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《写真の保存修復を考えてみた vol.2 》~写真の種類と特徴~ by タケウチリョウコ

初夏になり、すっかり暑くなってきました。
新型コロナウィルスのニュースも一時期より落ち着き、平常の日々に戻ったように錯覚してしまいます。

こんにちは。タケウチリョウコです。
4週に一度の担当シリーズ《写真の保存修復を考えてみた》、第2回目は「写真の種類と特徴」と題して、写真の保存修復に深く関係する写真の技法と劣化について探っていこうと思います。

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写真の保存修復は、まず写真そのものを理解することから始まると思っています。
いつ?どこで?誰が?なんのために?どのように?を知る事で、写真の取り扱いや修復処置をするか否かを判断する助けになります。
しかし全てを理解することは容易なことではありません。
写真はその作者によって"なんのために?"が伏せられている場合もあります。
また"どのように?"にあたる技法は、秘密のレシピがあったりするのです。
そのため、まずは写真の代表的な技法(特に日本にフォーカスをあてて)と、どのような劣化があるのか?を見ていきたいと思います。
(注:写真技法について、様々な見解や研究内容があります。ここではweb上で公開されている公的機関の情報を参考にします)


◾️ダゲレオタイプ Daguerreotype (1830年代末~1860年代前半)

ルイ・ジャック・マンデ・ダゲール(仏)が1839年に公表した世界最初の実用的な写真術。 銀メッキをした銅板にヨウ素の蒸気をあてて光に感じるようにして撮影します。現像は水銀の蒸気で行います。日本では「銀板写真」と称していました。大変シャープな画像ですが、 一回の撮影で1点しか作ることはできません。
*東京都写真美術館『写真の技法解説』引用

島津斉彬像の銀板写真が有名です。重要文化財に指定されています。
*参考資料:鹿児島県HP「銀盤写真(島津斉彬) 一枚」

技法説明はGeorge Eastman Museumが公開しているYouTubeチャンネルを。

【主な劣化】
・変色:画像が曇って見えたり、黄色、茶色、青など、大抵は画像の周辺中央にかけて同心円上になって現れる。

・緑青:支持体である銀メッキされた銅板の劣化。緑色の析出物が現れる。
・カビ:カビが画像に付着し、画像の欠損を引き起こす。
・カバーガラスの劣化:画像を保護するケースの一部のガラスの劣化。ガラスに液状の析出物が現れる。
*参考資料:『ダゲレオタイプハウジングの修復 ー東京都写真美術館コレクションより』


◾️アンブロタイプ Ambrotype (1850年代初期~1880年代初期)

フレデリック・スコット・アーチャー(英)が1851年に発明した、ガラス板に感光乳剤を引き、それが乾かない内に撮影・現像をする湿式コロディオン方式による写真術。通常はネガを作るための方式ですが、ガラス板ネガをそのままポジとして見るのがアンブロタイプです。この方式によるネガ像は光のあたったところが灰白色になるので、ガラス板の下に黒い布などを敷くとポジ像として見えてきます。
*東京都写真美術館『写真の技法解説』引用

コロジオン湿板法(wet collodion process)の一種。日本では湿板写真とも言われています。

技法説明はGeorge Eastman Museumが公開しているYouTubeチャンネルを。コロジオンを利用した技法であるtintypeなども後半に紹介されています。

【主な劣化】
・変色:画像表面にニスを塗っていない場合、酸化して画像の色調が変わる。ニスの変色もある。
・剥離や欠損:画像の表面に塗られたニスの影響や画像層のコロジオンが、経年変化により亀裂が生じる。
・物理的な損傷:支持体がガラスであるため、物理的な衝撃で破損する。
*参考資料:『University of Glasgow Archive Services The Robertson Family Ambrotype Photographs』


今回2種類の技法に注目をしました。

それぞれの技法解説の参考資料がweb上でも見られます。
『19th Century Photograph Preservation A Study of Daguerreotype and Collodion Processes』, Jill K. Flowers , 2009 

『Photographs of the Past: Process and Preservation』Bertrand Lavédrine, 2009
*(日本語版が2017年6月30日に発行されました『写真技法と保存の知識 デジタル以前の写真―その誕生からカラーフィルムまで』)


もしダゲレオタイプを修復したいと思っても、劣化部分を除去するなど直接的な修復は行いません。MoMALee Ann DaffnerがYouTubeの中で説明をしていたように、「画像は繊細で化学的反応で描かれたもので、劣化を止めることはできない。化学的な処置をすることはせず、ハウジング(ダゲレオタイプを納めているケース)を整える事で劣化の速度を抑えた処置をする」と説明しています。
そしてアンブロタイプも同様です。


19世紀初期の写真技法は薬品の処方や制作方法が明確にわかっている訳ではありません。
その為、積極的な修復は行わない事が原則です。しかし"劣化の速度を抑える""保存環境を整える"と言った保存に力を入れて写真を守っていく方針がとられます。

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次回も「写真の種類と特徴」の続きです。【塩化銀紙と鶏卵紙】編です。

主に日本で普及した写真そして個人的な好みを書き連ねておりますが、もし”この技法も知りたい!”というものがあれば是非教えてください。
また写真の技法については弊社「K」の記事「むかし試した古典技法の話」も合わせて参照されて見てください!

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補足として!

弊社名の由来ともなっている写真技法のカロタイプについて、George Eastman House の技法解説画像があります。こちらもどうぞ!
(4分頃にCalotypeの説明があります。その前にPhotographic Drawing やSalted Paper Print←[次回記事にも関係します]も必見です!)


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