど、1番見て嬉しいのは日常のいつもの顔、間抜けな顔だったりする。

いつものあなたに会える写真が1番好きと言っているようだ。

作家紹介
■野口里佳
埼玉県うまれ、那覇市在住。

※東京都写真美術館〈不思議な力〉は2023年1月22日まで開催。

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