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わたしのコーヒー時間。タイムトリップとドリップコーヒーとフレッシュレモンスカッシュと。

下町に住んでいると区画整理は日常だ。

大きなマンションがニョキっと建って、大変お世話になった蕎麦屋がなくなってしまった。

息子がラーメンに目覚めるきっかけとなったラーメン屋さんも閉店の兆し。

私はあの喫茶店がなくなってしまわないかとても気にしている。ちょうど、整理エリアにあるからだ。

雑居ビルの中にぽつんと佇むその喫茶店は、入るとまるで小説のなかに迷い込んだよう。メニューは、多彩なドリンク類とパスタやサンドイッチといった軽食にオリジナルのデザート。ずっと変わらない。

窓辺の一輪挿し、壁面や大テーブルに並ぶ小説と画集、ポップでレトロなポスター。やや薄暗い照明、ジェントルマンなマスターにパリッとした青いエプロンのお姉さん。お客さんはおじいちゃんおばあちゃんから、勤務中の休憩の人、若者に就活生と、幅広い。

モーニングも、ランチも、お茶もできる。
入口は狭くて暖かい日はいつも扉が開いている。
土日も営業している。
入ると洞窟の中のように閉じた空間のようでいて誰でもいつでも受け入れてくれる。
誰もが、背伸びも遠慮もしなくていい。

一度だけ、このお店はテレビ番組に出た。
その後店の雰囲気が変わるのではと心配したけれど、拍子抜けするくらい何も変わらなかった。時間という概念がなくなっちゃうくらいいつも変わらない。

このお店には長く続いてほしい。
移転して小綺麗に変わってもいいから続いてほしい。

私のお気に入りは、ドリップコーヒーにふかふかのトースト。バナナがおまけについてくる。
妊娠中はレモンスカッシュにしていた。
注文すると絞ってくれる。

子どもができてからふらっと気軽には行けなくなったけど、有給休暇の日のお茶や、余裕がある日は在宅勤務のランチに行くこともあった。

ひっそりした店構え。
変わらぬ風景がそこにある。
それがどれだけ落ち着くことか。

コーヒー片手に一息つくお兄さん、ピラフでエナジーチャージするサラリーマン、ケーキと紅茶で話に花を咲かせるマダムたち、アイスコーヒーをちびちび飲みながら手帳に何かを書き入れるおじいちゃん。

みんなそれぞれのヒストリーがある。
物語がある。

お互いに言葉は交わさないけど、この店を愛する人たちが大勢いる。

今日もまたコーヒーの香り漂うあの店に。
きっと誰かが癒やされている。

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