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イヌえもん(SFショートショート)

 あらすじ
 日本の総理の執務室に、思わぬ訪問者が現れたのだが……。



 私は日本の総理である。東京都内の選挙区で当選を重ねた衆議院議員で現在70歳だ。父親も祖父も政治家だった。私は父の1人息子だ。私に息子はいないが1人娘がいるので、ゆくゆくは政治家になってもらうつもりである。          私が首相に選ばれた時内閣支持率は高かった。政界のサラブレッドだから当然だ。
 が、最近内閣支持率も与党の支持率も下がっている。与党内のライバルや、野党やマスメディアから、辞めろだの何だのと批判されていた。
 特に与党内のライバルからは、技術力低下に歯止めをかけるため基礎技術研究に金をかけろだの、庶民の生活を楽にするため低所得者の所得税を下げろだのと批判されている。
 支持率を上げるためには、藁にでもすがりたい状況だ。執務室の椅子に腰かけ、机上のパソコンを前にしながら、私は頭を抱えていた。
 その時私は執務室に1人でいたが、何もしてないのに、突然机の引き出しが開く。引き出しが腹にぶつかって、私は椅子ごと後ろにひっくり返った。  絨毯を敷きつめた床から痛みをこらえて腰を上げる。驚く事に引き出しから、柴犬の姿が現れた。
 いや、よくよく眺めると、それは決して犬ではなく、犬の形をしたロボットのようである。
「はじめまじで。ぼきゅ、イヌえもんでしゅ。ガー、ピピー」
 ロボットが口を開いたが、音声を発する機能に問題があるようで、なめらかな口調ではないし、ところどころノイズが混じって聴きとりづらい。左右の耳の大きさと形も微妙に違うし、歯並びも悪かった。やっつけ仕事で作ったようなロボットだ。 
「イヌえもん? 一体君はどっから来た!?」
 私は、信じられぬ気持ちでそいつを見つめながら、そう聞いた。
「22世紀の未来でしゅ。日本のピンチを救いに来まじだ。ガー、ピピー」
「それは、ありがたい。君は多分ドラえもんの犬版だな」
「そうでしゅ。ガー、ピピー」
「だったら秘密道具を出して、私の支持率を上げてくれ」
「無理でしゅ。22世紀の日本はもはや技術大国ではないのでしゅ。なので秘密道具みたいな物を作る技術はないでしゅ。ガー、ピピー」
「だったら、何をしに来たんだ!?」
 私は激高して、詰め寄った。
「日本が没落した理由の1つは、基礎技術の研究に力を入れなきゅなったからでしゅ」
 イヌえもんが、口を開いた。
「日本の未来をよくしゅるためには、基礎技術の研究に理解ある人に総理をやってもらうべきでしゅ。ガー、ピピー」
 そう指摘され、理解ある人物というのが、与党内のライバルだと気がついた。いつのまにか、イヌえもんの前足というか右の手に、ピストルのような物が握られている。
「私を殺すのか!?」
「違いましゅ。この銃から放たれた物を浴びると、あなたは1か月程意識不明になります。代わりにあなたのライバルが総理になって、日本は技術大国として復活します。ガー、ピピー」

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