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沙々杯選者の一人、亀山こうきの特選6句の発表(亀山賞)

 投句数523という、前回大会白杯を超える規模の俳句大会になった沙々杯。ご参加いただきありがとうございました!俳人としてとても楽しい大会になりました。

 ご投句いただいた句の中から、僭越ながら、小生が気になった句を6句紹介させていただきます。本当はすべての句についてコメントしたいのですが、至らぬ小生をお許しください。

 それでは早速、

・亀山賞(特賞)


鍋焼の蓋より軽き余命かな

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作者 菊池洋勝 さん

 正直なことを言うとこの句を特賞にしていいのか、かなり迷いました。というのもこの句の作者がだれか、選句の段階で判ってしまったからです。勿論選句にあたっては、運営の方々がまとめてくださった無記名の投句リストを用いました。しかしこの句だけは一目見て、「作者は句友、菊池洋勝氏に相違あるまい」と確信が持てました。

 言葉は作者の分身です。優れた言葉は、作者の内面を正確に外部に漏らすのみです。古今東西問わず、鑑賞され続けている文学はこの理に例外はなしと信じています。

 小生は洋勝氏に直接お会いしたことはありません。文字ベースで完結するオンライン句会で毎月一回、他の参加者の皆さんと遊んでいる仲です。

 それでも小生は「たった17音の文学」から洋勝氏の人柄を感じています。523もの句の中から、彼が紡ぎあげた「たった17音の文学」を感じることができました。これが俳句の感動だと小生は思っています。

 鍋焼きの蓋を開けてみてください。煮える美味しそうなうどんの湯気が立ち上り、寒い冬の中で熱と、喜びに似た匂いとを感じます。誰にしたって幸せな瞬間です。そんな中で手に持つ鍋の蓋に「余命」を思う。しかもその余命は蓋よりも軽い。この句には生きる喜びと、いつか終わる悲しみとが同居しています。諸行無常があります。飾り気のない言葉の中に、人生のおかしみ、温かみがあります。

 小生は虚構や建前だらけの世の中だからこそ、嘘偽りのない本物の言葉を愛します。そして傷ついても、悲しくても、空しくても、前を向き続ける人を愛します。小生の主義において、この句を特賞に据えないことは自分を裏切ることだと思いました。素晴らしい句をありがとうございました。

・亀山賞次席(2位)


叫べないムンクのような柳葉魚焼く

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作者 なごみ@ドラ さん

 この句も正直次席にしていいのか悩みました。それは作者がなごみさんであると選句を終えて作者を調べているときに知ったからです。

 作者のなごみさんは小生のサークル「ランタン句会」で一緒に俳句の勉強をしている仲です。特賞の菊池洋勝氏と併せて、1位2位が小生の身近な人でいいのか?忖度していると思われないかと、小心者の小生は躊躇してしましました。しかしそれはやはり不純な思いでした。良いものは良い。好きな句は好きとだと叫びたい。

 この句は俗に「一句一章」や「一物仕立て」と呼ばれる表現法で作られています。上五から下五まで、一つの対象を一気に詠み流す作り方です。実はこの技法はとても難しいのです。一歩間違えると理屈っぽい、説明くさい句になってしまうからです。そのため「一句一章」や「一物仕立て」を使う時は、作者の感性のオリジナリティが重要になってきます。

 ムンク作の絵画『叫び』。誰しもが一度は目にしたことがあるであろうあの強烈な名画。柳葉魚(ししゃも)の顔は確かにあの名画の、叫んでいる人物に似ています。面白い発見です。しかし「叫べない」と表現したことにまた面白みがあります。叫べないムンクってどんな顔よと、噴き出してしましました。17音で色々思いを巡らせて楽しめたこと。とてもよかったです。

・3位


素子の街電子制御の雪が降る

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作者 片二重 さん

 時は199X年とは『北斗の拳』の冒頭の言葉ですが、この句は、時は299X年の未来の世界といった感じでしょうか。

 物語の始まりそうな雰囲気があります。素子で作られた未来の街の中。もしかしたら地下、あるいは他の惑星や宇宙船の中に作られた街なのかもしれません。

 そこには四季はなく、朝も夜もありません。しかし人間は時の実感を求めます。喜びの春を。焼付く様な夏を。美しき秋を。そして静かな冬を。電子制御された雪が降るそこは、きっと紛れのない冬として、その時代の人たちには愛されることでしょう。SFチックな素敵な句です。

・4位


吾・地球・宇宙の脱皮玉の春

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作者 晴田そわか さん

 『ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲』という佐佐木信綱の短歌を思い出しました。信綱の短歌は大きなものから小さなものへ、だんだんとピントが合っていく心地よさがあります。そわかさんの句はその逆で、小さなものから大きなものへと拡大されていくフレームワークの巧みさがあります。

 そして大いなるものへ脱皮するという修辞が見事に決まり、玉の春、つまり初春という季語が宇宙まで広がった世界観を支えます。スケールの大きな大胆な句でした。

・5位


寒暁に淹れて飲み干すミルクティー

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作者 Minmin さん

 何気ない句です。寒暁にミルクティーを淹れて飲み干した。ただそのことのみしか表現しません。外山滋比古は俳句のことを「省略の文学」と表現しました。核心は隠して、空白から思いを漂わせる。

 それが俳句です。寒暁という舞台で、作者は何を思いミルクティーを飲み干したのか。想像が広がっていきます。ミルクティーと寒暁の取り合わせもとても美しいです。

・6位


マフラーの色で識別あれは敵

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作者 つる・るるる さん

 面白いです。「あれは敵」という落としどころも見事です。大人しい控えめな女性がいます。恋する人がいて、そしてなかなか思いを告げられない。
そんな中真っ赤でド派手なマフラーをした女性が彼に近寄っていく。そんな物語が思い浮かびました。

 ちなみにライオンズファンの私は「ライオンズブルー」のマフラーを見ると仲間だと思います(笑)



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