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昭和初期 苛酷な運命に翻弄された母と子の物語

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今のように障害を持って生まれた子供を大切に育てる環境は無かった時代 されど今も昔も母は子を思う気持ちは変わらない 究極の母子愛とは
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#シロクマ文芸部 爽やかな…ではない話

#シロクマ文芸部 爽やかな…ではない話

爽やかな、
だけれど 爽やかではない話

私は 爽、という字は 男が大地に立ち両手を広げ爽やかな風を受けていることかな(八村塁のビールのCMみたいな)とイメージしていた。しかしあの四つのバツ(××××)は風ではないのではと思い 漢字の成り立ちを調べてみた。
調べてみるもんだ その晴れやかで清々しいイメージとは真逆のことが書かれていた。
爽に含まれるバツ印は入れ墨
死体に彫る入れ墨のことだった。

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母子草 第一章

母子草 第一章

母は子を子は母を思いあう
究極の愛のかたち
第一章 土竜の家

 私は暗がりの中 人家の灯りを頼り
に着物がはだけるのも構わず 死に物狂いで走った。そのまま玄関に倒れ込み 声を限りに叫んだ
「お父様 お母様 高志とはぐれてしまいました どこを探しても暗くて見当もつきません どうか今すぐ探しに行って下さい」
私は泣きながら 母の胸元へすがりついた。母は私の背中を撫でながら
「落ち着きなされ 高志はす

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母子草 第二章

母子草 第二章

母は子を子は母を思いあい

究極の愛とは

第二章 雪割草

高志が亡くなって 早や七年がたった。
相変わらず私と母は 土竜の巣穴にもぐったまま 暗く日の入らない奥座敷で 息を殺すように暮らしていた。母は
全く店から離れ その代わりに 垢抜けなかった娘イネが 行儀見習いも終わり家の中を取り仕切るようになっていた。大らかな性格からか客に慕われてもいた。
私は 数日後に女学校の卒業を控えていた。あえて

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母子草 第三章

母子草 第三章

早春賦

明け方 駅に着いた 街は既に動き出していた 朝日が目に痛い 私は伏し目がちに 家へと急いだ。店は開店準備に忙しくしていた。イネが私を目敏く見つけ 私を母の寝所に案内した。寝屋は昔のままで 薄暗く湿り気を帯びたままであった。
襖を開け中をうかがうと 母は深とした部屋の中で 細い息をしていた。
気配に気が付いたのか 私に目をやり一瞬目に光がさしたように見えた。
蝋人形のような血の気を失った手

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