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【天才絵師】 長沢芦雪に会いに。(後編)

前回、大阪中之島美術館で開催されている「天才絵師 長沢芦雪」の展示会に行ってきた話を書いた。今回はその後編を書き残そうと思う。少し長いですが、お付き合いくださいませ。

(前編はこちらに書いております。興味があれば是非ご一読を!)

大阪中之島美術館「奇想の絵師 長沢芦雪展」エレベーターからの一幕

長沢芦雪が描き残した絵の中で、その構図サイズが大きいものが「虎図襖」と「龍図襖」の2作品である。

実際の展示会場では、ブースがわかれており、移動したその先にどどんと、この2作品が観客を出迎える演出である。

はじめてこの龍と虎の絵を見たとき、体中に鳥肌が立った。
とにかく迫力が半端ない。今にも絵の中から出てきそうな雰囲気。
これは生きているといっても過言ではない。

この2作品は、和歌山県にある無量寺というお寺が所有している作品。
襖絵として芦雪が描き残した。

紀州 串本「無量寺」

展示会では虎と龍は並んで飾られているが、実際に無量寺で飾られている時は虎と龍は向かい合って飾られており、まるで虎と龍が互いをにらみ合っているかのような構図だそう。

この2作品を芦雪が無量寺で描き残した経緯は、以下の通り。
当時、無量寺の住職をしていた愚海和尚と芦雪の師匠である円山応挙は、京の都で交流があり友人であった。二人は若かりし頃、ある約束をする。
応挙が「いつか一人前の立派な絵師になった暁には、あなたに絵を贈りたい。」と。その約束を数十年の時を経て、応挙は果たすことになる。

応挙は12の絵を描く。しかし、応挙は遠路はるばる和歌山に行くには老体には大変だと、代わりに愛弟子(高弟)である芦雪を向かわせて絵を届けることにした。これが芦雪と無量寺の縁のゆかり。

無量寺の和尚と応挙・芦雪の物語|串本町 (town.kushimoto.wakayama.jp)

絵を届けてから、芦雪はしばらく無量寺に滞在することになる。
ここは紀州の国。温暖な気候と自然豊かなこの場所で、芦雪はのびのびと自分の才能を発揮するが如く、絵を精力的に描き残す。
その代表とも言える絵が、この「虎図襖」と「龍図襖」の2作品なのだ。

無量寺所蔵「虎図襖」、「龍図襖」

まずは、「龍図襖」から。
これは雲龍とも言えそうな立派な龍であり、雷鳴を轟かせながら黒雲をかき分けて「何事か。我はここにいるぞ」と低く太い声で語りかけてきそうな程の迫力を感じた。一瞬で全身に風を受けたかのように鳥肌が立つ。しばらく、私はこの場所から離れられなくなった。

そして、次はその横にいる「虎図襖」に映る。
ひらりと身をこなし、飛び移ってきてこちらをじっと睨みつけるかの様子。
じっと見つめ合うことしばらく。迫力があるのは確かだが、どことなくこの虎には愛嬌を感じてしまう自分がいた。

「いかん、いかん。これは獰猛な虎だぞ。安心していいわけない。」と心の中で自分に言い聞かせるのだが、やはり愛嬌があるように思えてならない。最終的には「なんだろう、虎でもあるのだが、猫にも見えるぞ。不思議だなあ。」と思ってこの「虎図襖」を見つめていた。まあ、これが私の率直な思いである。

構図の大胆さと、迫力さを描かせたら芦雪に勝る絵師は日本にはいないのではないだろうか。本当に単一な色で描かれてるのに、ここまでも心に訴えかけてくる迫力とはいったいなんなのだろう。

これが芦雪の持っていた熱量であったのだろうか。
本当に面白い奇想の絵師であり、ユニークな視点とアイデアでいっぱいのクリエイターだったのであろう。

それを如実に感じた作品は、「虎図襖」・「龍図襖」はもちろんのこと、
私的には「孔雀図」と「岩浪群鳥図襖」、そして「宮島八景図」も印象的であった。

長沢芦雪「孔雀図」(静岡県立美術館所蔵)

この「孔雀図」は構図が面白い。
視点が上から下へと自然に移っていくからだ。

右上には孔雀に頭が描かれており、その体の流線に沿って徐々に左下へと視線が移っていく。左下には目を引く立派な孔雀の羽が描かれており、大変美しい。しかし、孔雀にだけ視点を集中することはできない。なぜなら、孔雀の近くには、たくさんの小さな鳥たちが集まって囁き合っているからだ。
雀やカッコーのような野鳥(鳥にあまり詳しくないので、詳細は書けません。すみません。)、そして足元の岩肌には、美しい牡丹の花が咲き乱れている。加えて、よ〜く目を凝らしてみると、地面には蟻や蜘蛛がせっせと一生懸命に歩いているではないか。なんとモチーフが多く、緻密な精度を感じさせる作品なんだろう。見ていてたくさんの発見があって、ワクワクする。

長沢芦雪「宮島八景図」(文化庁保管)

また、「宮島八景図」は上から眺めて描いたのだろうか、どこからあの美しい宮島を描いたのか想像が膨らんでいくこの作品も見逃せない。

見ているこちらを、まるで雲の上から宮島の美しいその姿を眺めているかのような心地にさせる。おそらくどこか山や丘の上から描いたのだろうが、平面図で描かずに高い視点から描いたアイデアはなかなか面白い。
ドローンがあって、ドローン自体が光の作品を作り出している昨今では、空中から見た風景やそれを描いた作品は物珍しいものではないのかもしれない。しかし、私は当時の芦雪の熱量や奇想天外なアイデアを感じ取れるような気がして、とても好きな作品である。

長沢芦雪「岩浪群鳥図襖」(奈良県 薬師寺所蔵)

この「岩浪群鳥図襖」の作品はユニークである。
2つの視点からこの作品は鑑賞することができるように感じた。

1つ目の視点は、「岩の上から仲間を呼んでいる鳥たち」という視点だ。
ずっと飛び続けてきた鳥たちのグループは、どこか休める場所はないかと探していた。すると、海上にちょうど良さげな岩があって、先発組がそちらに飛来する。なんとか詰めたら、狭い岩の上だがみんな休めそうだと判断して、残りの仲間たちに「おーい、ここだ。ここで休もう。降りておいで。」と声をかけていたり、「ここは波が高いから、降りる時気をつけてくれー。」と声をかけているかのような風景が読み解ける。

2つ目の視点は、「これ以上ムリ」と叫んでいるという視点だ。
先に岩の上にたどり着いたのはオレたちだから、「ここに来るんじゃない。よそをあたりな!」と必死に叫んでいるかのような構図。これ以上、スペース的にムリと飛来しようとしている鳥たちに訴えかけるような雰囲気、これも面白い視点だなと思う。

個人的には、願わくば1つ目の視点のように仲間を思いやる世界観であればいいなと思うのだが。

色々と語り尽くしたいことが数多あるが、とにかく今回の「奇想の絵師 長沢芦雪展」は非常に実りある展覧会であった。初めて知った長沢芦雪という絵師だが、今回の展示会で私の好きなアーティストの一人になったとしみじみ思う。日本画の勉強も少ししてみたいなとも思えた。

この素敵な展示会を開催してくれている大阪中之島美術館に感謝です。
是非とも多くの人たちが芦雪のその熱量と緻密な筆使いを目撃することを願っています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
Bless you :)


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