神様が連れて行った子~映画『汚れなき悪戯』より~
父の映画好きが高じて、子どもの頃、繰り返し見た映画の1つがスペインの映画『Marcelino, Pan y Vino』。
邦画タイトルは『汚れなき悪戯』。直訳すると『マルセリーノ パンと葡萄酒』。
スペイン語は習ったこともなく、まるで分からないが、ストーリが分かりやすく、子どもが主人公なので、飽かずに何度も見た記憶がある。
この話は、ある修道士さんが、病気の少女を見舞う所から始まる。その日は聖マルセリーノ祭。そのお祭りの由来を語り始める。
この映画の主人公、マルセルーノ少年は、赤ん坊の時、修道院の前に捨てられていた。
その修道院には12名の修道士がいた。
困ったことに、この子の両親は亡くなっていることが判明。
里親を探し回るが、納得のいく良い家庭が見つからず、修道院で育てることになる。
12人の『お父さんたち』に可愛がられ、やがて5歳になったマルセリーノ少年。
けれど1つだけ、禁じられたことがあった。
この修道院には、2Fに上がる階段がある。「そこには行ってはいけないよ。怖い人がいて、連れて行かれるよ。」と。
禁じられると、余計気になるマルセリーノ。
ある日、修道士さんの目を盗んで2Fの部屋に行く。
そこで見たものは、磔にされたキリスト像。
『修道士さんの言ったことは本当だった。』と納得するが、その像が痩せていたことが気にかかる。
ある日、街でお祭りがあり、修道士さんに連れて行かれたマルセリーノ。
そこで、店頭に並んでいる美味しそうな果物を見つけ、思わず手に取るが、ドロボー呼ばわりされ、お祭りが台無しになるほどの大騒ぎになってしまう。
「お宅では、一体どんな教育をしているんだ?」と普段から修道院に良い感情を持っていない市長から責められ、修道士たちは修道院を追われる事態になる。
事情が呑み込めない子どものマルセリーノ。
いつも通り、気さくに修道士さんたちに声をかけるが、皆怒っていて相手にしてくれない。
すっかり寂しくなったマルセリーノは、キリスト像に会いに行くようになる。
台所からこっそり手に入れた、パンと葡萄酒を持って。
真っ黒な爪をした手で、キリストにパンを渡す。
すると不思議なことに、キリスト像の手が動き、パンを受け取る。
すっかりキリストと仲良くなったマルセリーノは、新しい話し相手として、度々2Fの部屋を訪ねるようになる。
たいていは食べ物を持って。雷雨の晩にはこっそり毛布を持って。
マルセリーノの異変に気付いた修道士が、2Fの部屋に行こうとすると、原因不明の頭痛に襲われ、近づけない。
ある日、キリストがマルセリーノに尋ねる。
「今まで本当に良い子だったね。何か願い事を叶えてあげよう。何でも言ってごらん。」
この質問に対するマルセリーノの回答。
「お母さんに会いたい。」
「今すぐにか?」
「すぐに会いたい。あなたのお母さんにも。」
キリストはマルセリーノを引き寄せると、そのまま眠らせ連れて行ってしまう。
音楽がかかり、キリスト像の足元で、幸せそうな笑みを浮かべて眠っているマルセリーノ。天国でお母さんに会えたかな?
この奇跡的な物語から、修道院は救済され、聖マルセリーノ祭が誕生した。
少女に話を終えた修道士が、修道院に戻り、キリスト像と、マルセリーノのお墓に祈りを捧げているところで映画は終わる。
この映画が作成されたのは1955年。
当時、スペインでは子供を捨てる親が多かったそうだ。
映画の中で、12人の修道士さんたちが、5年間一生懸命育てたにも関わらず、最後にマルセリーノは、一度も会ったことのない、たった1人の母親に会いたいと言う。
『それだけ母親って、子どもにとって偉大な存在なのだから、どうか子どもを簡単に捨てたりしないで。』というメッセージを込めて、主に若い女性に向けて作成された映画だったと、最近になって知った。
まさに今の日本に通じる映画と言っても過言ではない、思い出の作品だ。
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